第3話 思い出の場所

次の日も、そのまた次の日も、アポロンに通う。

決まった時間に行き、アイスティーだけを注文する。


アリスさんは、こちらをみて微笑むだけで、あれ以来会話はない。


何事もなさそうだ・・・

帰ろうとした時、マスターが声をかけてきた。

干渉しないのが、暗黙のルールのはずだが、珍しい。


「少しいいですか?」

「ええ」

マスターを向かい合わせで座る。


「実は、彼女アリスは、孤児なんです」

「孤児・・・ですか?」

「ええ、幼い頃に両親を亡くし、孤児院で育ちました」

「そうなんですか・・・」

知らなかった・・・


「その時の名前は・・・」

「はい」

「鹿島まな、それが彼女の本当の名前です」

「ということは?」

「ええ、それまでの自分と決別する意味で、福山アリスにしたんです」

源氏名みたいなものか・・・


「孤児院を出た後は、私が面倒を見ています。

ここで働いているのもそのためです。」

「何のためにですか?」

的外れな質問をしたと思う。

でも、訊かずにはいられなかった。


「あなたを、探していたんです」

「私をですか?どうして・・・」

「あなたに会って、恩返しをするためです」

見当はつかなかった。

僕はそんな、善人ではない。


「孤児院では、『受けた恩は忘れてはいけません』。

そう教え込まれたんです。

アリスは、その言葉通りに、あなたを探していました。

そして、ようやく巡り合えました。」

理由はわかった・・・

でも・・・


「私が、ここに来るという確証はないかと・・・」

「いいえ、必ず来ます。なぜなら・・・」

「なぜなら?」

「ここは、あなたとアリスにとって、思い出の場所だからです」

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