ss02.下着


「さっ、沙橙さん……これ……!」


 包みを開けた瑠栞が、それを手にしてふるえた。真っ赤な顔で、形のいい鼻をピクピクさせている。


「ずぅーっと渡したかったんだぁ。瑠栞ちゃんと初めてのデートで最初に行ったお店、覚えてる?」

「覚えてますけど……って、あれ、デートだったんですか……?」

「そうだよ♪」


 初めてのお出かけは花塚駅でのショッピングだった。前日の仕事が押して、最悪に近いコンディションで慌てて支度したあたしはペチコートを履き忘れてしまったのだ。恥ずかしい思い出とは思わない。あの日があって今日がある。


「瑠栞ちゃん白ばっかりなんだもん」

「そう、です、けど」

「せっかく買ったサーモピンクのブラもぜんぜん着てくれないし」


 ブラの真ん中に指をかけて、目が合うまで引っ張る。すると目が合った瞬間に瑠栞は頬を膨らませた。


「これを着てどうしろって言うんですか」


 キャンドルの灯りを背にポーズをとって欲しいかな。

 でもそんな事を言ってもこじれるだけだ。


「生活して欲しいよ?」

「沙橙さんはときどき変態っぽいですよね」

「じゃあ瑠栞ちゃん、あたしが今これ着てるって想像して?」


 瑠栞の目が、じわじわと下着にずれる。

 肩紐にかける瑠栞の指と、胸元を引くあたしの指。まるであやとりみたいに間でつっぱる若草色のベビードール。

 瑠栞が、情けない声で眉を下げた。


「似合わない」


 色か。

 失敗した。

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