ヒグマ 題名「素手と武器」

「はぁ....はぁ....」

「....リカオン、もう息が上がったか?」

「だって....ヒグマさん遠慮せず攻撃してくるんですもん....オーダーきついですよ....」

「セルリアンは手加減なんかしてくれないぞ?」

「そうですけどもぉ....」



リカオンはヒグマとの模擬戦で疲れ果て、地面に大の字に寝転がる。



ヒグマが上からリカオンの顔を覗き込んでくる。




「ったく....しょうがない」

ヒグマは武器を下に置き、リカオンのそばに座り込んで自分の膝の上にリカオンの頭を載せる。


「そういや、リカオンには私の過去はまだ話していなかったな」

ヒグマはリカオンの顔を見ず、前の風景を眺めながら言った。

「ヒグマさんの過去....?」

「そうだ。私がお前みたいな新人ハンターだったころの話だ」


ヒグマは近くに来たボスから動けないリカオンの代わりにじゃぱりまんを受け取ると、リカオンの額に手を当てて話し始めた。











〔当時、私の先輩はジャガーさんとタイリクオオカミさんだった。〕


「おいおいヒグマ、君はもっと強い力があるだろう?」

「はぁっ、はぁっ....すいません、オオカミさん....げほっ」




〔今のリカオンと同じように、模擬戦もしてたが負けてばっかりいたんだ。〕




「ヒグマには立派な武器があるんだから、それを使いこなせないと意味がないよー?」

ジャガーさんが腰に手を当てて心配そうな目つきをしている。


「君も一回素手で戦って見たらどうだ?ほら、『習うより慣れろ』だ」

オオカミさんが手を差し伸ばし、ヒグマの腕をとる。


「いやです....この熊手は、自分がさいきょーになるために必要なものなんです....」





〔私はあの時、武器を使いこなすということに執着してしまっていた。〕





「....これは直すのに時間かかりそうだなぁ」

ジャガーさんが頭を掻きながらそう呟くのが聞こえた。だが私はその言葉を敢えて無視した。




「もう一回、勝負させてください」


私は両目に光を灯す。


「いいね。その何度も挑む精神は嫌いじゃない」


オオカミさんも、その透きとおった蒼と黄のオッドアイを輝かせる。





〔そうやって模擬戦を繰り返し続けていたある日、事件は起こった。〕











〔セルリアンによる犠牲者が、出てしまったんだ。〕




〔私が武器に執着して、武器を投げ出すことなく救助しようとしてしまったから間に合わなかった〕

〔そのせいで、ある一人のフレンズが犠牲になってしまった〕




〔誰が犠牲になったかというのは関係なかった、私にとっては犠牲を出してしまったということが....その事実が私に重くのしかかった〕



「....ヒグマ。君は悪くない。私達は全てを守りきれるわけじゃないからな」

「落ち込んでてもしょうがないよ。切り替えて次のセルリアンに備えよう?」



〔先輩たちは私に優しく言葉をかけてくれたようだった、だが私の耳には届かなかった〕




〔私は初めて、フレンズを守ることができなかった〕












「....それから私は、先輩たちに素手で模擬戦に挑んだ。武器を使わずに強くなりたい。もう二度と守れなかったということがなくなるようにしたい。その思いで、ただひたすらに挑み続けた」


ヒグマは無意識のうちに、リカオンの頭を優しく撫でていた。リカオンは話しながらも一切目線を合わせないヒグマを見ていた。



「しかし、先輩たちが引退するまで一度も素手で勝てたことはなかった。だが引退するときにオオカミさんがこう言ってくれた」







「ヒグマ、君の実力は既に十分なものだよ。もし今の君が武器を持って挑んできたら、さすがに私も負ける。武器は手の延長上にあってこそ、初めて使いこなせるからね。武器を使う君なら、『さいきょー』なんじゃないかな?」







「その言葉があったからこそ、私は今武器を使用して戦うことができている。戦術を広げるために一回だけ新しくハンターとしてフレンズをスカウトしたこともあったが、あの時は大変だったな....」


「大変って、何かあったんですか?」


「そのスカウトしたフレンズが、野性解放の力が暴走してしまって私たちにも襲いかかってきたんだ。なんとか意識を失わせたら元に戻ったが、そのフレンズはハンターをやめるといったきりどこかへ行ってしまった」


「そんなことが....」



「だから私たちは、少ない人数でも十分セルリアンと渡り合えるように鍛えていかなければいけないんだ....ほら、じゃぱりまん食べろ」



ヒグマはリカオンに一個のじゃぱりまんを渡す。





「っ!!そういうことですか!」



不意にリカオンが立ち上がる。ヒグマは勢いに気圧されて尻もちをつく。


「おいどうした急に?」



「つまりですよ、今のヒグマさんはその熊手があるから強いんですよね?ならそれなしの素手の状態なら、私も勝てムグッ!?」


リカオンの口に、もう一つのじゃぱりまんが押し込まれた。押し込んだ張本人のヒグマはむすっとした顔をしている。


「....武器を奪えれば、の話だがな。食べ終わったら試してみるか?」


リカオンは押し込まれたじゃぱりまんを一口食べ、咀嚼しながら大きく頷く。それを見たヒグマも、リカオンが食べた場所を覆うように大きくじゃぱりまんを頬張る。






(....そういえば、私が新人だった時にもオオカミさんとこんな話をしていた気がするな)



ヒグマは目の前で–––––戦いのシミュレーションをしているであろう–––––目が宙を泳ぎながら腕がちょこちょこ動いているリカオンを見る。




その様子が昔の自分の姿に重なり、思わず微笑みをこぼす。



「....ヒグマさん?もしかして馬鹿にしてますか?」


リカオンに怪訝そうな目をして言われてしまう。



「そうじゃない、一体どうかかってくるのか楽しみなんだ」





ヒグマはそう言って武器を手に取る。












素手でやりあうのは久々だ、あの頃を思い出しながらいこう。




過去の私に、負けるわけがない。なぜなら、私はさいきょーだからな。

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