第4話 兵器区域 前編

 

 すこし前にいた食糧区域とは打って変わった雰囲気のとても静かなところだった、所々に煙は上がっているが、とても静かで、まるで時が止まったようだ。


 そんな静かなコンビナートの中をバイクは走っていた。歩くイミテーターは何もいない不思議なコンビナート、まるで一夜にしてすべてがいなくなってしまったように


「ようこそ、いらっしゃいました。なにをお探しでしょうか?」

 バイクを止め入った店に三角のキャタピラに細長い手の機械が話しかけてきた、鉄の匂いと鼻を衝く嫌な火薬の匂い、埃が充満し歩くたびに埃が舞う店内だった。


「少し、気になったんだけど、ここは?」

 コウイチは聞いた、メープルは新しいものを見つけたように目を光らせる。


「はい、ここは戦争用の兵器を作るところです。武器のご購入ですか?それとも兵器?」

 コウイチはあたりを見渡した、様々な銃が壁に掛けられショーケースの中にはさまざまな刃物が飾られていた。全てが埃をかぶり白くなっている。相当、誰も来てないということは言うまででもなかった。


「いや……電灯を買いにきた。あるか?」

「でんとう?」


 三角機械は少しばかり考えたのちに奥へと引っ込み

「電灯ですか…はぁ、ありますけど。結構おっきい奴になちゃいますよ?」

 そういい三角機械は1mくらいの大きな電灯を持ってきた。

「それでいい、バッテリーは必要ないから」とコウイチは三角からもらい受けると電灯だけを抱えバイクへと向かった。

 その光景を不思議とばかり、メープルはコウイチを見上げていた。


 コウイチは少しばかりため息をついたのちにメープルに言った

「夜は不便だろ」とコウイチはメープルの頭を優しく撫でると同時に


 この兵器区域へとはいったときのことを思い出した。





 二人だけのしゃべり声が静かに都市に響いていた夜だった

 辺りには満天の星が煌めき、少しだけかけた、明日には満月になるであろうお月さまが大きく光輝いていた。


「あれは、つき、あれはほし」ついさっき教えてあげたことをメープルは覚えるようにつぶやいていた。その声はとても小さく、だがそれ以外は聞こえず、とても静かな夜で街灯に照らされる二人以外いないのかと思うほどだった。

「俺は、満月になる前の月が好きだ。」静かな二人の間にコウイチは言った

「なんで?」メープルは首をかしげる

「次があるから、明日にあるから」とコウイチはかけた月を見ていった

 するとメープルはゆっくりと立ち上がり月に手を伸ばした


 月明かりに照らされる。白い肌に、金糸のような髪が風にのって月明かりと街灯に照らされ輝き


 吸い込まれそうなほど綺麗な燐光に輝くその青い瞳がその月を見上げる。


 美しすぎる、瞬きを一つもしない、美しくも生命を感じない。その横顔に僕は見惚れていた。


「わたしもすき……こういち、わたしもこのつきがすき」

 メープルはゆっくりとこちらに視線を向け微笑んだ


「そうだな、綺麗だ……」

 その美しすぎる。ほほ笑みから目を離せなかった


 そこからしばらくの沈黙がたった、だがその沈黙は遠くの方で大きな破裂音でかき消された。爆発音も鳴り響いた。一回だけではない何度も、何度も


「こういち……」メープルがその音に怯えコウイチにしがみつく

 コウイチは立ち上がり顔を上げ遠くを見渡す。すると音の先には大きな炎を噴き上げる地上の星空があった。

「この後、向かう兵器区域のほうだ」


 しばらくすると音は闇の中に消えていき、また静かな夜にまた戻った

 だが地上の星空はいまだに煌めき赤い炎を吹きだしていた


 怖がるメープルをコウイチに抱きかかえるように寝た。その体は冷たく、だがぶるぶると人間みたいに震えていた


 やがて朝になり地上の星空は消え、代わりに大きな無数白と赤の煙突から煙が噴き出し、灰色の煙突からは夜に見た赤い炎が噴き出ていた。

 大きな筒の建物を囲むように、まるでこの区域全体を血管のように、張り巡らされたパイプ管、それに連なるように様々な建物が建っている。見渡す限りの工場。コンビナートだった


「すごいね」

 メープルがいつも通りに目を光らせていった

「大丈夫か?」とコウイチが聞くといつものようにメープルは?マークで首を傾げコウイチはそれに安堵の表情を浮かべた。


 コンビナートの中をある一角でコウイチたちはバイクを止め休憩していた。道路までにパイプ管が張り巡らされ、ここにいるイミテーターはどれも灰色の恰好をしていた。

「姿は違うけど、ここも都市なのか」

 いままで通ってきた道とは、まるで違う、別世界にでも入り込んでしまったのかと思えてしまうほど、だが、どこか今まで通ってきた道とどこか同じで

「ここもやっぱり、母なる都市(メトロポリス)なのか」

「めとろ?」

 バイクの上にまたがりキョロキョロしていたメープルから疑問の声があがった

「この大都市の名前、母なる都市でメトロポリス。名前の由来はよくわからないけど」

「じゃあ、どこも、めとろぽりすなの?あったところも、はんばーがーをたべたところも」

「うん、どこもメトロポリス。だけどそれだとどこかわからなくなるから、区域で分かれてる。」

 コウイチは、バックから地図を取り出した

「最初にあったのが中央区域、ハンバーガーを食べたのが食糧区域、そして今いるのがたぶん、兵器区域かな」

 日焼けした色の抜けた地図の食糧区域の脇に漢字で兵器区域と書かれていた

「へいきって?」めーぷるが日焼けで色の抜けた地図の文字をなぞる

「兵器っていうのは、これも育ててくれた人の話なんだけどね。今はもう必要ないものだって」

「ひつようないの?」

「うん、なんせ、やる人がいなくなったからだって言ってた。」

「でも……動いてるよ?」メープルが工場の隙間からせわしなく動く鉄の機械を見ていった


 大きな炎を噴き上げる煙突、ガン!と鉄と鉄がぶつかる音、どこからか水蒸気の噴き出す音

 この兵器区域のコンビナートは今でも稼働しているようだった


 バイクは二人を乗せ、兵器区域を回った、なにか人間の手がかりがないかと、そんな都市を練り走っているときだった


「まって、こういち、なにかたおれてる」

 メープルはバイクが走っているのに、かかわらず飛び降りようとする

「止めるから、メープル!」

 コウイチはすぐにバイクを止めると、メープルはすかさず降り走って路地裏へといってしまった

「なんだっていうんだ」とコウイチはすこし愚痴をこぼしながら、メープルの後を追うと、目の前には奇妙な光景がそこにはあった


「こういち、けが、してる」その目の前にいたのはボロボロのイミテーターだった

「傷ついてるイミテーター?どうゆうことだ?こんなになるまで傷ついて」

 内部がむき出しになり、焼け焦げた肌、どれもこれも今さっきできた傷とは到底思えなかった。


「メープル、離れろ。様子がおかしい。こいつイミテーターじゃない」

「え?」とメープルは二歩三歩後ずさりをしたがまたすぐさまそのイミテーターに近づこうとする

 コウイチが危ないと言おうとしたとき、そのイミテーターもどきはゆっくりと立ち上がりどこかへと歩いて行ってしまった


「あれ、完璧にメープルと俺を認識してた、」

「どうゆうこと?」

「ついていこう。メープル」メープルは無言でうなずいた


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