第3話 コンテスト

  開演を控え、楽屋には数組のバンドが準備をしていた。

 あるバンドは格好だけビートルズもどき。あるバンドはギターのチューニングが合わず弱りきっている。

 カオリは少し固まった。

「ちょっとヤバイんじゃない。この雰囲気。仮想大会でも学芸会でもないし。ライブの雰囲気じゃないよ。やっぱ帰ろうか」

 言ってるうちに篠崎に連れられ、係員と思われる若者達がやってきた。

 中から一人出てきて挨拶を始めた。

「司会の沢井です。ヨロシク。君達参加してくれるんだってぇ。大丈夫、大丈夫、心配しないで、エレキ弾けるだけで何とかなるから。じゃあ、紹介するんでバンド名と皆さんの名前。担当の楽器と年齢や職業あったら教えて」

 リョウとカズがブツブツ言っている。

「なんかよう。どうも気になるんだけど。こいつらヤケにタメ口過ぎない? 見た目オレたちより20歳以上、若く見えるし、もう少し年長者に対する口の聞き方あるんじゃないか」

「そうですよね。僕も高校時代野球部だったから言う訳じゃないけど何かムカつくんですよね。でもマアー時代だからしょうがないのかなぁ」


 ジュンから順に自己紹介を始めた。

「バンド名は、『TWO HUNDRED』名前の由来は、オヤジ達の年齢を足すと凡そ200歳だということ。そしてもうひとつは、200歳まで永遠に続けようと言う意味だ。全員『星越百貨店』の仲間でオヤジバンドさ。俺の名前は三浦淳一。バンマスで担当はドラム。56歳。紳士靴のマネジャー」

「私はボーカル、葉山香織。オーダーワイシャツにいるわ。採寸の腕は良いのよ。年齢は35歳」

「ワシャ、ギター担当の片瀬大。営業本部ヤングキャリアのゼネラルマネジャー。結構エライのよ、でも年齢的に若い人向きの商品しんどい。歳は53歳」

「オレは森戸亮輔、ベース担当。システム開発のマネジャー。商品と顧客のソフト開発をしている。45歳」

「僕は一色和也。ギター担当。紳士服の店舗バイヤー。商品開発とショップ編成が仕事。あんまりかわり映えしないけどね。40歳だよ」


 一瞬座がシーンとなり、「ウワァッ!」と笑いの渦が沸き上がった。

「面白い人達だねェー。オヤジバンドだってそんな言葉初めて聞いた。年齢や職業はいいや、バンド名に名前と担当楽器だけ紹介するわ。アー笑える。開演は5時ね。今3時30分だからそれまでステージ自由に使えるから準備でもして。じゃあ又後で」

 そう言うと沢井と篠崎はテントの張ってある事務局にそそくさと向かい始めた。

 歩きながら沢井がバンドを振り返り、篠崎にそっと耳打ちしている。

「シノさん大丈夫? あんなの拾ってきて。いくらバンドが足りないからって言っても50歳だ、40歳だって正気じゃないよ。言葉使いも横柄だし。冗談にしたってセンスなさ過ぎるわ。あんなのがいるから『最近の若い奴らは』って言われちゃうんだよ。俺知らないよ」


 5人が篠崎と沢井を見送っていると後ろで声がした。

「どうする、直前リハやるのか? アンプとマイクのセットは出来てるぞ」

 40歳位の男が咥えタバコで近づいて来た。

 アメリカ空軍のキャップにサンダル履き、黄ばんだ開襟にカーキ色の綿パンとままるで的屋のオヤジだ。背丈は170センチ位、やさぐれた様子で目つきが鋭く歳の割りに体は締まっている。

