傷は勲章、運気は上々↓↓
次の日の朝
ガタッ
「いったぁい…」
「おはよう」
「あ、おはようございます。ごめんなさい。棚からタオルとってくれます?用意するの忘れちゃって。」
「あ、うん。はいどうぞ。」
朝目が覚めると、顔がびしょびしょの美少女が俺に話しかけてくる。なんて良い朝なんだろう。
「ありがとうございます。ふぅ。すっきり。」
「あれ、顔洗ってるってことはシャワー浴びないってk」
殴られた。
「ほんっと失礼な人ですね!もうあなたが起きる前に浴びました!顔そりをしてたんです!デリカシー無さすぎですよっ!ほんとに!」
「それは失礼。そんなことより、さっきぶつけたところ大丈夫か?」
「え?もう大丈夫ですよ。肘ぶつけただけだしもう痛くないs…あれ?血出てる!」
「えっと、なんだっけ傷塞ぐやつ。」
「絆創膏?」
「そうだそれ。どこにあるんだ?えっとー確か冷蔵庫の上だったような。」
「分かった。取ってくる。」
俺の部屋(洗濯機の部屋)からリビングに移って絆創膏が入っていそうな箱を探した。
「あらヤングボーイおはよう。」
「おはよう。ちょっとゆうちゃんがケガしちゃって。」
「お前、昨日の約束もう破ったのか?」
「違うって!彼女が自分で棚に肘ぶつけたの!いきなり男になるのやめてってば。」
「なーんだ。ゆうちゃんは洗面所?」
「そうだけど」
「そ、じゃあ持って行ってあげて。頼んだわよ。いろいろね。」
「お、おう。」
なんだか意味深なセリフが気にならずにはいられなかったが、怪我人がいる以上、俺の好奇心は後回し。それくらいの人間性は持ち合わせている。
「ゆうちゃん、持ってきたぞ。」
「あ、ありがとう。」
「ほら腕出して。」
いささか強引に彼女の左腕を持ち、長袖をめくった。
「あ、ちょっ!」
丁度肘の上あたりにかなり大きめの傷があった。これは見られたくなかっただろうな。申し訳ないことした。気付かない振りしてあげるのが優しさなのかな。分かんねぇや。
「結構血出てるな。まず水で流すか。」
「え、うん…。ありがと。」
「よし、消毒もしたし絆創膏もしたこれで十分だろ。」
「ありがとうね…。」
表情を見る限り傷に関して触れなくて正解だったらしい。
「ゲッ!もうこんな時間!?ちょっと時間ないからもう家出るね!今日は夕方には帰ってくるし鷹ちゃんはお仕事休みだから二人とも今後のこと話すとかしてゆっくりしてて!鷹ちゃん!あとお願いね!」
「分かったわよー、じゃんねー」
ガチャン
ゆうちゃんはそそくさと用意して家を出て行った。
「さて、これから数時間…あたしたち二人だけね…。」
「じゃあ俺はそこらへんを探索してきますね。じゃ!」
「おいっ!」
ビクッ
「な、なんでしょう?」
「あんたおなか減ってるでしょ?」
「そう言われればまぁ」
「カーッまた一人男の胃袋を掴んじゃったかぁ。あたしって罪な女よね。待ってなさい、朝食作ってあげるから。」
「あ、ども…。っていうか朝の7時台なんだから腹が減ってるのって普通なんじゃ…。」
「なんか言った?」
「いえいえ、いただきます。鷹ねぇさん。」
「よろしい。あなたは顔洗って昨日買ったって言ってた新しい服に着替えちゃいなさい。臭いわ。」
「承知しました!」
えっと、昨日買ってもらった服は確か俺の部屋(洗濯機の部屋)に置いたはず。
「これだ。試着せずに買ってもらったけど大丈夫だったのか。なんだか知らんがあの店員さんは俺の服のサイズを熟知している様だった…。熟練の服屋店員だとあれくらい朝飯前なのかもしれん。」
昨日買った物を全部着てみた。そこらへんを歩いてる人たちと似たような無難な格好だ。なんだか落ち着く。
「うん。地味で良いなぁこれ。」
「あなたぁ、ご飯できたわよー。」
少し気持ちが高揚していたのになんだか一気に萎えた。原因はわざわざ言うまでもあるまい。
リビングへ向かった。
