第5話 兵器区域 後編

 それは、足を引きずりながらある場所へと向かっていた。その影は長く、後ろ姿はまるで、廃れた墓標のよう

「行くのは……廃棄処理所ではないのか」

 そいつは廃棄処理所の前を通り、陸に上がった船へと乗り込んだ。大きな艦橋に大きな煙突それ以外は穴ぼこまみれの灰色と赤い未完成な船。


 船の知識のないコウイチでもこの船は未完成だと思えるほど、そこにあのイミテーターもどきは入っていった


「造船のイミテーターか?それにしては、他の姿が見えない、それに傷まみれだったから、すぐさま別のイミテーターがあてがわれる。それなのに」

 コウイチはゆっくり物音を立てないようにその船へと近づいていく、開いていた穴ぼこから、入りこもうとすると声が鳴り響いた


「何者だ!」それは入ろうとしていた船の暗闇から聞こえた。

 そしてゆっくりとあのイミテーターモドキ出てきた、手には銃剣を握りしめて


 コウイチたちはそれが何かは知らなかったが、その血相を変えた表情と隙間から入った太陽の光でキラリと輝くそれは危険な物だと感じるのはたやすかった。

「メープル!逃げろ!」とコウイチが叫ぶとメープルはコウイチにしがみつく、震えるメープルにコウイチは決死の覚悟を決めバックから整備用のハンマーを取り出しそのイミテーターもどきを睨むとそのイミテーターもどきは「なんで、笑ってるんだ?」笑っていた、それも声を噛み消した笑い声、体の奥底から漏らすように笑っていた