 短くなったタバコを捨てる仕草からは投げやりな気分も伝わってくる。

 男は、バンドの楽器に気付くと少し驚いた様子で見つめた。

「お前ら、なんでそんなもの持ってるんだ。ギターはストラトにレスポール、ベースはプレシジョンでスネアはラディック、いったい何処で手に入れたんだ……」

 不躾な言葉に温厚なカズも流石に『ムッ!』と来た。

「どんな楽器持ってようが、こっちの勝手じゃないか。自分の稼いだ給料で買ったんだから。詮索される筋合いはないよ」

 思いがけない勢いに男は少し押された。

「いや、悪く思うな。めったに見れない楽器なんで、つい驚いてな」

 男はそう言うとステージに上がりアンプの電源を入れ始めた。

「朝から準備しておいたんだ。シールドが足りなくて30分前に西荻の事務所から戻ったばかりよ。間に合って良かったな。こいつらは大切な商売道具なんだ、大事に使ってくれ。下手くそな音出すなよ、アンプに変な癖がつく」

 そこまで言うか、冗談じゃない。

 こっちだって頼まれた来たんだ。

 カオリもさすがにムカついた。

「本当にここの奴ら、礼儀知らないよね。出るのやめようか」

 その時、先にステージに上がったリョウから驚きの声が上がった。


 リョウはステージで信じられないと言う顔をしている。

 一体何が起きたのか皆の視線が集まる。

「その台詞はアンプ見てから言った方がいいぞ。スゴいぞ、見てみろよ」

 全員がステージに上がった。

 成る程すごい、思わずため息が出る。

 ギブソンのGA40、フェンダーのデラックス・ツイード、ベースマンと言った60年代に作られた幻のアンプがズラリと並んでいる。しかもコンディションは新品同様だ。

 音は、予想どおり素晴らしかった。明らかに出来の良い真空管が作り出す音だ。 今ではとても手に入らない木材との暖かい共鳴もある。本番が楽しみになってしまう。

 ブルースコードで軽くセッションをした後、何ともレトロな瓶ジュースでくつろいでいると程なくしてコンテストが始まった。


 それにしても出演バンドは散々の出来ばかりだった。人間と言うのは、悪い予感には本当にきっちりと応えるものだ。決して期待を裏切らない。

 ビートルズに格好だけそっくりバンドは、歌詞が英語なのか日本語の方言なのかサッパリ分からない。チューニングで苦労していたバンドは案の定、音がバラバラでただの雑音だ。

 客席から声が上がった。

「モゥ、いい加減にしてよ、シノちゃん。ビートルズみたいなバンドが見れるって言うから来たのに、子ども会の合奏じゃないんだから」

「俺だって栃の海と豊山を我慢してきたのに、これじゃサギだ」

「今度のバンド次第じゃ、青年団のイベントなんか金輪際協力しないからな」

「そうだ! そうだ!」と言う声が会場のあちこちから聞こえてきた。どうやら半分以上がサクラの様だ。

 司会の沢井がステージの袖で固まってしまい篠崎に囁いた。

「どうするシノちゃん、皆怒っちゃったよ。一般どころかサクラまで帰ったらもう二度と青年団のイベントは開けないぞ」

「そんな事言ったって。残りはひとバンドしか残ってないんだろ。しょうがねェーよ。紹介してこい。それがお前の役目だろ。盛り上げてこいよ」

「なんてこった、最後はおふざけバンドか。どうなったって知らないからな」

 沢井がトボトボとステージの真ん中に出てきて、仕方無さそうにバンドの紹介をした。

「エー皆さん、本日最後のバンドです。ご紹介いたしますのは、美しい女性のボーカルを中心といたしましたTWO HUNDREDです。どうぞヨロシク」

 投げやりに紹介だけするとソソクサとステージから降りてしまった。


 5人はステージに立った。

 あきらめのムードがビンビン伝わって来る。いや、むしろ不機嫌な怒りすら感じられる。

 カオリが振り向いた。

「ジュンさん、こりゃムリだよ。故障とか適当に言ってやめよう」

 ジュンはうんざり気味に応えた。

「お前な、もう始まっちゃってんだよ。始まったら後ろ振り向くなって言ってんだろ。ボーカルは皆を代表して前で受けるしかないの。それにすがっても可愛さで売る歳じゃ無くなってるんだから。歌いなさい、前向いてウ・タ・イ・ナ・サ・イ!」

