初めてのリア凸(女の子目線)

 浜松駅に思ったよりも早くついてしまった。彼の家のある都市とのちょうど中間点である浜松は土曜の朝で少しにぎわっていた。


 きっと彼はまだ駅に着いていないだろう。とりあえず、彼のDMにメッセージを送る。

『早く着いちゃった。どーしよ笑』

秒で既読がついてびっくりした。そして、さっそく返信があった。

『俺も今着いた』

さらに驚きだ。彼も早く来ていたのか。少しあたりを見回してみる。だがそれらしい影はない。新しいメッセージが来ていないかを確認するけれど、これ以上は来なかった。焦ってきょろきょろとあたりを見回す。すると、今度はこっちに向かってくる男の子がいた。私のことをずっと見ている。なんだか恥ずかしくなった。彼だ。きっと彼だ。


 小さく手を振ってみる。彼はそれに応えて手を大きく振ってくれた。ちょっと嬉しい。

「おはよう。今日一日よろしくね」

そう彼は挨拶しながら私に対して手を差し出してきた。握手を求められているのだろうか。初対面だし、困惑や警戒の気が混じりながらも私は握り返し言った。

「おはよう。こちらこそよろしくね」

 彼は高身長で少し痩せ型。顔立ちは整っているが童顔。私好みではあるかな。

 好意を持たれていると勘違いされても困るし、何より初対面だ。手探りではあるけれど、少し冷たく接するよう心掛ける。そう決めた。


 通話で私が行きたいと言ったラーメン屋に彼は連れて行ってくれた。方向音痴の私からしたら、とてもありがたいことだ。なんか恥ずかしいので、心の中でありがとうと言っておく。

 彼との話は盛り上がらない。通話のよりもぎこちなく、よそよそしい。私は今空気が大嫌いだ。

「いつも通りの通話の感じで話をしよ?」

そう私が提案すると、彼は少し驚いた顔をしていたがすぐに嬉しそうに微笑んで賛同してくれた。その表情に私の頬も緩む。

 私の一言で、場の空気はかなり良くなったと思う。彼も話しやすそうでよかった。


 そうこうしているうちに目的のラーメン屋に着いた。思ったよりも古びた建物。入るのが少しためらわれるような外観をしていて怖かったので、ひとまず彼の影に隠れて一緒に入店した。

 店員に案内され、テーブル席に座った。私はさっぱりしたラーメンが食べたかったので塩ラーメンを頼んだ。数分でラーメンは運ばれてきて、二人で一緒にいただきますと言った。

 塩っ気の強いこのラーメンは、私の口にあっているなと感じた。味わって食べていたら向かいに座る彼がもう食べ終わっていた。私、食べるの遅い?そう感じてしまうほど早かった。私も食べるの早い方なのに。急いで残りの麺を食べ、さっぱりしたスープも飲み干すと、彼もちょうど彼が頼んでいたチャーハンを食べ終えていた。二人でごちそうさまを言った。

 タイミングがいいな。午後もさっきみたいないい雰囲気で迎えられるかも。そう感じながらラーメン屋を後にした。


 中田島砂丘へと向かった。ここは彼が行きたがっていた場所だ。景色がいいという話だけ聞いていた。実際、砂丘の頂上からの景色はものすごく綺麗だった。富士山や海の映える美しい眺めだった。そして、彼の方を見ると彼は景色に見とれているようだった。ここの景色を彼が見せたかったと言っていたのを思い出すとなんだか嬉しい。とてもいいものが見れたので私としても満足している。

 二人で海の方まで歩いた。砂丘の下り坂はすぐにも崩れてしまいそうで、一歩進むたびに砂が下に小さく雪崩れていく。足元をすくわれないか不安になりながらも波を見るため前へ進んだ。だが、結局砂ではなく流木に足を捕られつまずいた。前へ体が倒れていく感覚に襲われた。だが、その感覚はすぐになくなる。彼が気づいて腕で支えてくれたのだ。ドキッとした。どこか恥ずかしかった。照れも相まって、きっと私の顔は赤くなっているだろう。私は感謝の意を伝えた。「ありがと」と。

 これではっきりと気づいた。私は彼のことが好きだ。だけど、彼にはこの気持ちに気づいて欲しくない。だって、友達以上の仲良さで恋人未満の関係のこの関係でいたいから。

 もし付き合ったとしても、家が遠いからなかなか会えないっていうのが一番だし、絶対私は寂しいって感じてしまう。

 もし彼が私の気持ちに気づいても、向こうが私のことを好きでいてくれるとは限らない。彼にそういう気持ちがないのに私が告白しても無駄に終わりそうだ。

 この関係が崩れてしまうことが私にとって最大の恐怖だった。


 気づいたら彼が手を握ってくれていた。驚いたが、やっぱり優しくされるとものすごく嬉しい。私はこの手を放したくなかった。寂しさを紛らわすため、強く握り返した。

 ふと進行方向を見る。美しい海だ。いつもの生活で目にする海とは大違い。日差しを受け、煌めく海面は私の気持ちまで受け止め理解してくれそうだ。

「きれいな海だね」

そうやって思わず声が出てしまうほど圧巻の景色だった。

「ああ、確かにきれいだ」

彼もそう思っていたらしい。私を見ながら言ってくれた。目と目が合う。どこか真剣さを帯びた彼のまなざしに、私は緊張してしまう。そして、彼の口から一つの言葉が紡がれた。

「好きです。付き合って下さい」

えっ。私の頭の中は真っ白になった。この状況を信じることができなかった。だがそれもつかの間。少しずつではあるが嬉しさがこみあげてきた。胸の高鳴りを抑え、私は精一杯の勇気をもって返す。

「私も好きです」

だが、神のいたずらか、波の大きな音にかき消されてしまったようだ。彼が聞き返してくる。

「え?うまく聞き取れなかった…もう1回言って?」

大事なところを聞き逃してしまう彼。

「ちゃんと聞き取りなさいよ、ばーか」

そんな声が私の口から漏れていた。ハッとなって恥ずかしくなったが、彼は聞こえていないフリをしてくれていた。そういうところが優しくて好きなのだ。そして私は周りに彼以外に人が誰もいないことを確認して、思いっきり叫んだ。

「好きです!大好きです!これからもよろしくね!」

やっぱり大声で言うのは恥ずかしい。けれど、彼のその嬉しそうな顔を見て言ってよかったと思ったし、私も嬉しくなった。

 駅に向かうまではずっと手を握っていた。彼の手はごつごつしていて、しっかりと握っていてくれたところに、頼りがいを感じた。


 帰りたくなかった。けれど帰らなければならない。お互いの生活があるし、そこは尊重するべきだからだ。お互い、寂しさで涙ぐんではいたけれど、確実にまた会おう。そして、次会うときはデートね。というような約束をし、別れた。今でもよく思い出しては寂しさを感じる。


 私の心配は杞憂だったようだ。彼の存在は私にとってすごく大きなものだと認識した。やっぱり会えないこと寂しいし、つらい。けれどその分次会う時の楽しみが何倍にも膨れ上がってくれるのだ。そうポジティブに考えることにした。ようやく0の位置に立った。だからこの思いを忘れず、これからもやり取りを続けていきたいと思った。



出会いのきっかけを提供してくれたSNSに感謝して。

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