伝説日和にRPG日常

形無めつ

第1話天界にて①

突然だが俺は今どこにいると思う?


俺のことをどこからか見ているかもしれない存在に対して、その虚空に向かって質問してみる。


しかし、その問いに対して答える者は誰一人としていない。


それより以前に、そんなこと聞いても分かるわけないよな。安心しろ。


俺も分からないから。


こんな時、普通の人だったらなんて答えるだろうか。

小学生とかだったら、日本、地球、宇宙、の三択の中から答えるだろう。居るよね、そういう奴。何してるの?って聞いたら、「呼吸してる」っていう奴ぐらいに低レベルだよね。


だが、俺はこの場所がそのどれかに当てはまるのかさえ確証がない。


そんなことも分からないとは、お前は馬鹿なのかと言われても、その考えは変わらない。


ここがどこなのか。それは、今この場所においては馬鹿でなくても、極端に言えば有名な偏差値の高い大学を首席で卒業していたとしても、確信を持つことは出来ない筈だ。


そんなことが一瞬で分かってしまうのは、天才とかそんな生半可な物じゃない。


そういう存在のことを、人は神と呼ぶのだろう。


なんてカッコつけたことを言ってはいるが、俺は神でもなんでもないそこら辺の一般市民なので、全然察しもつかない。


こんな意味のない下らないことを言っていても、俺が置かれている状況は伝わらないと思うから、事情を説明しよう。


今、俺の周りには、黒い、暗い、広い。こう形容する他ないような、暗黒の空間が無限に広がっている(無限かどうかは俺の尺度だから何とも言えないが)。


寒くもなければ熱くもない。湿度も高いとも思わないし、低いとも思わない。

その何とも言えない暗闇の中にある何とも言えない、石なのか何なのかも分からないもので造られた黒い床の上に、ポツンと置かれた木製だと思われる一つの椅子。

不確定要素の塊のような空間。


そこに俺、灰離(はいり)石榴(ざくろ)は座っていた。


周りの黒と同系色のダークな色をしたジャージを身に着けた俺は、周りを囲む、この現実とは思えない光景を前に開いた口が塞がらない。


ここに流れ着くまでの経緯は分からないし、座る目的があるわけでも無いのだが、それは俺にはどうする事も出来ないので座っておいた次第だ。


今から何が起こるのか、そんなことは考えても無駄だということだけは何となく分かったので、俺からは何もアクションは起こさない。


だから俺は、後の進行は俺の座る椅子の目の前にあるいかにも玉座って感じの椅子に腰かける人物に全て任せることにした。


「君は死んだ」


凍てつくような空気を纏って放たれた言葉。

その言葉が、この世界に来て初めて言われた言葉だった。

皆は初対面の他人から第一声にそんなこと言われたことある? まあ、俺は今あったんだけど。

だが、ここで一つ情報が手に入った。


どうやら俺は死んだらしい。


「あー……そうですか」


よく分からないので適当に返答してみた。これが会社の面接とかなら一発で落とされるだろうな。面接を受けたことはないけど、多分印象悪い。


ただ、俺にはこの人が言っている意味が何一つ分からなかったのだ。

俺の死を告げた張本人は俺の反応が意外だったのか首を傾げる。


「あまり驚かないんだね」


少し呆れたような声でそう言われた。


「だって俺、ここに現存してるじゃないですか」


体だってちゃんとあるし、動かせるぞ? これで死んでるって?