「冷たいじゃない。ネッ! 皆、なんとかフォローしてよ」

 順番に無情な答えが返って来た。

「大丈夫、大丈夫。お客さんはボーカルしか見てないから」

「ベースが難しいテクニックを幾ら見せたって誰も聞いてないし」

「Oh my destiny、やりましょ流れのままに」

 情け無さそうにカオリが客席を向き、歌の紹介を始めた。

「アノ、アノ、私たち歳も歳だしオヤジバンドなんで。昔の歌を歌います。マァ、そこんとこヨロシク。最初の曲は『揺れる想い』です」

 沢井が舌打ちをして呟いた。

「まだ、オヤジバンドなんて言ってやがる。それに『揺れる想い』なんて曲聞いた事もないよ。もうこれでオ・シ・マ・イ・だ」


 カオリが曲紹介をしたのに合わせて客が席を立ち始めた。

「ワン、トゥー。ワン、トゥー、スリー、フォー」

 カウントが入る。

 ジュンのクラッシュに合わせて、ヒロとカズのギターがディストーションを思い切りかけて音をひずませた。アンプの性能と合い、思いがけない迫力が出た。リョウのベースもしっかりと効き、曲の背骨を支えている。

 弦を絶妙にミュートさせながら絡む二本のギターが気持ち良い。

 二つの五線譜が糸を撚る様に螺旋を描いて行く。

 軽い前奏から即、歌に入る。

「♪揺れる想い 体じゅう感じて 君と歩き続けたい in your dream!♪」

 カオリが歌い始めると客の動きが止まった。腰を浮かした客は座り直し、席を立った客はその場で振り返り、次々と席に戻り始めた。

「♪夏がしのび足で 近づくよ きらめく波が 砂浜潤して こだわってたまわりを 全て捨てて 今あなたに決めたの♪」

 夏を感じさせる歌詞、そして心地よいリズムとメロディーに吸い込まれていく。

 店の納涼大会用に散々練習した曲なので5人にしてみれば手馴れたもんだ。

 ギターのヒロとカズが目配せしながら絶妙に絡み合っていく。

 音符のキャッチボールだ。

『そろそろ、この辺で盛り上げっか。ホラヨッ!』

『OK、あいよ!』

 そんな感じだ。

「♪青く澄んだ あの空のような 君と歩き続けたい in your dream!♪」

 エンディングも思惑通りだ。

 上手く、はまった。

 客が次の曲を待ってるのが分かる。

 2曲目は、「負けないで」だ。

 ドラムが「タン、タン、タド、タド」とトリッキーに入り、明るい力強さを感じさせるリズムを作る。

 ギターとベースそしてドラムが絶妙のイントロを作った。

「♪ふとした瞬間に 視線がぶつかる 幸運のときめき 覚えているでしょ パステルカラーの季節に恋した あの日のように 輝いている あなたでいてね♪」

 ドラムのきっかけからサビに入る。ギターとベースも身体でリズムを作りパフォーマンスを繰り広げると会場の興奮はピークに達した。

「♪負けないで もう少し 最後まで走り続けて どんなに 離れてても 心は そばにいるわ 追いかけて 遥かな夢を♪」

