昭和の親知らず

太田好美

第1話 お寺で

 8月のあるお盆の日、父の三回忌で墓参りに来た。ちゃんとした墓ではない。今流行の共同墓地に埋まっている。父の名前だけ掘ってもらった。私の家は、個人で墓地を持つほどの家ではなかった。実家も賃貸の団地住まいだった。埼玉県にあるひっそりとした寺に父の骨は埋まっている。共同墓地には、私がコンビニで買ってきた仏様用の300円花と線香を置いた。

 墓地前で手をあわせていると、お寺の和尚が声をかけてきた。「お久しぶりです。あなたのおとう様は、何年生れでしたか?」と尋ねてきた。私は、とっさに「確か昭和14年生まれだと思います」と答える。「どこのご出身でしたか?」とニコニコしながら続けて言葉が続く。「えっと、、、長野県の小谷の出身だったと思います。田舎から、中卒で東京に来たようで…。」と話すと、和尚は少し間をおいて「その世代は、金の卵といって地方から集団就職で東京にきた人が多かった時代ですね?」と話し始めた。"はて?金の卵???なんだ、それ?"って首をかしげて和尚の話を聞き続けた。「その頃の時代は、日本は本当に貧しい時代で、田舎から若い学生が東京に来て、工場などで集団で働きに来ていたんですよ。その頃の高度経済成長を支えた人たちですよ」と説明してくれた。日本を変えてくれた世代らしい。和尚の言葉で、過去の"昭和"という時代について少し考えるようになった。今は、"令和"の時代だ。時代の差を感じた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

昭和の親知らず 太田好美 @azumi710

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