第2話 山で起きたこと Aの証言

「……また、ですか

 まぁ、良いですよ。もう一度お話します


 俺と友人3人で山に遊びに行ったんです

 そうですよ。そのロッジに泊まるために

 俺と、B、C、Dの計4人です

 

 確か、男の幽霊が出るとかって話で

 Bが“絶対楽しいから!アタシが保証する!”って

 

 ああ、俺らオカルト好きなんでよく心霊スポットとか行くんです

 まぁ、そういう、いつものノリって感じで遊びに行ったんです


 え?心霊スポットに不法侵入?器物破損?落書き?

 あぁ……いや、そういうのは……してないです

 ほんとですよ?他の三人にも聞いてみて下さい

 どうせ、皆に同じこと聞くんですよね?

 それがそちらの仕事ですもんね

 

 山には4人で入りました。俺を含めて4人

 ハイキングコースを歩いて、20分くらいでロッジに着きました

 その日、泊まってたのは俺らだけみたいでした


 9月の末の平日だったから

 夏登山と秋登山の谷間って感じで、ぜんぜん人が居ませんでした

 大学の夏休みって長いんで、こういう所は得ですよね


 それで、さっそく幽霊探そうって話になってロッジの中を探検して

 Dが「人影が消えるのを見たー」とか言って、はしゃいでました

 その後、夕食食べたら、もうやることなくなっちゃったんですよ

 まだ、肝試しって時間じゃなかったし


 だから、皆で怪談話して時間を潰しました

 でも、ほら。皆付き合い長いから、知ってるんですよ。どの話も


 レパートリー無いなぁ、なんて言い合ってたら12時を過ぎてたんです

 ダラダラ喋ってたんで3時間くらい経ってたかなぁ

 それで、幽霊が出てくるまで寝ないように、スクエアをやったんです

 あ、刑事さん、『スクエア』って知ってます?有名な怪談なんですけど


 知らないなら簡単に説明しますね


 雪山で遭難した4人が山小屋を見つけて、その中で朝まで休憩するんですが

 暖房も電気も無い中で寝ないように、お互いを順に起こして回るんです

 四角い部屋の四隅に一人ずつ座って

 真っ暗な部屋を一人ずつ順に壁伝いに次の角に歩いて

 その角で休んでる奴の肩を叩くんです

 それで、朝までお互いを起こし合って生還するって話です


 え?それの何が怪談なのか、って?

 4人目が歩いていく先は、1人目が居た角でしょ?

 だから、4人目だけは角まで壁伝いに歩いても、誰も居ないはずなんです


 つまり、4人じゃ一周した所で終わっちゃうんですよ

 朝まで続いたのは、いつの間にか5人目が現れていたから……って話です


 あはは、新鮮な反応ですね

 仲間に話してもオチを知ってるから、張り合いないんですよ


 じゃあ、話、戻しますね。それで、部屋を暗くして

 荷物とかは部屋の真ん中に集めて、四隅に座って順に歩き始めたんです

 転ぶと危ないから、懐中電灯をバトン代わりにして

 薄暗い部屋の中でスクエアをやったんです

 ええ、真っ暗にはならなかったです。皆のシルエットは見えてました


 え?はい。何度も言ってるように、4人です

 だから一周で終わるんですけど、そこは

 ほら、オカルト好きの集まりですから


 4人目の奴が、いかにも誰かいるって風に演技して

 そいつが2つ分角を進むのを見てたんです

 その演技がバレバレだから皆、クスクス笑いながら見てました


 で、2周目になると3人目だった奴が4人目の役にずれ込むでしょ?

 そいつも演技して2つ分進むんです。ノリ良いから。

 で、皆が笑うって感じで

 そんなことを順にやって、スクエアを続けたんです


 でも、不思議な物で、そういう雰囲気の中で皆でグルグル回ってると

 何か出てくるんじゃないか……って気分になるんです

 眠気もあって、懐中電灯の光が部屋を

 壁伝いに回ってるのが、妙にぼんやりしてきて

 なんか、本当に5人目が居るような気がしてくるんですよ


 ……いや、だから!何度も言ってるでしょ!俺らは4人で山に入ったんです!

 あ……いえ、こちらこそ、すみません。続き、ですね


 それで、そのままぼんやりした頭でスクエアを続けてたら

 誰がどこに居たかとか、分からなくなってきて

 あと、演技も慣れて上手くなってきたんで

 これ、本当に幽霊が混ざったんじゃないか?って気分になってきたんです

 まぁ、結構、楽しんでましたね


 そんな雰囲気だったから、だんだん笑いも無くなって

 黙々とスクエアを続けてました


 え?妙なことは無かったか……ですか

 全然……あ、一つだけ。くだらないことですけど


 あれは、どのくらい経ったっけ……

 たぶん、深夜の2時とか3時だと思います

 俺が着いた角に、何か変な人影があったんです

 懐中電灯の光を当てても、何か違和感があって

 でも、ぼんやりしたまま近づいちゃって


 それで、肩を叩こうと思って見ると、肩が無いんです

 腕だけが浮いてるんです

 破けた服と、その中に腕があって真っ白な手が2本

 ブランと宙に浮いてました

 ヒッ!っと息が喉に詰まって声が出ませんでしたね


 ……あー、どうだろ。他の人は、見てないと思います

 だって、その腕から目を離せないまま突っ立ってたら


 ……目が覚めたんです

 そう、夢だったんですよ

 だから、腕だけの幽霊を見たって話も、誰にも言ってないです

 笑われるだけだろうから


 刑事さん、リアクション良いから、つい話したくなっちゃって

 すみません。ただの夢の話なんです


 気が付いたらいつの間にか、俺以外も皆寝てたみたいで

 スクエアも途中で自然終了してたんです

 だから、目が覚めたら朝でした

 ってだけの話なんです。それだけですよ


 それで、朝飯食べて、記念写真撮って、下山しました

 ええ、それがその時の写真です

 ね?4人しか写ってないでしょ?


 4人写ってるなら、誰が写真撮ったんだって?

 セルフタイマーですよ

 ロッジの手すりにカメラ乗っけて、タイマーで撮ったんです

 ええ、覚えてますよ。撮ったのは俺のカメラですから


 とにかく、5人目なんて居ないんです

 だから、知らないんですよ


 刑事さんが言ってる、Eって奴が行方不明なのも

 俺らと山に行くって言ってたって話も

 全部知りません


 同じ学部だって言われても、話したことも無いですよ

 写真見ても名前も思い出せない同級生なんて、普通に居るでしょ

 だから、何も知らないんですよ。信じて下さい……」



終わり

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