第24話 森の王対策会議

 その夜、俺たちは村長宅に集まっていた。


「それでは第5回、森の王の無茶振り対策会議を始めたいと思いまーす!はい拍手~」


 アルルが宣言し、まばらな拍手が上がる。

 ここにいるのは俺、スピネル、黒い3人組。ここまではいい。

 そして獣人ペアと村長とアルルまでいる。


「いろいろツッコミたいところはあるが、なぜアルルがここにいる」


「村長にお世話になってるから当然でしょ?」

 何が当然なのか問い詰めたい。


「大事な話をするからちょっと部屋の外に出ていような?」


 アルルの背中を押してドアの外に退場させる。

 未来の嫁に何をするだーとか言ってるが気にしない。




「バラシも感付いていたとは思うけど、アッシュさん達とスピネルさん達は私が頼んで来てもらった人たちだ。お互いの事情はある程度理解しているものと思ってくれていい。」


 村長が説明する。


「あれ?でもスピネルとは初対面でしたよね?」


「せやで。誰が行くかまでは伝えてへんかったさかいな。」


 スピネルが答える。

 なるほど、納得できる部分ではあるが、何か引っかかるな。


 ひとまず俺の要件を伝える。


「森の王の素材を加工するにあたり、ある程度近くて設備が整っている所を頼りたいと考えています。すでにアッシュさんとベインさんには打診しましたが、できればガイアさん、あなた方の武器を作った所に力を借りたいと考えています。可能でしょうか。」


 ガイア達の方を見るとうーむと考えている


「理由を聞いても?」


 マッシュが聞いてくる。3人組のクロスボウ担当はうんうん頷いているが喋る気配がない。

 まだ名前も聞いてないんだよな。名簿を調べておけばよかった。


「理由はあなた方の武器の素材、ウォルフラムです。俺の見立てが間違いでなければあの武器を作るためには超高温の炉が必要なはずです。それをお借りしたい。それに、要請を受けてこの村に来ることができるのであれば領地まではそれほど遠くないと考えましたが違いますか?」


 マッシュはうろんげな表情で俺を見る


「時間がかからないのはその通りだが、ウォルフラムの製法は秘中の秘。なぜおまえが知っている。」


 あっ、しまった。

 元々知っていたとは言えないし言っても信じてもらえないだろう。


「それは・・・」

「昔ウチと一緒に研究しとったからな」


 言い淀むとスピネルから助け船が出る。

 ありがたい。スピネルちゃん天才か。

 マッシュも一応は納得してくれたようだ。


「まぁそんなところです。それでどうですか?お借りできますか?」


「多分大丈夫と思うわ。バラシだけなら。」

「うむ。」


 スピネルの言葉にガイアも頷く。


「だけなら、というのはどういう事で?」


「アルルはんを連れて行くのだけはあかんねや。」

「ま・・・御屋形様は教会がお嫌いでな。」


 ああ、勇者は教会の所属だからマズイのか。

 それなら何とかするしかないな。


「俺がアルルを説得しますよ。」

「絶対や。絶対あかんからな。フリちゃうで!」


「わかってる。他に条件はないのですか?」


「あるにはあるけどなぁ。研究成果は提出する事になるやろし、もしかしたら村に戻れんくなるかもとか、ちーとばかし怖い目に会うかもとかな。でもバラシはんからしたらまずはこの2か月の話やし、関係ないやろ?」


「そりゃまそうだな。」


 何もしなければ死ぬのだ、怖いとか言ってる場合ではない。

 痛いのも怖いのもないに越したことはないのだが。


 目線を獣人の二人に移す。


「というわけで、こちらから相談しておいて申し訳ないのですが、スピネルの方に頼むことになりました。こちらも命がかかってるんで、すみません。」


 ベインは見るからに落胆している。


「しょうがないか。そっちの方が設備は揃ってるしスピネルちゃんもいるから研究も捗るだろうしな。剣は残念だが・・・」


 アッシュが立ち上がる


「いや、我々も同行して協力するぞ。」

「えっ?お嬢何言ってるんですか?」


「ほら、私は魔法も使えるし、道中の護衛も必要だしな!」

「お嬢、行き先わかってて言ってます?」


 アッシュはしゅんとして腰を下ろす。銀髪のイヌ耳がペタンとしている。

 獣人族はスピネルの本拠地の貴族領を知っているようだな。口ぶりからするとアッシュが同行しても意味がないほど安全、あるいは魔法がとても発達している場所という感じか。


「しかし・・・森の王ユカムニタプの剣があれば我らの里も・・・」


 アッシュはどうしても剣が欲しいらしい。

 森の王ゆかりの武器だと何かいいことがあるのだろう。


「森の王に納品しに行くときに同行してもらえばえんちゃう?森の中は獣人族の方が詳しいやろ」


「そうですね。森の王はどうやって渡すかとかも言わなかったですからね。あらかじめ住処を調べておいてもらえると助かります。」


 アッシュはぱぁっと表情を輝かせ再び立ち上がる


「そうだろう!森の事は我らに任せるがいい!それがいい!そして我らにも森の王ユカムニタプの恵みを!」


 欲望だだ漏れじゃないか。案外ポンコツだなこのお嬢。

 ベインはため息をついている。


「なんかすみませんね、お嬢が無理言っちゃって。」


「いえいえ、こちらも助かりますから。危険がない程度でお願いしますね。」


 そうは言ったが、俺は森の王の住処を探す必要はないと思っている。

 受け渡し方法を指示しなかったのは森に入れば向こうから現れるか、後から指示する方法があるかだろう。俺にかかった呪い自体が位置情報を兼ねている可能性もある。


 それでも獣人族に依頼と報酬を用意しようと思ったのは納品するタイミングで『殺してでもうばいとる』という選択肢を取られる可能性を消したいからだ。

 獣人族からすれば剣さえ手に入れば俺が生きようが死のうが関係ないのだから。


 その後もいくつか細かい確認をし、おおよそ話が出尽くした所で村長が立ち上がってパンパンと手を叩く


「話はまとまりましたかね。明日は狩猟祭の最終日なので出発は明後日という事でよろしいでしょうか。」


 皆が頷く。


「今日はもう遅いですから部屋を用意しておきました。そちらでゆっくりしていってください。」


 村長が皆を連れて部屋を出ていく。

 俺はアルルの説得をしないとだな。

 だだをこねなければいいのだが。


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