知らなければ過去にはならないんだよ
―ゆうちゃん宅―
「無事到着ね。まったく、なんであんなことに巻き込まれちゃうのかしら。」
「鷹ちゃんさんが都市伝説がどうたらーって話してたからフラグが建ったんだなきっと。」
「あ?あたしの所為って言いたいわけ?」
「いえ、違います…。」
「そんなことよりゆうちゃんよ。あなたさっきから震え止まってないじゃない?本当に大丈夫?」
「大丈夫だってそんなに心配しなくても。すぐ止まると思うし。」
そんなことを言っておきながら、彼女の表情には元気がない。
「んー。とりあえずは早くお風呂入って寝なさい。そして明日は大学休みなさいよ。」
「えー、授業遅れたら嫌だよ。」
「それはあなたの回復次第ね。大学行きたいなら直しちゃいなさい。」
「鷹ちゃんさん、俺もちょっと熱が…出てきたかもしれないー。今日はリビングで寝かせてもらわないとダメみたいだぁ」
「馬鹿もヒモも風邪なんかひかないわよ。早く糞して寝なさい。」
「こりゃひでぇ扱いだ。」
鷹ちゃんさんに言われた通り、俺とゆうちゃんは早く寝床についた。
鷹ちゃんさんはリビングで一人酒するからもう少し起きてると言って起きたままだった。11時くらいになって微かに玄関のドアが閉まる音が聞こえたので、仕事に駆り出されたと予想される。
自分では疲れてないと思い込んでいたけど、実際は体力的にも精神的にも疲れていたのかもしれない。ゆうちゃんに借りた本をキリのいいところまで読むと自然と瞼が下がっていった。
―深夜―
「…!」
ん?なんだ?
「ねぇってば」
「お?ゆうちゃん?どうした?」
「やっぱり眠れないんです…。ちょっとお話を聞いてもらえませんか?」
風呂の後でサラサラな髪の毛、四肢を露にする布面積少なめの寝間着、普段は着けてない眼鏡。いつもとは違うゆうちゃんの姿に少しウズっと来てしまった。
「え、なんで眼鏡?」
「それはいつもコンタクトだから…。しかもわたし眼鏡似合わないのであまり外には着けて出たくないんです。」
「なるほど。で、話ってなんだ?」
「そうなんです…。真剣に聞いてくださいね?わたしも真剣に話しますから。」
「分かった。聞こう。」
「さっき私たちを襲ってきたマントの人いたじゃないですか。あの人の顔見ました?」
「いや、暗かったし見えなかったな。」
「そうですか。私は少し見たんです。少しなので顔全体は見えてません。見えたのは口元だけ。」
「ほうそれで」
「彼の口元には四本の傷が残っていたんです。」
「四本の傷?暗かったのによく見えたな?」
「いえ、でもそうだと思ったんです。なぜなら恐らくあれを付けたのは私だからです。」
「!?ちょっと待てよ?わからなくなったぞ?一旦整頓しよう。あいつに前に会ったことがあるのか?」
「おそらく…。でも先程言ったように彼の顔は知らないんです。背格好と声やセリフ、そしてあの傷。先程襲ってきた人と私が以前見た人を同一人物たらしめる特徴はそれだけです。」
「それだけ特徴が揃ってれば多分そうだろうが…。そいつとは以前どこで会ったんだ?」
「あ…。あの、自分で話を始めておきながらなんなんですが…ちょっと話したくなってきました…」
「話さないのは自由だけどなぁ。でもさっきは、話せなかったから眠れなかったって言ってなかったか?」
「うーむ。その通りです…。でも誰にも言わないでくださいね?」
「鷹ちゃんさんにも?」
「鷹ちゃんには絶対ダメ。心配するから…。」
「分かったよ。どうぞ続けて。」
「うん、じゃあ話しますね。私が物心つく前に両親が離婚して、母の方に私はついて行ったんです。片親でしたが何一つ困った記憶はありませんでしたし幸せでした。でも…小学生低学年の頃でしたかね。いつものように母と二人で週末の買い出しに行って家に歩いて帰っていました。でもわたしは毎週同じ道を歩くのが段々と退屈になってきてたんです。それで、その日は少し近道して帰ろうと母に言っていつもと違う道で帰ることになったんです。その近辺は学校の通学路だったので登下校のときに色々な道を開拓したので、それをお母さんに自慢したかったんです。でもそれがいけませんでした。」
先程よりもゆうちゃんの震えが強くなっている。
「ゆうちゃん、無理しないでいい。また今度聞かせてくれればいいよ。」
「いや、続けさせてください。ずっと過去に囚われてるのも辛いんです…。」
「そうか…。」
「ありがとうございます。続けますね。それで、近道を通って母とわたしは帰りました。その途中で家と家の間を通らなければいけない道があったんです。大人が半身になってギリギリ通れるくらいの広さだったので母に申し訳ないと感じたのを覚えています。それで、その狭い通り道を抜けると団地の狭い駐車場に出るんです。数歩歩いたあとね、びっくりしましたよ。背後から悲鳴がするんですもの。母の悲鳴でした。初めて聞きましたね。母の背後には帽子とマスクで顔を隠した人がいて、ナイフを首元に突き付けていたんです。彼は言いました。『また一人。いくら殺せばいいんだろう。なんで俺がやるのか?…。お前か?』。小さかった私はもちろん理解できませんでした。今でさえ言葉の意味は理解していません。そして彼の言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ赤になりました。小学生のわたしでもわかりました。親が殺されたんだと。なんでしょうかね?遺伝子に刻まれているんですかね?母が殺されたと分かった瞬間、あいつに飛び掛かりましたよ。どうにか顔だけは見てやろうと思ったのか自分が何を思ったのかわかりませんが、彼のマスクに両手をかけてそのまま彼の体から飛び降りました。そのとき、先程話した傷を彼が負ったんですね。代わりにわたしも負わされましたがね。それで、彼は口元から血を垂らしながら走り去っていきました。」
俺の目の前で話している女の子は、表情変えることなく涙を流していた。
「うっぷ、ちょっとしつれいしm!」
彼女はトイレがある方に走って駆けて行って胃の中のものを戻してしまったようだ。そりゃあれだけ壮絶な過去を語ったらあぁなるのも無理はない…。
俺がゆうちゃんの様子を見にリビングに続く廊下に出ると、玄関の方に鷹ちゃんさんが立っているのが見えた。
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