目覚めて異世界

意識が灯る。


ふと、さっきとは違う場所にいると気づいた俺は、自分が異世界に飛ばされていたことを思い出す。

長らく寝ていたようなそんな感じがするが、実際の所は分からない。

ゆっくりと瞼を開けると、一気に日光が差し込んでくる。眩しいの一言に尽きるな。


俺は体を起こした。

道の周りに置かれた木の柵や、レンガ造りの道路。その道を通る馬車。見渡す限り、ここが俺の故郷の日本ではない要素がちらほらと窺える。

異世界生活がスタートしたみたいだ。


見たところ体に異常なし。

異世界転生主人公が着ている可能性高めの、そして俺の愛用着であるジャージ(黒色)も健在。

試しに体を動かしてみるが、目立った傷も汚れもないので問題なく使えそうだ。


どうやら草原の木陰で眠っていたようで、あの神様からもらったドラゴンの卵が木に寄っかかっている。

明らかに地雷臭しかしないこの卵も役に立つのだろうか? どちらにせよこんなところに放置しておけないので、抱えて持っていくことにした。


ところで俺が異世界転生をしても、つまりこの世界の住人ではない者が別の次元から急に現れたりしても何の影響も出ていないのは、ここの神様。


つまりは俺を転生させたあの神様の先輩的立ち位置だと思われる人物が辻褄を合わせてくれたのか、俺みたいなただの人間が飛ばされてきたところで影響など元から出ないのか。


まあそんなことは知る由もないので、自分の体に何の変化も無い事を素直に喜ぶべきだろう。

俺が起きた時刻は、太陽の上り具合と気温からして、ざっくり言えば昼だ。厳密に言えば分からん。


少し高くなっている丘に登ってよく見渡すと、結構近めの場所に街が見えたので向かうことにしたのだが、そこで何かしらのイベントが起こるなどという、都合のいいことは残念ながらなかった。


それどころか問題が発生する。


「暑い……この暑さは引きこもりにはかなりきついぞ」


まず最初に問題になったのは何より暑さだ。


長らく外の世界にはコンビニ以外で出てないからな。歩くのにも日陰を探しながらそこを選ばなければならない。

人間が持つには極端にデカいこの卵も、体力を削る要因だ。

早めのうちにどこかに住める場所を借りて、手元から離しておける環境を用意するしかないな。


そして人。街に入る前はそうでもないと思っていた人の量は、入った途端にこれでもかという程に増えた。ニートは人込みに弱いって、それ一番言われてるから。


だが、そんな問題点より俺が気になったのはその人たちの身に付ける装備品だ。

もちろん普通の服(ゲームの村人のような)を着ている人もいる。


だが、その中には鎧を身に纏い剣を携える人、屈強な体格の上にレザースーツのようなものを着て斧やハンマーを持っている人、ローブを着て杖を持った人、などの日本ではコスプレイヤー以外ではまず見ない風貌の人が結構な人数居る。


「本当に異世界に来てしまったのかー」


まさしくファンタジーというような世界観に俺は思わずそんなことを口に出す。

ちなみに全然感慨深くはない。ただの感想であり、俺はむしろ屋外に放り出されたことに落胆している。


というかこの中だと万年ジャージの俺が日本より更に浮いて見えてしまう。

証拠に周りの人が、「何あの服、新型の鎧?」とか「かなり薄いけど俺たちの服とは違うな、あんなので戦えるのか?」とかヒソヒソ話している。残念ながら戦えません、運動用です。運動したことないけど。


目的もなく街の中をブラブラしていると、ふとそこで、俺はこれから生活していくうえで一番重要なことを疑問に思った。


「金ってどうやって稼げばいいんだ?」


何も考えずにここまで来たは良いが、俺は金が無い。無一文だ。

基本ずっと自分の部屋の中にいたので財布も持っていない。

もし持っていたところで、この街で使われている貨幣が日本円である可能性は極めて低いのでそこはあまり気にしてないが。


にしても困った事態だな。あの神様からある程度の金は貰っておくべきだった。

住み慣れ過ぎて俺と一体化しかけてた部屋はもう無い。

つまりはここからは自分の力だけで生きていくしかない。

そんなことは、元の世界でバイトをしたことすらない俺には無理難題だ。


なんで昨今の異世界転生ハーレム物の主人公はあんなに首尾よく事が進むんだ? なんですぐにお嬢様に好かれるんだ? この状況詰みじゃない?


リ○ロの主人公だって屋敷に住んでるじゃん。全然ゼロからじゃないじゃん。むしろその屋敷に俺も住ませろ。いや、住ませてくださいお願いします。


そんな文句が心の中に充満するが、それを聞いてくれる美少女は、誠に残念ながら俺の隣にはいない。あるのはこの卵だけだ。

そう思うとなんかこの卵の持っている熱がすごく温かく感じてきた、大事にしよう。


しかしこのままでは飢えて早々に死んでゲームオーバーするので、俺は取り敢えずの第一目標を、住処を確保することに設定した。


その為にここはよくあるテンプレに従って、働くための職探しをするのに冒険者ギルドに行くことにした。


お金がなければ冒険者になればいい。


だってここは異世界なんだ!


そうしてポジティブシンキングで場所を聞いたが、話しかけた人に怪奇の目で見られた。

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