 身近な感情を表した歌詞にヘビーメタルの深く歪んだ男っぽいサウンドと柔らかい女性ボーカルの歌声が絶妙にシンクロしている。

 5人の創り出すグルーヴが観客と一体となり、ツーコーラス目からはリズムに合わせて拍手がやまず、歓声が上がる。

 ここまで来るとカオリも自信が湧いてきて、振りまでつけ始めた。

 ボーカルの動きに観客の眼線が釘付けとなり、曲の世界に入り込んで行く。

 エンディングと共に拍手が沸きあがり、アンコールに応えるがなかなか終われない。

 やった! スタンディングオペレーションだ。


 いつまでも拍手が鳴り止まない。5人は何度もステージで挨拶をし、やっと終了した。

 ステージを下りると篠崎と沢井が顔を紅潮させていた。篠崎が興奮して話し始めた。

「すごかった。皆さんありがとう。さっき公園で会ったばかりなのに急なお願いをして、危ないところまで救ってくれた。改めて吉祥寺商店会の青年団を代表してお礼を言います。それにしてもいい曲だった。歌詞もメロディーも初めて聞いたけど感動しちゃったよ。そうそう、優勝はもちろんTWO HUNDREDに決定です。おめでとう。表彰の後演奏をもう1回お願いしますね。何か出来る事があったら本当に気兼ねなく言って下さい。応援してます。きっとプロ目指しているんでしょ」

 カオリも自信が湧いたのか嬉しそうだ。

「お役に立てて良かったです。皆さん、お若いからきっと知らない曲なのね。だから新鮮だったんでしょう。私達も盛り上がって嬉しかった。自信がつきました」

 他の4人も嬉しそうだ。

 そこへビートルズ風の若者が4人やって来た。その中の一人がオズオズと話しだした。

「すいません。今の曲聞いて凄く感動しちゃったんですけど、コード進行のコツ教えてもらえませんか。すいません厚かましくて申し訳ないんですけど」

 もう成層圏の彼方までヨイショだ。

 嬉しそうに、リョウが答えた。

「君たちクラシックでバッヘルベルの『カノン』って言う曲、知ってる」

 メンバーの一人が答えた。

「アー、何となく知ってます。なかなか終わらない曲ですよね」

「そうそう、あれと同じコード進行だよ。基本はベース音が一音づつ下がって行く。J-POPの素と言っても良いコード進行じゃん」

「ハアー、J-POPってあるんですか。やっぱりクラシック勉強しないとダメなんですね」とがっくり肩を落とした。

「イヤ、そうじゃなくて」とリョウが言いかけた時、表彰式が始まってしまった。


「2万円」と金額が書かれた祝儀袋を渡された。

 賞金の額には少し不満が残ったが、目の前で袋を開けるのは憚られ有難く頂戴した。

 それにしてもあれ程ウケルとは。

 5人は、上機嫌で会場を後にした。

 カオリは嬉しくて仕方がない。

「ネェー、せっかくだから打ち上げしない。行こうよ、賞金も入ったし。いいでしょジュンさん」

「そうするか。確か公園のゲートを出て直ぐアンティークな焼き鳥屋があったな。そこで打ち上げよう。2万円だったら少しくらいお釣りが来て帰りの交通費位にはなるし、多数決でどうだ」

