第7話 居住区域 後編
少しばかりの太陽の光と消えかけている電球の光で薄暗く照らされた、どこからか水の音が聞こえ、どこからは機械を動かすブォォォという音が聞こえた
ただの水だけ入った水槽に、何もいない大きな円柱系の水槽、そこにはイワシと書かれ、群れをなして泳ぐ姿が見ごたえなど書かれた説明書きが張られていた
その横には外の水槽を観察するための出口に挟まれるように道が続いていた、その道にある水槽にはもちろん魚など入っていなかった
ただいたであろう魚の写真と説明書きだけが寂しさと本当に人間がいなくなってしまったことに、やっとコウイチは知った、実感した
「こういち!さかな!」
メープルは写真と何もない水槽を見比べてはいないのかとじっくり見た後に少し残念そうな顔を浮かべ次の水槽を見て回っていた
「メープル、きっといないよ。ここには、もう人間が管理しなくなって大分立ってるよ」
苔まみれの水槽に得体のしれない色で濁った水槽もあった。
「もうすこし、みる。もしかしたらいるかもしれない」
コウイチはやや体を項垂れメープルに引っ張られるような形で次のエリアへと進んだ
「くらい」
そこは下の絨毯にシンカイエリアと書かれ、青白い光が足元を垂らすだけの簡単な明かりで淡々と暗闇に進んでいた
足元以外が暗闇で中からは少し肌寒い風が冷たく漂ってきていた
メープルは少し下がりコウイチを盾にするようにコウイチを押しながら進んでいく、中間までくると慣れたのかコウイチよりも前に出て勝手に進んでいった
そして少しだけ明るくなった。
「こういち……これがさかな?」
「たぶん…そうだと思う。」
暗闇の天井に大量の青白く光る魚が輝いていた
足元の青白い電気と同じ色をした天井に描かれた魚の電灯、それが淡い青白い光を出していた
「……魚は綺麗なんだな」コウイチたちはしばらくその魚電灯を見上げていた
やがてどちらが歩き出した。それにつられるようにもう一人は歩き出しやがてもっと明るい場所に出た
丸い楕円系の水槽が置かれそこには何もいなかった。だけど
「こういち!なにかいる!」その水槽にへばりついたメープルが言った
その水槽にゆっくりと近づいていくと小さな小さなか弱そうな息を吐いたらどこかへ飛んで行ってしまうほど小さな魚が群れをなして泳いでいた
あの天井の青白い魚とよく似て気のせいだと思えるほど淡い光を放っていた
コウイチがメープルの方に顔を向けるとそこにはおらず、どこへ行ったのかとコウイチが振り返ると
まるで大きな波のような、まるで海の底だけを綺麗にそのまま削り取ったような大きな水槽にまるで絵画のような青白い渦が渦巻き、それは、夜に輝く満月の月のように、美しく、儚く綺麗だった。
「これが……魚。」青白い小さな魚が群れを成し、大きな水槽をまるで月のように渦巻いていた。一匹一匹はか弱い魚。だがその青白い魚は、群れを成す姿は、言葉にできない
コウイチは見上げて止まってしまったメープルの隣へとゆっくりと近づき同じように顔を上げた
それは手の届きそうな綺麗な月
それが照明に照らされ煌々と輝いていた。
「すごい」どっちの口からこぼれた言葉など気にする余裕もなかった
それほど見惚れていた、それほどこの魚の渦に魅入られていた
それからどのくらい時間がたっただろうか?コウイチが言った
「いこうか、メープル」と静かな声で言った
エリアを抜けると眩いばかりの夕焼けは入り込み辺りを赤く染めていた
「たいぶ、見てたんだな。」とコウイチが夕焼けをみて余韻を味わうよう言った
静かなスイゾクカンに一角でコウイチたちは宿を取ることにした。
「久しぶりの柔らかい床だ……」コウイチは穴ぼこまみれの椅子に腰掛け横たわった
メープルは隣に移動した椅子に横たわるとすぐさま寝てしまった。
「ここまで休まずにバイクを進めていたからな、それに今日はどこかに座って地図の色塗りもしていなかった。疲れたんだろうな」とコウイチは隣で寝るメープルの頭を撫でる
気持ちよさそうに安心するように寝てるメープルにコウイチは言った
「次で僕の旅も終わるかもしれない」とコウイチは笑った
メープルは聞こえたのかはたまた寝言なのか小さく「こういち……」といった
