第22話 試し切り
呪いの見分が終わり、上着を着て獣人の二人に礼を言い作業場に戻ると人だかりができていた。
なんだなんだ?
人だかりの中心には作業台に置かれた森の王の指と、白衣を着て手袋をしたスピネルがいた。試験管を持って真剣に作業をしてる。血液の採取のようだ。
「スピネル、首尾はどう?」
「ええ感じやで。小瓶で10本分、2リットルってとこや。せやけどこれ以上はちょっと抜ききれへんかもな。」
じゃあ俺の出番だな、と
「バラシさんよ、そいつを解体する前にちょっと試し切りさせちゃもらえないかね。」
ん?試し切り?
「俺たちの武器が森の王とやらにどれほど通じるのか知りたいのさ。」
「爪なら大丈夫かな?」
と横を見るとスピネルは頷いた。
突発的に試し切り大会が始まる事になった。
皮や肉が傷むのが嫌なので攻撃対象は爪のみとした。
1番手はガイア。
武器はウォルフラムの長剣だそうだ。
ウォルフラム・・・ウォルフラム・・・
聞いたことあるがなんだったか。
ん?タングステンの別名じゃねーか!どうりで重いはずだ。
タングステンは重く、硬く、とにかく熱に強い。加工するために必要な温度はおよそ3000度で燃料でなんとかなるような温度ではない。
この世界にタングステンを精製する技術があるとは思わなかった。
剣を構えて集中するガイア。観客も息を殺して見守っている。
「ぜあっ!」
カッと目を見開き剣を振りぬくと金属音が響く。
おおっ!と観客がどよめく。どうだ!?
ガイアの剣は折れていないが爪も切れていない。
「これは硬いな。想像以上だ。」
ガイアは苦笑しながら右手首をプラプラと振っている。
衝撃が手首に返ってきてしまったようだ。
爪の方にはちょっぴり傷が入っているが概ね無事だ。
ガイアに長剣を見せてもらったが大きな刃こぼれはないようだった。
「この長剣もたいがい傑物ですね・・・」
2mの仲間をぶん投げるガイアの力をもってしても折れない剣と切れない爪。
人が扱うには過ぎたアイテムと言う他ない。
「さーて次は俺にやらせてもらおうかな。」
村の女子(年齢不問)の方からやだイケメンとか抱いてとかあと30年若ければとか聞こえる。
ベインが大きい方の曲刀を両手で構える。
ベインの武器も変わった素材でできていて、サーペントの牙を使ったものらしい。特性は切れ味寄りで曲刀向きとのこと。
森にもサーペントがいるんだな。
ベインは鷹揚に上段に構えると一気呵成に振り下ろす。
高い金属音が鳴り何かが高速で空へ飛んで行った
「危ない!みんな離れて!」
村長が注意を促す。曲刀の一部が折れたようだ。
飛んで行った破片は結局どこに落ちたかわからなかったが事故がなくてよかった。
そして爪には深さ2cm程度の切り傷が残された。
「うーん、俺もまだまだ未熟だな。」
ベインは曲刀の折れた剣先を眺めながら苦笑いだ。
硬さを追求すれば切れ味が足りず切れ味を追求すれば耐えきれない。
武器づくりの永遠のテーマだな。
「では私にやらせてもらおう。」
3番手はアッシュのミスリル剣。
ミスリル剣は魔力を流すことで強くなるらしい。
どういう方向に強くなるのかは知らないが、強くなるらしい。
構えは突き。腰を落とし斜に構え、持ち手を引き、切っ先に手を添える。
あの構え見た事あるな。悪即斬って雰囲気がする。
アッシュの額に汗が光る。
見た目ではわからないが魔力を込めるなにがしかを行っているのだろう。
「はあッ!」
電光のごとき突きが森の王の爪に突き刺さる。
明らかに今までと違う雰囲気におおっ!っと周りから歓声が上がる。
ミスリル剣は爪を貫いたものの、貫いたままそこに残っている。
アッシュは膝をつき肩で息をしている。引き戻す力が残っていなかったようだ。
「ハァ、ハァ・・・獣人族の・・・を・・・たか・・・」
声にならない声でアッシュが何か言ってるが全く聞き取れない。
力尽きたアッシュはお供のベインに剣を抜いてもらい、肩を借りて休憩所に向かう事になった。
「はいはーいじゃあ最後はあたしだよー!」
美少女勇者アルルちゃんのポーズを取っている。
武器はもちろん信頼と実績の逆鱗剣ことワイバーンの逆鱗マチェットだ。
うーん、切れるにしろ切れないにしろ近くにいるとまずい気がするな。
村長に目配せすると村長も頷いた。
「みんな、もうちょっと離れてくれないか。何か飛んで来たら危ないからね。」
スピネルもいるので致命傷でなければポーションで治せるとは思うが怪我がないに越したことはない。
「よーしいいぞ。やってくれ」
みんなが十分離れたのを確認して指示を出す。
アルルは逆鱗剣で何度も爪に触れ、位置を確認している。
そしてゆっくり振りかぶり
「ハアアアアアアアァァィ!!」
振りぬいた。
アルルがゆっくり立ち上がると、森の王の爪は切られたことを思い出したように切断面から滑り落ちた。
ひときわ大きな歓声が上がる。
アルルは周囲に手を振りながら俺の方に歩み寄り逆鱗剣を差し出す
「バラシごめん、約束守れなかった。」
約束?いぶかしげに逆鱗剣を受け取ると赤い刀身が真ん中から二つに折れた。
そうか、もたなかったか。いやむしろよくもったと言うべきか。
森の王の指を切り飛ばし爪を叩き斬れば武器のダメージも相当なものだろう。
「仕方がないさ。そんな顔するな。この剣もよく働いてくれたよ。」
申し訳なさそうなアルルの頭をぽんぽんと撫でてやる。
また作ればいいさ。
森の王の剣と一緒にな。
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