惡有る根には気を付けて


 「えーと…警察の方です…よね?」


 「そうです。警察の方です。」


 俺と鷹ちゃんさんは同じタイミングでお互いの顔を見合った。どちらとも『やべえ』という表情を隠しきれない。


 「あのね、ここで男二人が女性にしつこく言い寄ってるって通報が入ってね?君たちかな?」


 「そうです…。ちょっとお名前聞いていい?」


 「はい…。」


 どうせ説明したって碌に信じちゃくれないからとりあえず自分のことは、名無しと言っておいた。多分どやされる。


 「えーと、安座間さんと名無しさん…。ちょっと待てよ?君たちってここらへんで佐伯っていう警察官に会わなかった?」


 「え、会いましたけど、それがどうかしたんですか?」


 「いやーね。彼女って結構社交的で署内の人たちと仲良い人多いのよ。で、僕もその一人なんだけど、君たちに会ったら伝えておいてほしいことがあるって彼女に言われててね。」


 「えーと、詳細を聞く前に先に質問しておきたいんですが、なぜ佐伯さんは俺たちに直接会いに来ないんですか?」


 「いや、まぁそれはそうなんだけどね。急ぎの用じゃないっていうのが一つと、彼女って見た目にそぐわず、あれで結構やり手なのよ。結構仕事できちゃうわけ。だからどんどん仕事任されちゃって忙しくしてるんだよ。だからこうしてパトロールがてら見かけたらお願いしますねって頼まれちゃってるわけよ。」


 「はぁ。なるほど。」


 「バカっ。それ聞くのは別に後でも構わんでしょうが。ごめんなさいね警察の方、話のリズムを崩しちゃって。それでその言伝とはなんなんでしょうか?」


 「いやいや、それは問題ないんだ。けど、君たちにはちょっと署に来てほしいんだ。今から大丈夫かい?」


 「「え?」」




―静岡県警察本部―


 「警察署の中ってこんな風になってるのね…。初めて警察署に来るなら別の理由がよかったわ…。あの、あたしたちってこれから逮捕ですか?」


 「逮捕?何を言ってるんだい。別に逮捕したいからここに連れてきたわけじゃないよ。もちろん、女性に言い寄ったのは許せないことだけどね?君たち見てる限りそういうことする人じゃなさそうだしね。」


 「「はぁ、よかったぁ…」」


 「まぁ少しお話して怪しかったらもう少し詳しく話聞くけどね?」


 ゾクッ


 「なにも悪いことしてないのに、そういう風に言われるとあたし、自分が何か悪いことしてないか心配になっちゃうわ…」


 「すんげぇ分かる。」


 

 建物一回の奥へ歩いていくとエレベータルームが見えた。


 「じゃあこのまま14階へ向かってもらえるかな?その階にいる誰かしらに多田が寄越したって言ってくれればあとは何とかやってくれると思うよ。じゃあお願いね。」


 「え、ちょt」


 彼は俺たちをエレベーターの前に置いてその場から立ち去ってしまった。


 「えっと、とりあえずは15階に行けばいいのよね?」


 「15階だっけ?まぁ行ってみみようか。」


 エレベーターに恐る恐る乗り、言われた階へ向かった。


 『15階です。ドアが開きます。』


 「えーとここよね?誰かいる?」


 「いやいないな。もう多田さんだっけ?やめてほしいなぁ、警察署に何も知らない二人を放置するなんてさぁ…。」


 「まず誰かを見つけましょ。こんなおどおどしてるところ見られたら、それだけで怪しまれちゃうわよ。」


 「あれ、君たちぃ?」


 ビクッ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る