コウイチは太陽の光で目が覚めた。
天井のガラスから眩いばかりの太陽光と毛布を剥がされた少しの寒気と共に起きた。
「そういえば……なんであの魚だけなのだろうか?」
この太陽あふれるスイゾクカンの一角もたくさんの水槽があった、水が上から落ちて水しぶきを上げる水槽に砂と水だけの流れのある水槽
「もうちょっと見てみるか」とコウイチはメープルを起こした
やがてスイゾクカンを隅から隅まで見て見るが水槽を管理しているような物はなく
「おかしい……掃除をしてるはずの機械すらいない……なんでなんだ?」
「こういち…どうしたの?」とメープルは疑問の眼差しをコウイチに向けた
「あの大きな魚の水槽だけ生きてるのに他は死んでる、どうゆうことなんだろうなって」コウイチはどこから拾ってきた日焼けしたほとんど読めないパンフレットを開いた
アサセエリア、チュウソウエリア、シンカイエリア、カワエリアと部分わけされた簡単な地図しかかろうじて読めず、なにか手がかりになりそうな、今月のイベントコーナーは日焼けして読めなかった
「もう一度、行ってみるか」
「いく!」とコウイチたちはシンカイエリアへと戻っていった
またしても見る青白い魚は綺麗だった
でも不自然な点が何個か見つかった、魚を紹介する説明書きがなく、それにこの水槽には照明が一つ、ついているだけで他の水槽に必ずあったどこかへと水を運ぶパイプが付いていなかった
「こういち、あれ」メープルが石と砂の間に何かを見つけた。
赤茶色の錆びた機械だったものが沈んでいた、それも原型をとどめていないほど粉々にさび付いた機械だったもの
「なんで誰も取らないんだ?普通なら、掃除用やらの機械がいるは……」
コウイチはふと思い返した、
「機械室を見てなった。そこになら予備用の機械があるはずだ」とパンフレットに書かれていた立ち入り禁止のエリアへと足を踏み込んだ
重く鉄製の扉を開けると匂いが漂ってきた
「こういち……くさい」
「メープル、これが海の匂いだよ、ほとんどが人工物の匂いだけど、たぶんそうだと思う。スイゾクカンは海の魚を見るところだから」
その機械室の中からは他の水槽に行き来できるように通路が引かれ、ほとんどが機械によって管理されていたスイゾクカンだと見るだけでわかるほど
その機械の数は多かった、だがどれも部品が抜き取られており、どれも再起不能
「これが原因か……だから水槽からあの魚しかいなかったのか……」
「どうゆうこと?」とメープルが言うとコウイチは淡々と思え返すようにしゃべり始めた
「あの僕を育ててくれた人に教わった話なんだけどね、こうゆう生き物を育てる機械たちには備わっているものなんだ、自分の機械寿命がなくなりかけると自らの部品を外して他の機械に分け与え別の機械が来るまで全うするようにさせる機能がついてる
きっとあれが全員の部品で残った一匹なんだ、だからあの魚だけしか生きてない。きっと管轄があの魚だけの機械だったんだろう、だから他の機械より長く生きて部品を受け取りつつ生き延びた。」
「じゃあ、いまはほったらかし?」
「そうなるな」とコウイチが言う
「どうにかならないの?」とメープルは悲しそうな顔を浮かべた
「あの魚を助けたいのか?」
「うん、だって、きれいだった」
「そうか、」とコウイチはいうとバックからあの機械から取り出した修復機械の心臓部を一匹の機械へと埋め込ませた
するとあの夜に見た淡い光を上げながら機械の開いた穴を封じられ機械は動き出した
そしてあの青白い魚の元へとたどり着くと日焼けして色褪せた一枚の説明書きを水槽へと張り付けた
魚
最 の技 に た魚を もの
環 った魚 く似せ
「よめないね」
その説明書きを張り付けた機械はどこかへと行ってしまった
コウイチたちはバイクへと戻っていった
サンサンと照り付けていた太陽が雲に隠れ過ごしやすい天気と共に生温い風が体を揺らした
「あんしん。あのさかなは、いきられる」
「ああ、そうだな」とコウイチは嬉しそうなメープルを横目に少しだけ暗い表情を浮かべながらバイクのエンジンを付けた
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