6 静寂
深くよどんだ大気の中、私はひとりたたずんでいた。
同胞達は次々と消えてゆき、想いを交わす相手もなく、私だけが残されてしまったのだ。
周りにあるのは、おぞましい毒気を含んだ風と大地、心地良かったはずの雨も、今は身を焼く毒液と化した。
ーーすべてはあの、小さな連中のせいなのだ。はるかな昔、ひ弱な彼らにいたわりと恵みを与えてやったことが、誤りだったのだろうか?
彼らがその内に、これ程の禍々しい牙を育てていたとは……。
しかし、その彼らも既にいない。
大地にあふれる程にいた彼らは、おのれ自身の牙によって一人も残さず滅んでしまったのだ。
ーー疲れた。
遠くで雷鳴がとどろいている。
もうすぐこちらにもやって来る事だろう。その時は、今までのように避けたりはせず、雷を受け止めてやることとしよう。
私は少々長く生きすぎたのだ。もう眠らせてもらってもいいだろう。皆と共に。
なに、このまま世界が死に絶えてしまうわけではないのだ。この呪いも消え、新たな生命の芽生える時がやがて来る。きっと来る。
ーー私は身を拡げて雷を待ちながら、これまでの長い時間を振り返っていた。
三千を越える季節の訪れを楽しんできたのだ。そう悪いものでもなかったろう……。
死に果てた丘にただ一本残っていた巨大なクスノキの上に、雷がきらめいた。
炎に包まれたクスノキはかすかに身をよじりながら崩れ落ちーーそして永遠とも思える長い静寂が続いた。
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