第19話 フォーメーションJ
一時はパニックになりかけたブレードベアの襲撃も残すは1体となった。
最後の1体はブレードベアの中でも大型の個体。
後ろ足で立った時の大きさは4mはあるだろうか。
対峙するのは長剣持ちのガイア率いるおそろいの黒い皮鎧を着込んだおっさん3人組。
「加勢はいるか?」
遠巻きに見ている獣人のベインが声をかける
「助太刀不要!」
長剣を構えるガイアが答える
「フォーメーションJでいくぞ!」
「「応!」」
ガイアが指示を出すとクロスボウと両手斧の仲間が応える。
黒い3人組でJ・・・やっぱアレかな・・・
長剣のガイアがブレードベアの正面に構え、ガイアのやや斜め後ろで両手斧が隙を伺っている。クロスボウは正面かなり後方で構えている。
ガイアはブレードベアの爪をかわしながらカウンターを仕掛ける形で前脚を切り付けている。致命傷を与えるための攻撃というよりは牽制のための攻撃、しかし牽制とは言え巨大熊の正面で立ち回るのだ、並の胆力ではない。
ブレードベアに我慢の限界が来たのか大きく踏み込み両腕を広げ1本1本がナイフのような爪を両腕を交差するように切り付ける。
まずい。あれは避けられない距離だ。
「危ない!」
俺は思わず叫ぶ
爪を受け吹き飛ぶ長剣
ガイアの体も後方に吹き飛ぶ
・・・いや、自ら飛んだ?
ガイアは長剣の切っ先をブレードベアの眼前に残し後方にジャンプしたようだ、熊は目の前に突き出された長剣に一瞬の躊躇を見せる。
それと同時に弓弦の音が響き渡り、大振りになるタイミングを狙って放たれたクロスボウの矢が右目に刺さる。痛みに叫び声を上げる巨大熊。
その隙を逃す3人組ではなかった。
「今だマッシュ!」
「おうよ!」
ガイアが熊に背後を向け両手を組むとマッシュと呼ばれた両手斧の仲間が助走をつけガイアの両手を踏み台に空高く飛び上がる。
「大ッッ!!!車輪斬りいいぃ!!」
そして飛び上がった勢いそのままに前方宙返りを2回決め、振り回した両手斧をブレードベアの脳天に叩きこんだ。
「う、う・・・」
「うおーーーー!」
「なんだあれーーー!」
あまりの大技に上がる歓声。
先ほどまでの緊張感が嘘のようだ。
避難しようとしていた村の子供たちも目を輝かせている。
すげー!かっけー!などと大興奮だ。
中には二人で真似してジャンプに挑戦しようとする子供までいる。
しばらく村で流行りそうだな。
見ればベインが両手を組まされそれを足場に銀髪の獣人アッシュがジャンプしようとしている。
すぐにやってみたくなるとか子供か。
あ、すげー飛んでる。やっぱ獣人は身体能力高いな。
アルルが並んでる。お前もやってみたいのか。
なんにせよブレードベアは全滅。これで一安心だ。
「すごい大技でしたね。あんなの初めて見ましたよ。」
ガイアに話しかける。近寄るとやはり大きい。3人組は皆2m近い身長がある。
それを装備込みで放り投げるんだからどんな馬鹿力か想像もつかない。
あるいは勇者のような人の枠を外れた剛力なのだろうか。
「それほど強い魔物でもなかったんでな、盛り上がっただろう?」
ガイアはニヤリと笑う。
両手斧のマッシュもこちらにやってきた。
「本来は壁の上など高い位置にいる相手を奇襲するための技だ。魔物の頭を殴るなら転がしてから殴るのがセオリーなのは言うまでもない。よい子は真似をするんじゃないぞ。」
手遅れです。もう大流行です。
「お前さんこそやられたと思ったが傷は大丈夫なのか。」
「スピネルのおかげで動けるようになりましたよ。二度目はないですがね。」
破れてボロボロになった背中を見せる。
「ほほう。この防具のおかげか。面白い作りだ。見た目より丈夫なようだな。」
ふむふむとガイアとマッシュが俺の背中を見分している。
なんか変な感じだ。
「しかし、ブレードベアがこうもまとまって出てくるとは、森で何か異常が起きているんですかね?」
俺は思った疑問を口にする
「何やら森が騒がしい気はしたが普段と比べて異常という程ではなかったぞ」
アッシュとベインの獣人ペアとアルルもやってきた。
「我々の方も特に変わったことはなかったな。」
ガイアと仲間たちも頷いている。
うーむ。異常はなかったのか。
「皆さん、一度出張所に戻って一休みしませんか。武器の状態も一度確認させてください。」
俺が提案する。ブレードベアの攻撃を受け流せば多少なりとも装備にダメージがあるはずだ。安全のためにもひとまず確認したい。
皆もいいだろうと頷いている。
それではと出張所に向けて歩き出したところでスピネルが立ち止まる。
「なあ、なんか地面揺れてへん?」
言われてみればかすかに揺れているような?
と思っていると徐々に揺れが大きくなってくる。
「地震か!?」
「違う、これは振動だ!」
地震のような長い揺れではなく、断続的な振動。
それが大きくなってきているという事は・・・
皆の視線が森に集まる
何か巨大な影が見えたような気がした。
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