SNS恋愛

棘音

初めてのリア凸(男の子目線)

 浜松駅に思ったよりも早くついてしまった。彼女の家のある都市とのちょうど中間点である浜松は土曜の朝で少しにぎわっていた。


 新着メッセージが来ていないか確認するため、彼女とのDMを更新する。ちょうどメッセージが届いたらしく、通知音が鳴った。

『早く着いちゃった。どーしよ笑』

ということは駅の構内にいるのか。慌てて俺は周囲を確認する。通勤中の会社員や休日登校の学生に混ざって俺と同じように辺りをきょろきょろしている一人の女の子がいた。彼女だ。絶対彼女だ。


 そのまま彼女を眺めているわけにもいかないので、俺は彼女の方へと向かった。近づく俺に彼女は気づいて、こちらを向きながら小さく胸元で手を振ってくれた。そして、俺は手を差し出し言った。

「おはよう。今日一日よろしくね」

すると彼女ははにかみながらも握手してくれて、こう返した。

「おはよう。こちらこそよろしくね」

 彼女は身長こそ小柄だが、体格は整っており、丸顔丸メガネでポニーテールの可愛い女の子だった。


 俺らは、目的地であるラーメン屋を目指し、歩き始めた。最初は緊張してしまって、何を話せばいいか分からなかった。「今日は天気がいいね」「そうだね」というような会話しかできず、自分のコミュ障さを呪った。なぜ最初に握手ができたのかが謎になるくらい緊張して喋れない。

「いつも通りの通話の感じで話をしよ?」

と、彼女が提案してくれた。俺はもちろんこの雰囲気が苦手だったので、

「そっちの方がいいよね。いつも通りで行こう」

そう微笑みながら言うと、彼女は嬉しそうにうなずいた。

 これを皮切りに様々なことを話した。自分たちの地元と浜松を比べて何が違うとか、何が同じとか。さらには地元の友達の面白いエピソードなんかを話した。


 そうやって話が盛り上がってくるうちにラーメン屋が近づいて来ていた。どこか古びたラーメン屋は外観に味があって、きっと美味しいのだろうと想像できる。

 俺らは一緒に店の扉を引き、店内に入った。店員がかけ寄ってきて、「何名様ですか?」と聞いてきたので、指でピースを作りみせると、「二名様テーブル席にご案内します」と大声で言って、先導してくれた。


 彼女と向かい合って座り、俺はしょうゆラーメンとチャーハンのセット。彼女は塩ラーメンを注文した。数分と経たないうちにラーメンは運ばれてきた。

「「いただきます」」

そう口をそろえて言って食べ始めた。しょうゆの匂いが鼻腔をくすぐり、風味だけでも美味いと確信できる。初めて食べるこの店のラーメンはあっさりとしたスープがうまいことちぢれ麵と絡まりあっていて美味しく、すすりやすく、すぐに食べ終わってしまった。俺の食べるスピードがあまりにも早かったのか、彼女は呆気に取られていた。チャーハンに俺は手を付けた。普通においしかった。こちらを食べ終わるころには彼女もラーメンを食べ終えてた。そして口をそろえ、言った。

「「ごちそうさま」」


 その後浜松駅に戻り、中田島砂丘へと向かった。砂丘には俺ら以外に人はいなかった。陸地側から大きな丘を登った。頂上からは、美しい海と、水平線が見える。振り返ると浜松の奥の山々、微かに富士山が見えた。

 そして、俺らは海側へと駆け下りた。不安定な砂地が足をとらえ転びそうになるのをこらえながら、海に向かって進む。海が近くで見たくて少し小走りになった。しばらく進んだところで彼女が流木につまづいてしまった。

「大丈夫か」

 俺はとっさに彼女のことを支えていた。ゆっくりと体勢を立て直したところで俺は支えていた手をそっと離した。彼女は少し目をそらし、恥ずかしがりながら「ありがとう」と言ってくれた。彼女のその表情を見て、なんだか俺まで恥ずかしくなってしまった。

 

 その後の彼女の足取りを見ていると、またつまづいてしまいそうだと思ったので、俺はそっと彼女の手を握った。彼女の顔を見ると、とても驚いたような顔をしたが、強く握り返してきてくれた。

「きれいな海だね」

 そう言われ、海の方に目をやると波が弱く立っていた。日差しが反射し、海面が輝いている。波は目前まで打ち付け、波形を砂浜に残していく。

「ああ、確かにきれいだ」

 思わず声が出てしまっていた。圧巻だったのである。久しぶりに見る海は、自身の心まで洗われるような清さを感じた。更にその美しい背景に映える彼女はとても美しく、この時間が続けばいいのにとも思った。


 そして、俺は今までずっと温めてきた言葉を口にした。俺の胸は早鐘をつくように高鳴っている。

「好きです。付き合って下さい」

そのストレートな言葉に彼女は驚いていた。あまりにも予想外の出来事だったのか、言葉を失っていた。波の音がその静けさに響く。そのさざめきが俺の鼓膜を揺らす。自分の心臓の音が聞こえる。彼女が口を開いたが、波の音と胸の鼓動がうるさくて彼女の声がうっすらとしか聞けなかった。

「え?うまく聞き取れなかった…もう1回言って?」

思わず聞き返してしまった。

「ちゃんと聞き取りなさいよ、ばーか」

と小さな声で彼女はそう言ったが、恥ずかしそうにしていたので俺は聞こえてない振りをした。そして彼女は辺りを見渡して海に向かって

「好きです!大好きです!これからもよろしくね!」

振り向いた彼女は恥ずかしそうででもどこか嬉しそうで、それを見て俺も嬉しくなった。

 駅に向かうまではずっと手を握っていた。彼女の手は温かくて、小さくて、守ってあげたいとまで思ってしまった。


 帰りたくなかった。けれど帰らなければならない。お互いの生活があるし、そこは尊重するべきだからだ。お互い、寂しさで涙ぐんではいたけれど、確実にまた会おう。そして、次会うときはデートね。というような約束をし、別れた。今でも時々思い出しては泣きそうになる。


 「彼女」という存在へ昇華したことによって、彼女は俺にとってかけがえのない存在になったのだ。ここから、遠距離恋愛という大きな壁が立ちはだかり、なかなか会えないという日々が続くと思う。けれどこの関係はずっと続けていきたいし、もっと良くしていきたい。ようやく0の位置に立ったから、これから大きくしていきたい。この思いを忘れず、これからもやり取りを続けていこうと、そう感じた。


出会いのきっかけを提供してくれたSNSに感謝して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る