「賛成」

「賛成に賛成」

「その賛成の賛成に賛成」

 陽も暮れて少し腹も減って来た。

 色々な事があった一日なので衆議一致。

 ニコニコと焼き鳥屋に向かう。

 公園のゲートにある時計は7時を指していた。


 公園を出ると昭和初期に戻った様なレトロな焼き鳥屋があった。

 赤提灯の横にある窓から焼き鳥の匂いを纏った煙が流れてくる。

 夏の夜、赤提灯、焼き鳥の匂い。自然に身体が向く。

 5人は、待ちきれないように暖簾をかき分け席に着いた。

 すると壁の品書きを見ながらヒロがスマホを取り出した。

「ちょっと家に電話しておくわ。遅くなるのはいつもの事だから知ってるけどね。念の為、家族の為。アレッ、圏外だ。ここダメかぁ」

 そう言うと残念そうにスマホを見つめた。

「アッ、そうなの」

 他のメンバーも自分のスマホを覗き込んだ。

 その瞬間、店内の客と店員の眼が一斉に注がれた。

 なんとも言えない沈黙が全体を支配し、その空気にカオリが気づいた。

「ヤメタほうがいいよ。全部圏外だし、携帯禁止みたいだから。電源切ろうよ」

 そーっと、スマホをしまい店員を呼ぶと店内はホッとした様に又、元の空気に戻った。


 気まずい雰囲気を察知して、ジュンが遠慮気味にオーダーをした。

「すいません。ビール4本と焼き鳥5人前盛り合わせでお願いします。カオリはサワーか? サワー系、なんかあります?」

「なに、サワーって。うちは品書き以外ありませんよ」

 カオリが答える。

「アッ。いいです、いいです。焼酎常温で一杯とジョッキに氷をいっぱい入れて、サイダーは瓶で下さい。それと灰皿も」

「えっ、アナタ女の子なのに焼酎飲むしタバコも吸うの。焼酎はどうやって飲むの?」

「タバコじゃなくてIQOS。どうでもいいでしょ、早く持ってきてよ」

 喉が渇き腹も減っているので、いささか機嫌が悪い。

 勢いに押される様に急いでオーダーが持ち込まれた。

 カオリが氷の入ったコップに焼酎とサイダー注いだ。

 まわりのオヤジが「ほ、ほう」と言って驚いている。

「ホラ、サイダーサワーの出来上がり。乾杯!」

 皆も上機嫌だ。口々に今日の感想を語り、笑いあった。


 その間店内の客や店員は時々5人の方をチラチラ覗いては話し合い、小さく「若い奴」「焼酎」「エレキ」と呟くのが途切れとぎれに聞こえて来る。

 カズは気になって仕方がない。

「なんか視線が気になりません。リョウさん」

「そうなんだよな居酒屋とはいえ女が少ない、と言うよりもカオリしかいない。それに『エレキ、エレキ』って席の邪魔はしてないと思うよ」

 ヒロが焼き鳥を食べながら見回した。

「マァー、いいよ。焼き鳥に集中しようよ。ジュンさん、ここの焼き鳥旨いわ」

「そうそうヒロ、お前の性格こう言う時ホント役に立つわ。ここの焼き鳥は小ぶりでさっぱりしてるんだよ。沢山食える」

 5人はその後コンテストの話で盛り上げって行った。

 1時間ほどの時が過ぎ、いささか焼き鳥にも飽きてジュンが会計に立った。

「ご馳走様、お勘定お願いします」

 オヤジが数え始めた。

「えーっと、ビールに焼き鳥40本、お新香に、煮込み、サイダーと焼酎、熱燗。ありがとさん。1550円ね」

「随分安いねェ。5人で幾らですか」

「イヤ、だから全部よ」

「ウソッ!創業記念とか、ナンカのキャンペーン?」

「何言ってんの全部に決まってるでしょ。あんたら、普段なに食べてんの」

 思いがけないオヤジの反応に気押された。

「それじゃ、マァ、アノすいません一万円でお願いします。いいのかなぁー」と言い、信じられないと言った表情で恐る恐る一万円札を出した。

「あんたねェー、冗談も休み休みにしてよ。子供銀行じゃあるまいし、こんなお札ある訳ないでしょ。一万円札と言えば聖徳太子に決まっているじゃない」

『ヤハリ』と、ビビる。

 やっぱり足りないのか、イヤ何か違う……。

 カオリが心配してやって来た。

「賞金で払おうよ。今、封を開けて気づいたんだけど賞金は聖徳太子だよ。はいコレ」と言って祝儀袋から聖徳太子の一万円札を引っ張り出した。

「そう、これだよ。まったく悪い冗談ばっかり。はい、どうもありがとう。又来てね。お嬢ちゃん可愛いし、焼酎の飲みっぷりもいいね。気に入ったよ。でもタバコはやめた方がいいよ。帰り道、気をつけて」

 オヤジは上機嫌だ。

 まぁいい、安かったし店から出てきた5人も上機嫌だ。

 カオリがカズの手を取って先を歩き、続く3人も嬉しそうに笑って歩き出した。

 駅へと向かう道路はやや上りでゆっくりとカーブしている。

 しばらくすると街路灯に照らされた2人の動きが「ピタリ」と止まってしまった。

 カーブの曲がり切った所でこちらを振り返り、道路の先を指差して口をパクパクさせている。

 何を言っているのか分からない。

 2人に近づき、届いた言葉は「踏み切りになっている!」だった……。

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