第22話

 そういえば告白されるなんて生まれて初めての経験かもしれない――と私は、心なしか肩を落としているように見える如月の後ろ姿を見つめながら、ぼんやりとそんなことを思った。

というか、告白のために呼び出されても、変にトンがっていた私は校舎裏に行かない系女子に憧れていたので、そういう意味で告白を聞こうと思った時点で、どうやら私は思っていた以上に如月陽太のことを好ましく思っていたのかもしれない。まあ、フッたのだけれど。

私は君の思うような人ではないと――別にそれだけが理由のわけではないが――確かそんな趣旨のことを婉曲して遠回しに言った気がする。私のどこが好きなのなんて、そんな鉄板の台詞に彼は臆面もなく「笑顔」と、そう答えたけれども、彼の好きな笑顔というのは間違いなく本来の私のものではないはずだ。だって私は日向葵の笑顔を模倣して、如月に接してきたのだから。日向葵の向日葵のような、そんな笑顔に、如月は惚れたのだ。

 妹の、生来の明るい性格を模倣する作戦は――まるで今までの私を否定するかのように――想像以上に事をうまく運んでくれた。特に如月に対しては笑顔を振りまく作戦がそれはもう有効で、術中にかかり、まんまと私の掌の上で踊るさまはいっそ滑稽ですらあって、無理な頼みを聞いて脚本を書いてくれたり、学祭Tシャツをクラスごとに振り分けるのを手伝ってくれたり、過労なのか寝不足なのか倒れてしまったのは予想外だったけれど、倒れた私を保健室まで運んで介抱してくれたり、その後事情を一部だけ教えたら同情してくれて、作業を一緒にしてくれたり……ああ――

「――楽しかったなあ、文化祭」

 雨が降り始めた。

 病院から着信があったのは、如月と別れてからわずか数分後のことである。

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