第7話 至って普通の告白
まるで人類すべてを溶かそうとするような夏の日差しから逃れるように、カロンコロンとドアベルを鳴らし、私とワタナベくんは喫茶店へ入った。
近くとはいえ駅より少し行った場所にあるためか、はたまたこの暑さの中外出しようと思う者が少ないのか、他にお客は中年のダンディなおじさんが2人、窓際に白髪の老夫婦が1組いるだけである。
店内は木目調で、観葉植物が規則正しく置かれた落ち着いた内装だった。そして、カウンターの向こうには、まるでそうなるべくして生まれてきたかのような、貫禄あるマスターがコーヒーを注いでいる。
場違いな雰囲気に面食らい、入り口で立ちんぼしていた私たちに、ご自由にどうぞ、とマスターが言う。私たちはその声でわれに返ったかのようにそそくさとカウンター近くのテーブル席に座った。
「何か、俺たちには早すぎる店みたいだね」
「そう?ちょっと驚いちゃったけど、素敵なお店じゃない。3時間並んでタピオカミルクティーを飲むくらいなら少し勇気出してこういうお店に来るほうが幾分マシよ。タピオカは未経験だけど」
「飲んだことないのによく言えるな。でもまあ同感なんだけど」
ウェイトレスが注文を取りに来たが、メニューを見てもよくわからなかったので、とりあえずブレンドを2つ注文した。
「で、話ってなに?」
唐突にワタナベくんが切り出した。
「びっくりした。もう少し思いやりを持ってよ。私だって心の準備とか忙しいんだから。心が読めるんだから簡単なことでしょ」
「だからこそだよ。君が話すか話すまいかしているのはわかっているからね。で、折角の安息日を使ってこんなところまで来たんだ。言いたいことは言ってもらうし、その後押しをしたまでさ」
「ほんと、意地が悪いね。……まあ、いいや。結局は言うんだしね」
テーブルにブレンドが2つ置かれた。ウェイトレスがカウンターのほうへ戻るのを待ち、私は少し姿勢を正し、告げた。
「友達をつくりましょう」
日常奇譚 小手 さき @ryu-u
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