第1.2話 『ご神木の話』

ぼくの小学校に、木が植えられました

山の中の学校だから、木はそこら中にあるのに

わざわざ、植え替えの工事をしていたから、おかしいなと思いました

先生に聞いたら「市長さんがプレゼントしてくれたんだよ」と言いました


特別な木らしくて、神社のご神木みたいなしめ縄が付いてました

それで、その木はご神木って呼ばれてました

でも少し変で、しめ縄がご神木に

木で出来たクギみたいな物で打ち付けられてます

ぼくの顔くらいの高さに、うでくらいの太さのとがった木がささってました


みんなして「凄く痛そうだね」って話ました。木だけど、なんとなく痛そうでした

それで「抜いてあげたい」って言う友だちがいたけど

先生が絶対ダメだって言ってました。先生はちょっと怖い顔になってました


何日かして、ご神木にいたずらする人がいました

しめ縄のクギを抜こうとしたらしいです

クギは抜けてなかったけど、しめ縄がむちゃくちゃにひっぱられたみたいで

ぼくが見ても、だれかが触ったのはすぐに分かりました


別のクラスのナガサキ先生が「やったのは青木だ」と言ってました

ぼくは、ナガサキ先生のことはキライです

すごくヒイキする先生で、青木くんをいじめてるからです

頭を押したり、わざとわからない問題を答えさせて、ずっと立たせたり

クラスの人に、青木くんと話さないように言ったりしてました

ナガサキ先生の話をすると、すごくイヤな気持ちになります


青木くんはクラスの中でも友だちが少なくて、おとなしい人でした

でも、青木くんは悪いことは何もしてないです

たまに話をすることがあったけど

ぼくの話をいろいろ聞いてくれるやさしい人です

だから、ナガサキ先生がなんで青木くんをキライなのか、わからないです


ナガサキ先生が「犯人は青木だ」と言ったのは、絶対、決めつけです

だから、ナガサキ先生が悪いと思って

同じように思った友だちとご神木を見張ろうって話をしました


その日から、夕方になるまでご神木を見張ることにしました

一週間くらいずっと続けて、土曜日も日曜日も校庭で遊びながら

暗くなって、しかられるまで、だれかが来ないか見張ってました


でも、またしめ縄がむちゃくちゃになってました

きっと、夜にだれか来てるんだと思います

でも、夜は真っ暗になって危ないから、ぼくたちは山に入ることができません

だから、きっと大人がやったんだってみんな言いました


次の日にナガサキ先生が、また青木くんのせいにし始めたので

みんなで「ずっと見張ってたから、青木くんじゃない」って言いました

そう言ったら、ナガサキ先生はだまったので、そのまま話が終わりました


ぼくたちは、ナガサキ先生に勝ったような気持ちになりました

でも、しめ縄をひっぱったのがだれなのかは、わからないままでした

ぼくたちが夕方まで見張っていた話が広まってから、すぐに

大人も見張ろうって話し始めたので、なんかふしぎな気がしました

みんな、夜は山に入らないのに何人も集まって、順番を決めて

おまわりさんが大きいライトをみんなに配ってました


だれかが山で迷子になった時みたいな、おおさわぎになって不安になったので

お母さんに「ぼく、悪いことしたの?」って聞きました

お母さんは「大丈夫だよ」って言ってくれました


お父さんもお母さんも、友だちのお父さんもお母さんも

順番に、別々の日に山に入って、校庭のご神木を見張っていたそうです

いたずらなのに、大人がみんなで見張る理由は誰も教えてくれませんでした

でも、教えてくれないんじゃなくて、本当に知らなかったんだと後で思いました


それは、誰に聞いても「市長に言われた」と言うからです

友だちもお父さんに聞いたら、そう言ってたそうです

だれも理由は知らないのに、夜に木を見張っていたらしいです


大人の見張りが始まってから何日かしたら、学校がお休みになりました

「しめ縄が消えた」ってウワサになってました

夜も大人が見張ってたのに消えたので、大人もあわててました


何日か休みになって学校に行くようになるとナガサキ先生がいなくなってました

ナガサキ先生がどこに行ったのかは、知らないです

ナガサキ先生のクラスは別の先生になってて、アラモト先生って言う女の人でした

ご神木のことを聞くと「私はあの木のことに詳しいから、もう大丈夫だよ」

って笑いながら言ってました


別の日に、気になって、ご神木を見に行きました

ご神木は、木のクギが抜けて、しめ縄も無くなって

穴だけが残ってました


穴は深くて、中を見ると真っ黒でした

でも、少しピカピカしてました

お父さんの靴をキレイにみがいたときみたいでした


じっと見ていると、中で何かが動いた気がしました

ぼくは、それを捕まえようとして穴に手を入れようとしました


「やめなさい!」って大きな声がして、ぼくは手をひっこめました

アラモト先生の声でした。いつの間にかアラモト先生が後ろに立っていました


「その木に触っちゃいけないよ。悪いモノが閉じ込められてるから」

「穴の中にいるの?」

「木の中だよ。ほんとは土の中にいたモノを木に移して閉じ込めたの

 だから、その木に触ると悪いモノが君の中にも入っちゃうんだよ」


ぼくは怖くなって、すぐに逃げ出しました。そして、友だちみんなに話しました

でも、失敗でした。話を聞いて、逆に、木に触りたがる人が出てきました


「穴に手を入れた」って肝試しみたいに自慢してる人がいました

でも、「中に何もなかった」って言ってたから嘘だと思います

たぶん、手を入れてないし、中を見てもいないと思います


アラモト先生が授業以外の時間はずっとご神木を見張るようになりました

夜も何かしてたってクラスの先生が言ってたけど

でも、何をしてたかは教えてくれませんでした

ぼくは校庭に居るアラモト先生を窓から見るのがクセになりました


ぼくは、見張りをしてるアラモト先生の、長い髪の毛を見ていて気がつきました

ご神木の穴には、髪の毛が詰まってるんだと思います

穴の中にあった、黒くてピカピカした物は髪の毛だと思います

それに気がついてから、アラモト先生を見ずにいられなくなってしまいました

ぼくは、ご神木が怖いです。アラモト先生も、優しいけど怖いです



終わり

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