掌編

ss01.パンケーキ


 甘い香りと、静かに焼ける生地の音に吸い寄せられる。

 瑠栞があたしの作ったふわふわなルームウェア姿にエプロンを合体させて、パンケーキを焼いていた。


「るぅ~かちゃぁ~ん♪」


 後ろから抱き着く。

 すると、ピタリと瑠栞が息を止めた。


「?」


 フライ返しが教鞭のように立てられ、密着した背中がぐいと圧をかけてくる。


「なぁに?」

「髪」


 確かに、あたしの髪が頭一つ分小さい瑠栞の顔の横から一房前に流れていた。コンロまでは充分に距離があるのに、あたしの髪を心配してくれるなんて。


「沙橙さん。焼いてるから」

「見てる」

「動けない」


 抑揚のない声は、まるで業務中みたい。


「それじゃあ、あたしがお手伝いしましょう」


 フライ返しを握る瑠栞の手を優しく包み、フライパンの中で淡く広がる生地に向かって進路を定めた。


「まっ、待って。まだ……ッ」

「瑠栞ちゃん、おなかすいたぁ~」

「沙橙さん、わかるけど、ぷすぷすしてからだって……!」


 もちろん、せっかく瑠栞が作ってくれているパンケーキを台無しにしたりしない。くっついていたいだけだ。バランスを崩して火傷なんて以ての外。その辺は心得ている。


「沙……橙、さん……ッ」


 でも可愛くて、つい頬ずりして、耳に吸い付いてしまった。

 瑠栞が大きく息を吸う。そして、


「ハウスッ!」

「──」


 調子に乗りすぎた。

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