 その様子にコウイチたちはその口から言葉が飛び出すまで、口をぽかりと開け茫然と待っていた。

「すまない、何かが入ってくることなんてなかったから……まさか、私を認識出来るとはな」

 そのイミテーターもどきは不思議なことをいった。


コウイチは大きくため息をつき、メープルは腰を抜かしていた

「そんなにか?すまない。僕の名前はクロスビー。船の整備用の機械さ、その謝罪といってはなんだがごちそうするよ」


 クロスビーというイミテーターもどきは優しい黄色い瞳をしていた、見慣れない制服の男性だった

 クロスビーは暗闇へと一度戻ると光を灯した、大きな1mくらいある電灯をつけた


 それに照らされたのは、白を基調にした内装に床の灰色が目を引く綺麗な部屋。赤いソファにちょっと風変わりをした絨毯

 その上には木のテーブルに椅子、色が奇抜な模様をした、透明なコップになみなみと注がれた透明な水だった。


 とても、この未完成の船には想像を付かない、綺麗な内装だった。

「この水は僕が飲もうとしてたやつ。君たちにはアイスティーを入れてあげるよ。」

 いまだに疑心暗鬼になりながらコウイチたちは綺麗な内装へと足を運ぶ。

「そんなに驚かないでよ、ごめんって。それに君たちがいけないのだからね。許可なく入ろうとするから、あっ!ごめんね。怖がらせるつもりは」

「もう、いいです。それよりアイスティーってなんですか」

「きになる」コウイチたちは内装とアイスティーという未知の名前に目を奪われてしまった

「はは……君たち、新しいほうだね」クロスビーは苦笑いを浮かべた


 目の前に出されたのは、少し焦げたクロワッサンに、しなびれたサラダ、綺麗な焼き色をした卵焼き、そして透明な物体が浮かぶ茶色い水だった。

 コウイチはまず、茶色い水に手を伸ばした、一口飲み込むと喉の奥からさわやかな香りとほんの少しのまろやかさが舌にのこる。

 メープルはおいしそうにクロワッサンにかぶりついていた、

「どれも、これも聞いたことはあるけど、食べたことない料理ばかりです。美味しいです。」

「ありがと、でも気を付けたほうがいいよ。僕だったからいいものを、得体のしれない人からものもらっちゃだめだよ」

「いま、人っていいましたか?」コウイチは口に含んでいた食べ物をアイスティーで飲みこみ言った

 クロスビーは「言ったけどとそれがどうしたんだい?」と肘をついて言った

「人はどこにいるんですか?」とコウイチが問うと、クロスビーはすこし考えたのちに「ただの比喩だから」とはぶらかすように一言。

 クロスビーの表情はどこか悲しく、どこか怒りがこもっていた。コウイチは次も問いかけようとしたが食べ物と一緒に飲み込んだ


「ところで君たちは、人を探すんだい?なにか、正して欲しいとか、戻して欲しいとかか?」

「いえ、聞きたいことがあるんです。」

「それは?」クロスビーはコウイチを指をさして言った

「なんで、イミテーターを作ったかということです。」

「不思議な感性の持ち主だ。」とクロスビーが立ち上がると、「もう夜だ、泊っていくかい。」

「いえ……結構です。帰れますので」とコウイチが言うと

 クロスビーは指をチッチッチと横に小さく振り「夜は不便だろ」とそう言い「ベットを紹介するよ」とコウイチとあくびをしたメープルを手招きをした


 クロスビーにつられ着いた場所には大きな2段ベットがある、簡単な寝室だった

 ベットは綺麗に整備されて綺麗な柔らかそうとベット、メープルは千鳥歩きでベットへともたれこむとコウイチの名前を呼んだ。

「ほら、彼女が呼んでるよ。誰も入ってこないように守ってあげるから、今夜はぐっすりおやすみ。」

「でも……」とコウイチが言うと

 クロスビーは何かをしゃべり、扉を閉じてしまった。


 部屋は持ってきた1mあまりの電灯で眩しいくらいに照らされていた

 そして一つのベットにメープルはコウイチに抱き着くように寝ていた。


「今日もか……昨日と今日で怖い思いをしただろうからな」

 コウイチは優しくメープルの頭を撫でる

「こういち……」メープルは起きているのかわからいほど眠気声をだし、心地よい寝息を立てた

「俺も、疲れてたのかな、ベットで寝るなんて久しぶりだな」とポツリと言い残しコウイチも眠りの中へと潜っていった





 ガシャン……大きな物音がした、コウイチはその音で目覚めた


「やっぱり……信じないほうが良かったかもしれない」

内心コウイチは、そのイミテーターもどきを信じていなかった。あの形相は嘘ではない、あれは何かあると、懸念していたのだ。


コウイチはベットからメープルを起こさないように抜け出しゆっくりと扉を開けその音の先を電灯で照らした。するとそこには、硝煙の匂いと焦げた匂い、それに嫌な廃油のような匂いがし壊れた機械のような音が暗闇から聞こえていた


その音の方あと電灯を照らすと、クロスビーが倒れていた。

さっきより、傷が増えどこか様子がおかしい。まるで本の中でしか、人に聞いた話でしかない、まるで何かと戦ってきたような異様な傷の付きよう。切断された面からは漏電しピカピカと暗闇の溶け込むように光が漏れていた。


「なんなんだ。お前……」コウイチが恐怖で声が震えながらも扉の前に立ちハンマー片手、電灯片手にクロスビーに向かって身構え睨んだ。だがクロスビーはどこか優しそうな声を上げ「俺を認識できるのか……?」とそう言った、昼に見たクロスビーとは様子も声も違う、クロスビーよりもっと優しい声だった。だがその服装も見た目もクロスビーだった


「何者なんだ……。お前は!」コウイチが声を荒げるとクロスビはまるで最後の声を振り絞るように

「お前……あのバイクの持ち主か?……それならお願いだ、俺をもう、止めてくれ……俺は………壊……用…械。……44」と言うとその機械は止まってしまった

 動かなくなった、クロスビー本人なのかわからないまま、体内から「機械が機械を直している。」その体から銀色の機械手が伸び小さな光を上げて焼け焦げたところから謎の液体を噴射して塞いでいった。


 コウイチは育てててもらった人に教わった少ないうちの一つだから、今やってる行為がすぐに分かった。

「お前……戦時中からずっとこんなことをやってたのか」その内部から直していく機械と見慣れない妙な制服。コウイチはその機体のことをよく知っていた。戦時によく出回っていた機体、HIT-0044型擬態破壊用機械。かつて、コウイチを育てた人がそのことを言っていたから


「じいちゃん。今度は何を治しているの?」

「これは、戦争用に作られた、イミテーターに混じって敵陣をぶっ壊すやつでな、今はもう必要ない部品が混じってるから外してやるのさ」

「機械でも眠ることは必要さ」


 だからコウイチはその修復用の内部機械の電源と心臓部。その動かなくなった機械の電源とバッテリーを抜き取った。教えてもらったことを復習するように


 眩しい朝焼けのなかコウイチたちは旅の準備していた。

「こういち?くろすびーは?」バイクに乗りヘルメットをかぶせたメープルは言った

「ああ、夜に帰ってきて、まだ、寝てる。だから起こさないように行こう」コウイチはヘルメットとコートを羽織りアクセルを回した
















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