《 八月九日 》 3・4・5

               3


 大和北署の捜査本部にいる、捜査第一課10係係長の田辺警部は、司会者と赤井教授のやりとりを見ていた。


 この事件では、三人が死亡、そして一人が重体で入院している


 交通社会の身勝手な行為が、お互いの生き方を変えたと、赤井教授は言いたかったのだろうか。

 歩いていれば、自動車が悪い。車を運転していれば、歩いている人が避ければいい。そう考えると、お互いに身勝手だと、これも赤井教授が考えていることなのだろうか。



 交通ルールってなんだろうか。

『 道路において、危険を防止してお互いの行動の円滑を図る 』

 だそうだが。


信号を守る。横断歩道で道路を渡る。

歩行者は道路の右側を歩く。

自転車と自動車は道路の左側を通る。



 この基本さえ守っていれば、人と自転車または自動車は、正面を見て、お互いの遺志の疎通ができる。

 そんな考えもあり、赤井教授はテレビ番組で断言したのだろう。




               4


 八月九日が、このまま過ぎていくのか。

そんな思いが頭をよぎった。明日が、相模原で起きた事件から一週間。また、犯人は犯行を起こすのだろうか。犯人について、まったく解かっていない。いま、捜査員が探しているのは、犯人が使用したと思われる軽自動車だ。これも、いろいろな防犯カメラの映像を確認して、車種を割り出したが、肝心のナンバープレートが四件の犯行において、すべて違っていた。犯人が本来つけているはずのナンバープレートは解かっていない。捜査員からは、随時途中経過の報告はあるが、決め手となる報告は、はいってこない。犯人は、次の五件目も違うナンバープレートで、犯行を行うのだろうか。


 時間だけが過ぎていく。

 閑散とした会議室でこれ以上過ごしている訳にはいかないとも思っても、捜査員からの吉報を待つのも自分の役割だ。じっと待つしかない。

と、田辺警部は、会議室で頭を抱えていた。




               5


 八月九日 午後十一時を迎えた。東京と神奈川を捜索にあたっていた捜査員が戻ってきた



 東京都二十三区    25/25台

 東京都多摩地区    45/51台

 千葉県千葉市周辺   58/64台

 埼玉県さいたま市周辺 55/66台

 神奈川県全域     60/95台


 確認済み     243/301台


 58台の対象車両が確認取れていないことになる。この中に、犯人の軽自動車があるのであろうか。明日が、この事件最大の山場となる。それにともない捜索先の変更を、指示をした。

 一、東京都多摩地区    残6台

       11係 木島直道巡査・栗原尚子巡査

 二、千葉県千葉市周辺   残6台

       12係 小柳修也警部補・桜井清司巡査・山田みゆき巡査

 三、埼玉県さいたま市周辺 残11台

       13係 荒川俊矢警部補・原田誠治巡査・三橋由美子巡査

 四、神奈川県全域     残35台

       その他の捜査員と該当所轄の捜査員



 10係は、明日に備えて、全員捜査本部に待機させた。



 そして、捜査員には、ゆっくり休むように伝えた。




 田辺警部が安田警部補を誘ったのは、もうそろそろ、日付が変わりそうな時間だった。喫茶「山猫」は、開いている時間ではないので、近くにあるファミリーレストランに食事をとりに出かけた。


 食事の注文を終わらせると

 田辺警部は

「やっぱり、神奈川なのか?」

 と、独り言のように言った。

 安田警部補も

「そうかもしれません。」

 と、短く答えた。


「明日が勝負。」

「そうです。」

「起きるのだろうか。」

「えぇ。」

「そう思う。」

「はい。」


 会話にならないほどの短い言葉で、確認をしていた。

 そして、二人とも一言もしゃべらず、完食していた。




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