《 第二回合同捜査会議 》 2・3

               2


 捜査会議中に病院から連絡がはいった


 手術後、こん睡状態だった片桐かえでさんの意識が回復したという連絡で、絶対安静は解けてはいないが、命の危機は脱したという話だった。




               3


「犯行の起きたタイミングを、考察してみました。」

 と、捜査第一課11係の立花警部補が、手を挙げた。



 立花警部補は、大学時代に行動分析学を学んだことがあり、防犯カメラ映像をもとに、考察したと、言った

「今回の事件発生時の状況を、映像より分析をしました。一件目の事件は、道路を横断している最中に起こっています。二件目は、自転車に乗っている最中に起こっています。三件目は、一件目と同じ横断中に起こっています。四件目も二件目と同じで自転車に乗っている最中に起こっています。ただ、一つの行動から推測すると、四件で共通する行為が見つかりました。」


「それはなんですか?」

 と、田辺警部は、問いかけた。


「その共通する事象は、交通ルールを無視した行為です。」

 と、立花警部補は、答えた。


 そのやりとりに、捜査会議がざわついた。交通ルールくらいで、事件は起きるのだろうかと言わんばかりに、ざわついた。

 現に、高速道路上であおり運転をして、親子の関係を断絶に追いやった事件も起きている。そのことを忘れてしまったかのように、各々の感想を述べている。


 そのざわついた会議を引き締めるために、統括の田辺警部は、立花警部補に詳細をもとめた

「まず、はじめに箱根で起きた事件ですが。現場になった『蕎麦屋 菊水』の前や、その付近には、横断歩道がありません。自動車やバスも通るこの道で、歩行者は、自由に道路を渡っています。つづいて、瀬谷で起きた二件目の事件は、自転車を運転中に起きています。四件目の事件も同じで自転車を運転している最中に起こっています。違反は、逆走と携帯電話の保持です。三件目に起きた主婦の事件も一件目と同じで、横断歩道ではない場所を渡っている最中に起こっています。いわゆる、乱横断です。」

 と、報告した。


 田辺警部は、半信半疑でこう質問した

「交通ルールを守らなかったために、事件が起きたと、推測しているのか?」


 立花警部補は、自信をもって

「そうです。普段、生活をしているには、ささいなことかもしれませんが。よくよく見ていると、そんな当たり前の交通ルールを守っていない人々が、多数いるのは事実です。」

「それで起きたと、考えている?」

「そうです。映像から見ると、そう感じています。」


 田辺警部は、もう少し突っ込んだ、質問をした

「それでは、どのように感じたのかを教えて欲しい。」


 立花警部補は、こう答えた

「この犯人が、どういう感情のもとに、犯行を行ったかは、やはり本人に聞いてみないと解かりませんが。ただ、四件も立てつづけに、交通ルールを無視したと思われる人が殺されるという異常な事件を目の当たりにしたら、これが動機だとしか思えません。ただ犯人のやり方には恐怖を感じます。犯行を行うために、自動車を改造した節も見受けられます。ですので、この犯人は、交通ルールの違反者に、強い不快を感じているのかもしれません。」


「なにが、そこまでさせたのだろうか。」

 と、田辺警部は、疑問を感じた。


「それが一番大きな疑問なんです。もしかしたら、いままでに、この犯人が交通ルールを無視した自転車や歩行者と事故を起こしそうになった。または、危険を感じた。そんなことが多分にあれば、強い不快を感じてもやはり、おかしくはないと思われます。それに、交通ルールというのは、皆が守って、はじめて安全で安心ができる社会になると思います。この犯人は、身勝手なことをした人々に制裁を与えて、交通ルールの再確認と必要性を示したと思っています。マスコミも、交通ルールについて、連日報道してくれています。この犯人は、もしかしたら、これも狙いだったかもしれません。」

 つづけて

「ただ、われわれも、その一端を担っている可能性があるかもしれません。」

 と、立花警部補は、言った。


「どういう意味かね。」

 と、怪訝な表情で、田辺警部は、言った。


「自転車に対しての交通ルールの取締りは積極的には行っていませんし、歩行者に対しても、道路の横断に対しても注意喚起を行っていません。いまマスコミを通じて、行っている内容は、横断歩道は、歩行者優先。自動車は、止まるという内容です。こればかりを優先すると、人は勘違いをする生き物として、道路はどこを歩いても自動車は、止まると感じてしまいます。」

 と、立花警部補と、言った。


 田辺警部は

「いまの人員や予算で、そこまではできないだろう。」

「だとしても、警察への不信や交通ルールを守らない人々への不快な気持ちが、この事件を起こさせた可能性があると思われます。」

 と、立花警部は、言った。


 このやりとりに、他の刑事たちも怪訝な表情を浮かべた。全国約30万人の警察官をもっても、約1億2千万人の国民に周知するのは難しい。



 少し間をおいて


 田辺警部は、立花警部補にこう質問をした

「立花君が、この犯人の姿を、どう想像しているのかを知りたい。」


 立花警部補は、いままで感じていたことを話した

「犯人については、正義感が強くて、曲がったことが嫌いな性格だと感じています。また、人を許さない傾向もあるかと思っています。それから、大学を卒業していて、しかも理工系の学部卒だと考えられます。」


「それで。」


「はい。鑑識さんの話ですと、銃の種類が判明されていないということでした。改造されたモデルガンが、使われた可能性もあります。それに止まっているものを撃っている訳ではなく、動いている人を一発で仕留めています。これは、そう簡単に行える行為ではありません。防犯カメラの映像から、犯人自ら自動車という動いているものを運転しながら犯行を行っております。いままでは、考えられない事象です。」


「科学も工学も、いろいろな知識をもった人物だと思っているのか?」


「その通りです。それに銃の改造を行えば、やはり試し撃ちも必要になります。

サバイバルゲームにも精通している可能性はあります。ひと気の少ない場所でなければ、試し撃ちも難しいと思われます。そういう趣味を持つ人物であれば、地元民にしか知らない場所でも探して、たどり着ける知識は、持っている可能性があります。」

 と、立花警部補は、田辺警部の質問に答えた。




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