俺を知らない君は知らないし君を知っている俺も知らない

 ピンク色の携帯電話を自分のポケットから取り出し、着信履歴から電話をかけると、今俺が見つめている携帯電話が鳴った。間違いなく鷹ちゃんさんの携帯だ。


 友人の携帯電話が目の前で鳴っているだけのその光景に悪寒が走った。


 すると突然、堤防の下の方から草同士が擦れる音がした。風ではなく、何かが動いた音。


 何かが動いた方向に目を凝らしているが、点滅している街灯の所為で何が起こっているのか分からない。


 すると、突然その街灯の調子が戻った。しかし空からは先程から溢れそうだった雨が落ち始めた。


 「あ、あなたは…。」


 「ゆうちゃん?何を…何やってんだよ!!!」


 俺が今いる場所から川へ降りていく坂にゆうちゃん一人が四つん這いになっていた。


 「よいしょっと…。」


 「き…君は俺のことを知っているか…。」


 「もちろん知っていますよ。この間私が助けてあげたどうしようもない人ですよね。」


 今俺が話している人物は俺のことを知っている。つまり俺が知っているゆうちゃんだということになる…。


 彼女は坂に膝をついた状態から身を起こしその場に立ち上がった。そして彼女の右手には血が滴った腕があった。


 血が滴っていく地面は赤という色の概念など存在しないように黒に染まっていた。しかしそれと同じくらい黒い何かが三つ、地面に転がっている。 


 「君がこれをやったのか…?」


 「うーんと、そうですね。これは私がやりました。」


 「何故こんなことをしたんだ…!鷹ちゃんさんは君の友達じゃなかったのか!」


 地面に転がっている三つ。一つはスーツを着ている。もう一つは黒い大きなものを羽織っている。そしてもう一つは今日身近で見ていたはずの白いTシャツではなく、所々赤い斑点があるTシャツを着ている。

 「違うんですって。私は鷹ちゃんを殺してないんです。」


 「じゃあ何故君は俺のことを知っている?」


 「そういう質問の仕方をするってことは誰かから私の人格のこと聞いたんですか?誰にも言ってないと思うんですけど。」


 「鷹ちゃんさんが気づいて俺に教えてくれたんだ…さっきな…。」


 「そうですか…。なんだか悪いことしちゃいましたね。ごめんなさい。」


 「それは何に対して謝ってるんだよ…なんでこんなことをするんだよ…」


 「私が出て行ったときに話したこと覚えてます?私が子供の頃のお話。ほらほら、この人の顎を見てくださいよ。ね?四本の傷があるでしょ?」


 そう言って彼女は足元にあるものの頭を回してその顔を俺に見せてきた。


 「…君はまだ俺に話してないことがあったはずだ。君のお母さんを殺したその傷の男。もう死んでるじゃないか。」


 「そりゃここに死体がありますからね。何言ってるんですか。」


 「違う…。そいつも同じ傷を負っている、けど、違うだろ…。」


 「何言ってるんです?こんな特徴ある傷を持ってる人がそこらへんにたくさんいると思ってるんですか?私が思う限り、こいつはいつでも甦ります。」

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