無知的器用貧乏
「なるほど。そういうことか…。」
今俺の目の前で起きていることをそのまま説明しよう。
ボーリングの球がレーンとは逆の方向に投げられている。記憶を失くしている?俺でも、目で見りゃある程度どういうゲームなのかは理解できる。決まった範囲にボールを投げて先にある白い物を倒して得点を競う。そうだよな?
でも目の前で行われているのはその予想をはるか斜めにいく。ゆうちゃんが投げるボールは何故後ろに向かうのか。モーションから推測するに、どうやっても白い物に向かって投げられるんだろう。しかし
「ありゃ」
そう。ありゃなのだ。球があらぬ方向に行くときには毎回あの言葉が聞こえる。
「ひょーっ!」
そう。ひょーっ!なのだ。球があらぬ方向へ向かった後は毎回あの野太い悲鳴が聞こえる。
Good Game!
「えー、もう終わりー?ねぇ鷹ちゃん!もう1ゲームだけやってもいいかな?」
「ダメダメ!もうこれでやめよ?ね?あたし怖いの。あなたが怖いの!」
「えー…。そりゃ私はボーリング得意じゃないけどさ、好きなんだし…。」
「鷹ちゃんさん、もう1ゲームくらいいいんじゃないか?この分は俺に付けておいていいからさ。」
「返す当てもないくせに何言ってだか。でもまー…ゆうちゃんがやりたいって言うなら…。でもあたしを守ってよ!?」
なんかやだなぁ。それどっちかっていうと俺が守ってもらう方だろ、見た目からして。
「へーへー守る守る。守りますとも。」
えーと、球はここからとるのか。よっと。え?普通に重くないか?ま、ちょっとだけだけどね?予想よりは少し重かったってだけ。そう、それだけ。
と、とりあえずゆうちゃんは…投げ方になんか違和感あるんだよな。
「ねぇゆうちゃんって左利き?」
「そうですけど、なんでですか?」
「いや、投げるときに指から球が離れてっちゃうのってなんでかなぁと思って。」
「私ってエイムが全然なってないですからねぇ。そこを練習しなきゃいけないってことは理解してます!」
「えー、多分エイムがどうこうって次元じゃない気がする。」
「というと?」
「ちょっと握手してみて?」
「は、はい。」
ギュッ
「いや、左手じゃなくて右手。利き手の方。」
「あぁ失敬です。」
うーん。やっぱり握力がけた外れに
「弱い!握力が弱いよ。試しに右で投げてみな。」
「え、でも利き手じゃない方で投げてもエイムが…」
「エイムは後から正確にしていけばいいんだ。まともに投げることすらままならないのに何いっちょ前なこと言ってんだ。」
「無一文で女の子からお金借りてるくせに…。」
「ちょっと死んで転生してくる。」
「へへっ、冗談ですって。右で投げればいいんですか?」
俺は黙ってうなずいて、彼女の投球を見守った。
「んー、ほりゃ!」
先程よりも断然力強く投げられるボール。投げた後の伸びが段違いなのが素人目にも分かる。
ガシャコーン!
「ワーッ!見てください!初めてのストライクですよ!やったぁ!鷹ちゃん見てた!?」
「はいはい見てたわよ。すごいじゃない。」
エイムは後からついてくるって言ったのはとりあえず投げさせたかったからなんだが…これじゃついてくるも何も元からコントロールはしっかりできるんじゃないか。
「ゆうちゃん、エイム完璧じゃないか。日頃の努力の賜物だな。」
「えへへ。そう思います?ボーリングへの愛は人並み外れているんですよ。」
彼女は自慢げにボーリングへの愛を語った。
「周りの人たちにやーやー言われてもやり続けてよかったです。ところで、なんで右で投げた方がいいと思ったんですか?」
「んー正直これに関しては感覚なんだが、一つの理由はさっき言った、片手で球を持てない程弱い握力。もう一つはさっき握手したときに分かった。右の方が何故か握力が強かったんだ。そんだけ。」
「へー。自分じゃ分からないもんですね。そっかー。じゃあこれからあたしは両利きってステータスを引っ提げて生きていいってことですよね?」
「そういうことだな。おめでとう。」
「ピシピシッ」
「そんな風に人を呼ばないでくれ。」
「いいじゃない、分かりやすいでしょ?ま、そんなことよりありがとね、あなたのおかげであの子自信ついたみたいだわ。今まではあなたのこと、顔だけが取り柄のどうしようもないヒモ野郎だと思ってたけど、今回の件で見直したわ。」
「ふん、惚れるなよ。」
「あら、相手してくれるの?」
「冗談だよ…。」
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