俺には意味がさっぱり理解できない。アンケートだったら【よく分からない】に丸かチェックを書いているところだ。


「まあそう思うのも仕方ないか。実はここは死後の世界。あらゆる生き物が死んだ時になる死者の魂、その後を扱う場所だ」


成程それなら納得だ! とは残念ながら行かないが、どうやら世界観のスケールが俺、というか人間の理解の範疇を大きく超えていそうなので、深く考えずとりあえずここは死後の世界ということにしておこう。


「で、俺は死んでここに送られてきたと?」


「ああその通りだ。灰離石榴、君は地球の世界線の今日の深夜に死亡した。死因は……」


そこまで言って口ごもる。手に持った何かの資料みたいな紙に目を落としたまま何か、またはどこかを見て固まっている。


「何だよ? そこまで言ったなら言えよ」


おっと、敬語で話してたのに、思わずタメ口が出てしまった。まあいいか。

そこまで聞いたら流石に気になる。まさか自分の死因を聞くことになるなんて思ってもみなかったがな。


「言っても、後悔しない? ショック受けたりしないかな?」


どうしようかなー? とかなり言い渋っている。


え? どういうことだ? 言いにくい理由なのか? 交通事故とかには……巻き込まれた記憶はないけど。

けど聞かない事には分からないので俺は続きを促す。


「あ、ああ良いぜ。言ってみろ」


「窒息死」


は? 意味が分からずにいる俺に対して補足が加わる。


「君が就寝中に落ちてきた……美少女フィギュアがっ……くく……口を塞いで……ぷっ」


美少女フィギュア。確かに置いてたな。確か昔買った、当時に流行っていたアニメのヒロインの限定フィギュア。都内の店に、柄にもなく並んで買った記憶がある。

言われてみれば、それを置いていたのは俺のベッドのちょうど頭がくる位置の真上だったな。

えっとつまりそれが降ってきて、口が塞がれて、窒息死?……

俺はその光景を、脳内で映像化し再生してみる。


えええええええ⁉ どんな死に方だよ!


脳内映像を見終わった後、俺は心の中で思わずそう叫ぶ。声には出なかったが、危うくリアルでも叫ぶところだった。俺は目の前の人物を見上げる。


「そんなことより、今お前笑ってただろ。人の死んだ理由見て笑うって不謹慎じゃないのか?」


確かに面白かったかもしれないけど! 無様だったかもしれないけど、笑うのは俺のメンタルを深く傷つけるのでやめてもらいたい!


「だってっ……今まで無様な死に方をした奴は飽きるぐらい見てきたけど、こんな間抜けな死に方する奴は君が初めてだ。フフッ」


ニヤニヤしながら更にそう言った。


「止めてくれ‼ それ以上言われると死ぬまで一生トラウマになる。いやもう死んでるけど!」


耳を塞がないと、メンタルブレイクされる。


「死は恥ずべきことではないけれど。これは……ちょっと、ねぇ?」


「何だお前! そんなに俺を馬鹿にして楽しいか⁉ 言っとくが、俺だって死ねば、悲しむ人の一人や二人はいるんだぞ!」


「いや、美少女フィギュアで口を塞がれた君は病院に搬送されたんだけど、そこのお医者さんも、看護師さんも、挙句の果てには君のことを心配して駆けつけた親族すらも、君の姿を見て苦笑してたよ。ナニコレ? ショートコントですか? って」


「止めろって言ってんだろうが! そんな話ってあるのか⁉ 不謹慎を通り越して惨めすぎるだろ‼」


そろそろ泣きたくなってきた。


「まあ、ダサくてもいいじゃないか。元々君は服装含め、色々とダサいんだから」


「フォローになってねえよ! 何だお前! いったい何様だよ!」


 目の前の人物はその俺の質問に疑問符を浮かべるとこう言った。


「何様って……神様だけど?」

その言葉に、俺の思考は凍り付く。

GOD(かみ)……だとッ⁉ 

確かによく見ると神な気が……いや、神特有のオーラのせいか、俺の視力が悪いせいか分からないが、その姿には白い靄が掛かっていて顔はよく見えないから分からん。声的に女っぽいが。


「お前みたいのが、神? それは傑作だ。ハハハ」


自分の死因含め、精神が脆くなっていた俺は笑うしかなかった。

だって、俺はついさっきに神という存在についてドヤ顔で中二病満載な感じで語っていたわけだが。

その実俺が初めて見た神は、そんな尊い物とは程遠い。


 ただのクソガキだったのだ。

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