「あの…鷹ちゃんさん?あの呼び方やめてくれないかな?」
「何よあなた。あなたはあなたよ。英語だとYouよ。普通の呼び方じゃない。」
「俺が世間に疎いって言ってもそれくらいは知ってる。でもなんだかなぁ。新婚夫婦みたいというかなんというか…。」
「あら、尚更いいじゃない。しかもこんなこと言いたくないけど、あなた、自分自身の名前すら知らないじゃない。」
「ぐ…それを言われると…。」
「本人が名前で呼んで欲しいって主張してるならまだしも、あなた全然そんな素振り見せないじゃない。あなた自身にそれの執着があるなら、あたしやゆうちゃんがあなたを名前で呼ぶのはやぶさかじゃないわ。でもあなた自身どうなの?」
「うーん。自分がこの話の火種になっておいて申し訳ないけど、正直なんでもいいや。今現在名前無くても生きてるわけだし、どうしても必要な環境でも無い。加えて俺自身に名前の執着があるわけでもないし。」
「ほらね。悪い意味としてとってはほしくないんだけれど、あなた多分どっかズレてるのよ。」
「うーむ。そう言われると名前がないことが不自然に思えてきた。」
「いいじゃないそのままで。自分自身がどうも思わないんじゃ周りがどうこう言ったって無駄よ。名無しは名前が無いから名無しじゃないのよ。名前がいらないから名無しなの。」
「名無しねぇ。」
「ま、その話は置いておきましょう。ご飯冷めちゃうわ。テレビつける?」
「世間の情報が欲しい。お願いする。」
「おけい。じゃあニュースにしておくわね。」
『さて今日の占いはー』
「あら丁度占いの時間ね。でももう少ししたらまたニュースやるわよ。」
「ありがとう。」
『さて、八月生まれのあなた!ごめんなさーい。今週は人生で最悪の一週間かも。外に出るときは気を付けよう!ラッキーアイテムはオカルト雑誌!』
「うわー嫌ねぇ。占いなんて当たらないって分かってても自分の占いの結果が悪いと気にしちゃうわよね。」
「そういうもんかね。ま、誕生月が分からないから俺は気にしなくて済むんだけど。」
相変わらず、彼?彼女?どっちでもいいか。鷹ちゃんさんが作る料理はおいしい。自分で感じる限り、俺は食が細いほうなのかと思っていたが、この人の料理を目の前にすると食欲が増大する。料理に何か混ぜられているのかと疑ってしまいそうになる。
鷹ちゃんさんの方を見るとニヤニヤして俺の方を見つめていた。怖い。本当に魔女のように見えてきた。
『近頃起きている連続殺人ですが、犯人は複数なのでしょうか?』
『今のところ確実なことは何もわかっていない状況です。単数の可能性もありますし、複数の人間、又はグループが示し合わせてやっている可能性も否めません。なんせ、死体の身元が分からないくらいの状態のものや右腕だけが切り取られている死体がありまして、犯人の特徴がよくつかめないんです。あれ、これ言っちゃいけないやつだっけ?』
『一旦CM入りますね!』
鷹ちゃんさんの魔力にやられ、ニュースの始まりを聞き逃してしまったらしい。
「怖いわよねぇ、これ。この町で連続殺人よ?」
「一見平和そうに見えるのに、見えないところに闇はあるんだな。」
「そら、光あるところには闇があるわよ。相互依存なのよ。」
「そういうもんかね」
「そういえば今日あたし街にでるけどあなたも一緒に来る?どうせ暇でしょ?」
「付いていこうかな。一応もう一回市役所にも行ってみたいんだが、大丈夫か?」
「別にそれは問題ないわ。じゃああたしお化粧するからその間に皿洗い頼んだわよ。」
「御意。」
料理作れねぇなら皿洗え。それが鷹ちゃんさんの料理を食べる際に心得ておかなければいけないことだ。逆に考えれば、皿さえ洗えばあの美味を堪能できるということだ。皿なんて何枚だって洗ってやる。そんな所存だ。
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