第25話 旅立ち

 出発の朝が来た。


 狩猟祭は3日間の日程をなんとか無事に終え、打ち上げを経て解散となった。

 獣人組もスピネル組も大量の小麦粉の袋をマジックバッグに詰め込み満足そうだった。

 なんでも穀物があまり採れない地域だそうで、小麦は大変喜ばれるそうだ。

 金と酒の分も小麦で欲しいというぐらいだから相当なのだろう。


 俺の方はと言えば、すでに短期転勤(?)が決まっている以上倉庫の中の獲物はすべて解体しなければならず、打ち上げにも参加せず夜まで獲物を黙々と解体する実に寂しい閉幕となった。



 愛用の仕事道具ナイフ達と少しの着替え、使えそうな素材を厳選しマジックバッグに入れる。相棒のスライムちゃんも小さな樽に移した。


 サハテイ村に来た時も似たような持ち物だったなと思い出しながら

 初めて来たときは埃をかぶっていた作業場を眺める。

 それほど長い間いたわけではないが、やはり仕事場に愛着はある。


「戻ってくるさ。必ずな・・・」


 自分に言い聞かせるように呟いて作業場を後にした。



 ギルドを出るとミセリが待っていた。


「おう、お見送りありがとな。しばらく留守にするけどよろしく頼むよ。」


「ちゃんと帰ってくるんでしょうね」


「当たり前だろ」


「あんたみたいなハンパもんのために籍を空けておく寛大なギルドなんてここしかないんだからね!感謝しなさいよ!」


 ミセリはフンと鼻を鳴らしてギルドに戻っていくが

 玄関のドアの前で立ち止まり振り返る。


「ずっと待ってるからね!」


 と俺に向かって叫ぶとドアを勢いよく開けてギルドの中に駆け込んでいった。


「心配するな!行ってくる!」

 俺はギルドの中にも聞こえるように呼びかけガッツポーズを決めてギルドを後にした。



 集合場所に向かうと、スピネル達はすでに馬車の準備を終えて俺を待っていた。

 アルルや村の住人もちらほら集まっている。


 村長が手を差し出してきたので握手を交わす。


「バラシくん。道中くれぐれも気をつけてね。多分、驚く事も多いとは思うが、見た目ほど危険はないはずだ。」


 俺はお化け屋敷にでも連れていかれるのか。


「含みありますね。まぁ、言えないことがあるんでしょうけども。」


「察してくれて助かるよ。さ、みんな待ってる。行ってやってくれ。」


 村長に送り出され村人たちとも挨拶する。

 生水は飲むんじゃないよとかお腹冷やすんじゃないよとか村のマダム達に言われるが子供扱いはやめていただきたい。ガキどもよ、お土産はワイバーンの肉でお願いとか言われても困るぞ。遊びに行くんじゃないからな。


 それでも心配してくれているのはわかる。いい住人達だ。ほっこりする。

 それぞれとハグをし、握手を交わし、馬車に向かうとアルルが待っていた。


「アルル、今回はすまないな。留守を頼んでしまって。」


「ううん、しょうがないよ。あたしが勇者だから・・・」


 アルルは無理矢理な笑顔を見せる


「たった2ヶ月だ。すぐに戻るさ。」


「あたしが勇者じゃなければよかったのに・・・」


 俯きながら震えた声で言う


「勇者じゃなかったら一文無しになって出会うこともなかったぞ。勇者だったから出会えたんだ。運命を呪うよりも感謝しようじゃないか。」


 ぽんぽんと緑灰色の髪を撫でる。


「うん・・・そうだね。そうする。だから絶対無事で帰ってきてね。あたしの婚約者なんだから!」


 目元を袖でぐしぐしと拭い笑顔を見せるが

 まだ婚約者とか言ってるのか。


「アルル、前々から聞こうと思っていたんだが、どうして俺はそんなに懐かれているんだ?心当たりがないのだが。」


 これは本心だ。鈍感とかそういう話ではない。


「積み重ねってやつかな。嫌なの?」


「好かれるのが嫌というわけではないが、勝手に婚約者とか言われるのは嫌だな。」


 積み重ね・・・ねぇ。

 そういう事にしておくか。


「じゃあいずれって事で!今は仲間だね!」


 アルルは手を差し出す


「そうだな。仲間だな。」


 笑ってアルルと握手を交わすと俺の手から何かが抜けていくような、アルルの手から何かが流れ込んでくるような感覚がした。

 アルルを見ても特に反応する様子はない。気のせいか?


 握手をしたままハグをして耳元で皆を頼むと囁く。

 アルルはうん、待ってると返した。




「バラシはんも罪なお人やねぇ。キスのひとつもしてあげればええのに。」


 馬車に乗り込むとスピネルが冷やかす

 黒い3人組もふふふと笑っている。


「よせよ。今生の別れでもあるまいし。」


 スピネルが出してんかと声をかけると森のある北へ向けて馬車はゆっくりと走り出す。

 誰が御者をやってるかと思ったらベインとアッシュだ。途中まで一緒に行くらしい。


 外を見ると村人たちが手を振っている。

 俺も後部ドアを開けて手を振る


「みんな元気でな!必ず帰ってくるから心配しないでくれ!」


 死ぬつもりはない。

 必ず帰ってくる。

 自信もある。

 しかしこれが最後の景色かもしれないと思うと目頭が熱くなる。



「くそっ、今生の別れでもあるまいし・・・」


 震える声で呟く



「心配すんなや、天才錬金術師のウチもついとるさかいな。大船に乗ったつもりでいるとええ」


「すまん・・・」


 目元を袖で拭い顔を上げる。

 これは生きるための旅立ち。涙はなしだ。


 迷わず行けよ、行けばわかるさ。

 って偉い人も言っていた気がする。


 何が待っていようと俺がやることは変わらない。

 魔物と向き合い、素材の声を聴き、その力を引き出す。


 それが解体屋の生き方であり


 俺の誇りなのだ。



―――――あとがき―――――

カクヨムには後書き欄がないようなのでこちらに。


これにて第一章の完結です。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

予定よりも少々長くなってしまいましたがいかがでしたでしょうか。

ご好評いただければ第二章も書きたいと思っています。


カクヨムだとどれぐらいを目標にすればいいかちょっとわからないんで具体的にどうなれば再開とお約束できないのは心苦しいのですが、ご了承下さい。


フォローとかレビューとか応援コメントとかお待ちしております。

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