アードウルフ・バーバリライオン 題名「いつの日かの出会い」

ほら穴の中、アードウルフは外の夕焼けに染まった大地を見ていた。


(ほんとに景色がきれいだなぁ....そういえば、あの子の家はちゃんと見つかったのかなぁ?名前はたしか.....キュルル、だっけ?)


今も彼女たちから貰った絵は大切にほら穴の奥においている。あの日見た、地面がきらきらと輝くあの光景を思い起こさせてくれる絵だ。






(こんなきれいな夕焼けには、お散歩が一番)



アードウルフはほら穴から出て、付近をてくてくと歩く。道中の草むらの中に小さな花を見つけ、手でとって匂いを嗅ぐ。昼間の日差しと花の蜜とが混ざり合った香りに思わずうっとりする。


小さな花を持ち、また歩き始める。

そのままあてもなく散歩していると、夕日がだんだんと地平線の向こうに沈みかけ始めた。


(あ、そろそろ自分のおうちに戻らなきゃ....)


アードウルフはほら穴の方へ少し急ぎ足で向かう。







ほら穴の裏側が見えてきた。あと少しで着く。日も暮れてるし、急ごう。

アードウルフは少し駆け出す。






その時、ほら穴の近くで何か大きなものが蠢いた。アードウルフの動きがぴたりと止む。





そこには、穴の中を覗き込むセルリアンの姿があった。自分の背丈の3~4倍はあろうかという大きさだ。


あれに見つかったら自分は逃げられない。はやくこの場を離れなければ。



後ろにじりじりと下がる。そしてセルリアンが見えなくなるまで下がったと同時に駆けだす。



後ろを振り返らずに走りながら考える。

もうあそこへは戻れない。まずは隠れる場所を探さなくては。一旦森の中に隠れて、それから考えよう。






森の中につく頃には、もう息も上がって十分走れる体力も残っていなかった。木の陰にへたりと座り込む。ナミチスイコウモリさんにもセルリアンのことを伝えなきゃ。いや、それよりも自分の安全が第一か。様々な思いだけが先走り、身体が動かない。


その時、後ろからミシミシと木々が折れる音がした。アードウルフはゆっくりと振り向く。




そこには、夕日を背に浴びながらさっきほら穴の前で見たあの大きなセルリアンがやってきていた。





(.....あ、逃げなきゃ)


体は動かない。


無機質な瞳がこちらを見た。

近づいてくる。

体が動かない。






フラッシュバックしたかのように「自分」が見た景色じゃない景色が見えた。


目の前のセルリアンではない、しかし同じ瞳を持つカイブツに食べられる瞬間の景色だ。


(....どこかで、見た)





(また.....食べられちゃうのかな)











その時。

背後から何かが飛び出した。



まっすぐセルリアンに向けて飛んでいき。


豪腕で無機質な瞳をたたき割った。




セルリアンはぐにゃりと形状を変え



爆散した。





飛び出した「誰か」は勢いよく地面に着地する。


大きな体格。金色に光る眼。そして、たてがみのように生えそろった髪。

夕日に写るその姿は、海上ホテルにいたときに見たけもの

―――――【BEAST】―――――

に酷似していた。


こちらに近づいてくる。




「ひゃっ....たっ、食べないでっ....」


アードウルフは顔を腕で隠す。










「おい、大丈夫か?」




そのけものは声をかけてきた。




「....へっ?」



アードウルフは顔を覗き込まれる。


「ふむ、ケガはなさそうだな」


そういって、腕をがっしと掴まれて起き上がらせられた。



「あの....あなたは、だれですか?」



「私か?....私はバーバリライオンだ」



「ばーばり....?」

「ところで、ここはどこなんだ?私はなぜこんなところに?」


バーバリライオン、と名乗ったフレンズはあたりをきょろきょろと見回す。



「あの、えと....助けてくれて、ありがとうございました」



アードウルフがぺこりと頭を下げる。




「気にするな、あのカイブツに見つかってた君を見たら....なぜか体が勝手に動いてな」


バーバリライオンが手で制する。



「あの、アードウルフ、といいます」


「アードウルフ....?」

バーバリライオンは首を少しかしげる。

「はい.....あの、どうかされました?」


「いや、何でもない」


「あ、もしかして新しいフレンズさんですか?」



「フレンズ....?」



「そうだったら、はかせたちに挨拶しにいったほうがいいと思います、私たちのいろんなことを教えてくれますから。よかったら私が案内しますが.....」


「そうか.....わかった、案内を頼んでいいか?」


「は、はい!」


アードウルフはついてきてください、と言って研究所へ向かって歩き出す。すぐ後ろをバーバリライオンが続く。


二人はともに暗くなりつつある夜の森を歩き始めた。





(この人、すごい強い....わたしもこんな風になれたらなぁ)



〔はかせたち、とはどういうものなのだろうか?そもそもここは一体どこなんだ?まあ、この子についていけばすべてがわかるだろう〕









〔(でも、初めてなのにどうして懐かしいと感じてしまうのだろうか?)〕









この時、二人は朧気にしかわかっていなかった。


自分たちが、時を超えた数奇な運命の出会いをしたことに。

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