第23話 試食

 試し切り大会という余興が入ったがここからが俺の仕事だ。

 ぶっちゃけ未知の獲物なので解体が楽しみでしょうがない。

 と言っても、ただのバカでかい指なんだけどな。


 森の王の指を試し切り会場から作業台に戻し、作業に入る。


「まずは皮を剥ぎたいわけだが・・・」


 手の甲側は体毛で覆われていて、手のひら側には毛が無い。

 毛がないところには細かい鱗があるところを見るに、体毛は鱗が変化したもののようだな。

 鱗があるところとないところの境目から切っていくのがよさそうだ。


 切断面からワイバーンの逆鱗を使った皮切りナイフで切れ目を入れて・・・いく。

 逆鱗ナイフですらスムーズに切れないとはな。柔軟性はあり硬いわけではないが耐刺突性が高いのだろう。ここまで刃が通らない皮ともなると剥いでも加工はできないかもしれないな。


 皮は切りにくいが肉と皮の間は問題なく剥がせそうなのでナイフを取り換えて剥いでいく。

 肉が徐々にあらわになるが・・・ほとんどが白っぽい腱ばかり。これは食えない気がする。


 皮を一通り剥いだら骨から肉を切りはがしていく。

 ううーん、ほぼ脂と腱だな。

 巨体の体重を支えるからか骨がえらい太いせいで量も多くはない。


「スピネル、一応毒チェックしてくれる?」

 肉部分をスピネルに渡し、切れ端を口に含んで味を確認してみる。

 毒チェック前だから飲み込まない。


 もぐもぐ噛んでみるが、硬い。タイヤを噛んでいるような硬さだ。

 顎がものすごく鍛えられそう。味もしないな。


「バラシはん、毒はなさそうやで。」


「じゃあそのまま肉のチェック頼むわ」


「はいな」


 肉をチェックするというのは、肉を小分けにして、煮たり焼いたり乾燥させたりして特性を調べてくれという事だ。モノによっては食用に適さなくても薬の材料に使えたりする。


 俺の方は骨と爪をつなぐ腱を切りはがしにかかる。力がかかる部分だからかこいつは硬いな。逆鱗ナイフを使おう。


 腱をゴリゴリと削っているとにわかに甘い香りが漂ってくる。

 なんだ?誰か甘味スイーツでも作ってるのか?



「うんまぁ~~~!」

「あまああああーーーい」


 声がする方を見るとスピネルとアルルがはしゃいでいる


「バラシ、バラシ、これ!」


 アルルがハイテンションで指についた琥珀色で半透明なモノを食わせようとする。

 え?これをしゃぶれと申す?とドン引きしていると無理矢理口に指を突っ込まれる。


 ん!?あまーい!何だコレ。

 蜂蜜とはまた違う濃い甘み。ドンと甘みが来てスっと引いていく感じ、ねっとりとした食感と合わさり上品な生キャラメルのようだ。

 甘味なんていつぶりだろうか。癒されるわー


 アルルが言うには腱を焼いていたら腱の内部から突然液体が溶け出てきたらしい。

 味見した感じでは体にいい効果がありそうとのこと。

 ざっくりだな。


「アッシュで実験してみればいいんじゃない?」

 さっきぶっ倒れてたからちょうどいい


「うん。いってくる!」


 アルルはまた指先に液体をつけて休憩所に走っていった。

 せめて匙か何かで持ってってやれよ・・・野生児すぎるだろ。



 さっきまで俺の解体を見物していたギャラリーがこぞってスピネルの方に移動している。

 この村では甘味がレアなのはわかるがみんな食い意地張りすぎだ。

 あ、列ができてる。あまりの人数に対応できなくなったか。

 うまーいとかあまーいとかしみるわーとか若返るーとか聞こえる。


 ギャラリーがいなくなっても俺がやることは変わらない。

 別に注目されなくて寂しいなんてことはない。断じてない。


 腱が有効活用できそうなのでなるべく丁寧に腱を処理する。

 接合部の腱をはがして爪がゴロンと転がり解体は終了だ。


 爪がおよそ35㎏、骨がおよそ25㎏、皮と毛が6㎏、腱と脂が8㎏ってところか。

 骨が爪と比べて軽いのは密度の問題だな。

 過去に見ないものなので金額に換算はできないが売れば王都に家が立ちそうだ。


 道具を片付けながら素材の整理をしているとアッシュとアルルが戻ってくる。ベインも一緒だ。


「アッシュも動けるようになったみたいだな。」


「アルルにもらった蜜?を舐めたらみるみる魔力が戻ってきてな。すっかり元気になれたよ。感謝する。」


 で、もっと欲しいから来たわけだ。


「あの蜜は売ってはもらえぬのだろうか?金ならいくらでも出す。里の者たちにも味わわせてやりたい。」


 仲間思いっぽい口ぶりだがよだれが垂れているぞアッシュ。

 売っても里に帰るころには無くなってそうな雰囲気だ。



「今の段階で売るのは無理ですね。未知の素材なので研究と解析が先です。あの蜜にしても食べるだけではなく薬や酒になるかもしれません。」


「あの蜜を酒にするなどと世界の損失であろう」「いやいやお嬢、酒にした方が効果が高まる可能性がありますよ?伝説にも神酒ソーマがあるぐらいですし」


 甘味が欲しい女子と酒が欲しい男子の戦いが勃発しているようだ。


「森の王に剣を納品した後ぐらいにはお譲りする事もできると思いますよ。俺が生きていればね。」


 暗に俺が生き残るように協力しろと主張する


 アッシュとベインは顔を見合わせ頷く

「獣人族はお主が森の王ユカムニタプの依頼を完遂するために協力する。まだ里長に話は通してないが私が説得するから大丈夫だ。」


 説得のためにもいずれ礼はしてもらう事になるがな、とアッシュは続けた。

 よし、言質は取った。あとはスピネルの方だな。

 タングステンを加工できる技術、それを借りられれば成功にかなり近づくだろう。

 言い方は悪いが獣人族の方は保険になった。


 素材のチェックをしているスピネルに声をかける


「スピネル、今でも後でもいいけど話できるか?」

「森の王の話なら後にしよ。人がおらん場所の方が都合がええわ。」


 スピネルは村長を手招きする


「村長はん、今日の夜村長はんの家借りて話し合いがしたいんやけどええかな?」


 村長は頷く

「いいですよ。用意しておきましょう。」


 どうやら立ち話で済むような話でもないらしい。

 ハミルトンって貴族はそんなに偏屈なのかねぇ。


 何にせよ今夜の話次第という事となりそうだ。

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