第2話天界にて②
神、ねえ……
目の前で神の名を騙る変人を前にして、俺の中で自然に描かれていた神のイメージが、朽ちて砕ける。
まあデス〇ートその主人公も「新世界の神になる」的なこと言ってたし、神っていうのは意外と身近な存在なのかもしれん。
勝手に合点して頷く。
「いや、だとしても“これ”が神はないよね」
やっぱり理解できないわ。神じゃないわ、この人。
だが、それを聞いた自称神様は立ち上がって激昂する。
「君、それは失礼だぞ! 神に向かってなんて口きくんだっ!」
肩を怒らせて俺に向かって大声で反論してきた。これが神かー。
「いーや、お前のさっきの態度の方が圧倒的に失礼だ!」
神とかそれ以前に、自分の死因で笑われたら誰でも怒るわ。倫理観が無いのかお前は。
「うるさいうるさい! 大体、あんな死に方してる奴見て笑わない方がおかしい!」
開き直ったかと思えば、玉座から完全に離れ、俺に近づいてくる神様。
ある程度近づいて来るうちにかかる靄が晴れ、遂にその姿が明らかになる。
その姿は確かに神様だった。
見たところ、歳は恐らく俺と同じか少し下ぐらいだと思う。神の年齢基準が分からないが。
清潔そのものみたいな、傷や汚れどころか、縫い目すら一つも見当たらない純白の服。
それに勝るとも劣らない程に白い肌、白い髪。
大きな瞳をした整った顔。
テストの問題でこの少女の写真を見せられて、これは何ですか? と聞かれたら「神様」と確実に答える。
美少女。この言葉で全て言い表せるだろう。
だが、一つ残念だったのがその中身だ。
「バーカバーカ、二次元オタクー!」
「二次元オタクのどこが悪くてどこがバカなのか説明してもらおうか!」
もうさっきの閑静な雰囲気などはどこにもなかった。死後の世界? そんな大層なもんじゃないよ。
だってただの馬鹿が一人いただけだからな。
しばらく言い合った後に俺たちはそれぞれの椅子に一旦戻る。この無益な戦いは一時休戦だ。話が進まないからな。
「で? 俺が死んでどうなるって? 死者の世界にでも行くのか?」
死んだなら死者の世界に行くだろう。天国的な、ヘブン的なところだ。
「行かないよ?」
神様は俺の問いに首を横に振った。どうやら違うらしい。
「そうしたいところだが、残念ながらそれは出来ないんだ」
出来ないって言っているが、それだと話が通らない。
「じゃあ俺はどうすればいいんだ? まさか、ずっとここにいる訳じゃないよな?」
それだけは絶対嫌なんだが。
「そんなのこっちが願い下げだ。死んで成仏した人が行く死者の世界には入る条件があるんだが、君はそれを満たしてない」
お前も俺とずっと一緒は嫌か? 俺たち気が合うな。ワタシタチズットモダネ!
それにしても死者の世界に行くのに条件なんてあるのか、それは知らなかったな。というか、実際に死者の世界があること自体を初めて知ったが。
「一体どんな条件なんだ?」
神様が答える。
「現世で人生を全うする」
言われた言葉はそれだけだった。
だが、俺は非常に焦っていた。心臓がバクバクだ。あれ?死んでるのに心臓が動いてる。なんで?
とにかくその言葉だけは、出来れば俺に対しては言って欲しくなかった。
「もっと噛み砕いて言えば、真面目に生きるとも言うね」
これはまずいことになったぞ。
「石榴……」
「はい」
「君、真面目に生きてなかっただろ?」
「はい」
・・・
俺、灰離石榴は死ぬまでのここ数年間をとてもつまらない、実に下らない人生を送っていた。
御年十七歳、高校二年生のよくいる普通の男子高校生だ。
何が取り柄なわけでもないし、趣味と言えるものもなくただただ過ぎていく日常を消化するように生きていた。
何がきっかけだったか全く覚えていないが、ある時学校に行くのが億劫になり、休んだ。
ただそれだけのことだ。
それは今思えば泥沼に一歩足を踏み入れた瞬間だったのかもしれない。
泥沼は一度嵌ってしまえば、後はずぶずぶと沈んでいくだけ。
そこからは学校へ行く気力が無くなっていき、どんどん休む頻度が上がり、遂に完全に行かなくなった。
別に人間関係が上手くいかなかった訳でも、勉強が面倒臭かったわけでもない。
理由は簡単だ。俺が不真面目に生きていたから、ただそれだけのことだ。
人生というものについて軽く考えて、甘えて生きていた。
いつの日か親に自室の扉越しに言われた「学校に行きなさい」という言葉はあの頃の心の死んだ俺には響かなかったのだ。
俺は学校に行かなかったその間何をしていたか?
何もしていない。俗に言うニートっていう奴だ。
その時の俺は非暴力・不服従を訴えていたガンジーでさえ、思わず飛び膝蹴りをかましてくるレベルで怠惰だった。怠惰と言っても、別に脳が震えたりはしないが。
そんな俺だからか、こういう風に神にすら悪い意味で目を着けられてしまうのも別に不思議なことではないと思う。
自堕落ニートはそう簡単には成仏させてもらえないらしい。
きっと死神すらも俺を地獄に連れていくべきなのか悩んでいるのだろう。
遂にニート脱却を目指して頑張る時が来たみたいだ。俺にとってはそっちの方が地獄だ。
一旦俺は神様の前に精いっぱい誠意を込めて正座をする。
「で、俺は一体何をすればいいんでしょうか?」
自分の死ぬ前について思い出して完全にノックアウトされた。
今の俺には生きる価値も無ければ、死ぬ資格も無い。
そんな酷い話があるだろうか。
痛いところを突かれてしまった俺は下手に出る他ない為、今後の方針について尋ねることにした。
俺が急に真面目になりだしたことで少し動揺をしていた神様は、気を取り直してよくぞ聞いてくれたとばかりに話し始める。
「普通の場合なら良いことをした人間は天国に行き、悪いことをした人間は地獄に行くという風にシンプルに分けられる。だが、君は何もしていなかった部分がほとんどで、どちらに送ればいいという判断材料が無い。それならどちらに送るか決める所から始めるしかない。不真面目に生きてきた君に科せられる仕事は一つ」
天国どころか地獄からも門前払いを受けた俺は何をさせられるんだ。
……少しの沈黙を置いて神様が告げた。
「異世界転生だ」
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