4-21 ヴェルナさんへの依頼

『ゴルゾ傭兵団』リーダーのヴェルナさんは、俺と話す時間を作ってくれた。

 ギルドの部屋に俺たち『ルーレッツ』と『ゴルゾ傭兵団』のメンバーだけが残った。


 俺の向かいにヴェルナさんが座る。


「それで、話ってのは、何だ?」


「お仕事をしませんか?」


「仕事? ナオトが仕事を紹介してくれるのか?」


「いえ。紹介じゃなくて、俺の依頼を『ゴルゾ傭兵団』で引き受けてくれませんか?」


「えっ!?」


 ヴェルナさんは、俺を上から下までじっくりと観察している。

 何か凄く居心地が悪いな。


 何だろう?

 何を見ているのだろう?


 ヴェルナさんは、一つ溜息をつくと噛んで含めるように説明を始めた。


「なあ、ナオト。俺たちは傭兵だぜ。傭兵を雇うって事は、一定期間、傭兵の命を買うって事だ」


 その理屈はわかる。

 実際、教団地獄の火との戦闘でも『ゴルゾ傭兵団』は、前に出て体を張って戦った。

 傭兵の命を買うと言うのも決して大げさではない。


 つまり……。


「お金がかかると?」


「そう言う事だ。俺たちは対人戦に特化して、命を張る。だから、普通の冒険者の倍以上の依頼料がかかるぜ」


「なるほど。これで足りませんかね」


 俺はマジックバックから、大きめの革袋を取り出しテーブルに置いた。

 ヴェルナさんが、革袋を引き寄せ、革袋の口を開くと金色の光が革袋の中から溢れ出す。


「こ! こいつは! 金貨じゃねえか!」


「それで足りませんか?」


「足りるかって……多すぎるぜ! オイ! この金貨どうしたんだよ!」


 動揺するヴェルナさんに、俺はベストスマイルを返しながらシレっと言い切る。


「ギャンブルで勝ったんですよ」


「はあ!?」


 嘘はついてないぞ。

 神のルーレットでイカサマして得た金貨だけどな。


「ですから。ギャンブルで勝ったんです。犯罪で手にしたお金とかじゃないので、安心して下さい」


「そ、そうか……」


「それで足りますか?」


「ああ、足りる。と言うより、余る。えーと、なんだ……。それで仕事は? 俺たちは何をすりゃいいんだ?」


 ヴェルナさんは、随分びっくりしている。

 俺が子供なのに大金を持っているのが、おかしいのだろうね。


「お願いしたい仕事はですね。まず、毎日、ギルドの受付に行って俺宛の手紙が来てないか確認して欲しいです」


「ナオト宛の手紙の有無を確認するんだな? ああ、それは大丈夫だ。それで手紙が来ていたらどうする? 誰からの手紙に、どういうアクションを起こせば良い?」


 仕事の話しになったらヴェルナさんが、ビシッとした態度に変わった。

 この辺はさすがにプロだ。


「えっと、手紙は仲間からの手紙です」


「仲間からの手紙? お前ら解散するのか?」


「いえ。ルーレッツは解散しません。今、仲間を増やしてネットワークを作っている所です」


「仲間を増やす? ネットワーク? ナオト、お前何言ってんだ?」


「実はですね――」


 俺はヴェルナさんに、ここ数日間俺たちがやって来た事を説明した。



 奴隷商に行く。

 ↓

 戦闘力のある冒険者が出来そうな奴隷を買う。

 ↓

 奴隷から解放する。

 ↓

 各地のダンジョンで探索をしてくれ。

『教団地獄の火』がいた場合は、連絡をくれ。

 と依頼する。



 以下ループ。



「――と言う感じで仲間を増やしています。仲間が『教団地獄の火』を見つけたら、ここに手紙で連絡が来るようになっています。連絡が来たら、ヴェルナさんたちに行って貰って……」


「そこにいる『教団地獄の火』を叩くか……」


 ヴェルナさんは、ジッと腕を組み考え込んでいた。

 正直な話し、このプランがどこまで上手くいくかは、わからない。

 手紙はギルド経由でやり取りするが、それでも時間がかかる。


 ヴェルナさんたち『ゴルゾ傭兵団』が駆けつけた時には、『教団地獄の火』はいませんでした……。

 なんて事もあるだろう。


「どうでしょうか? 色々と穴だらけの計画だとは思いますが……」


「いや。悪かねえ。色々と改善したい点はあるが……。仲間を各地に散らして情報を集めて、敵の居場所を特定するのは間違ってないぜ」


「じゃあ! 引き受けてもらえますか?」


「引き受けるかどうか……。その返事をする前に教えてくれ。ナオトは、どうして『教団地獄の火』にこだわるんだ?」


 ヴェルナさんは、トレードマークのつばの広い帽子をクイっと片手で持ち上げ、真剣な目で俺を見た。


「それって知る必要がある事ですか?」


「ある。依頼主の目的や動機は知っておきたい。それによって依頼のリスクは変動するし、何より『俺たちがどう動くのが良いか』っつー最適解が変わって来るからな」


「なるほど……」


 単なる好奇心とかじゃなくて、プロとして依頼主の事を知りたいのか。

 どこまで話すか迷う所だけれど……。


 えーい!

 言ってしまえ!


 俺は姿勢を正して、ヴェルナさんを真っ直ぐ見て真実を告げた。


「神様からの依頼です」


「……何?」


「神様からの依頼なんですよ。その……神様は魔王を気にしていると言うか……」


「はあ……」


 ヴェルナさんは気の抜けた声を出した。


 あー、ダメだ。

 あんまり信じてくれてない。

 せっかく打ち明けたのだけれど、子供が夢か想像を話していると思われているな。


 その残念な人を見る目は止めて欲しいな!


「あー。ナオトの信仰心が篤い事はわかった。そうだな。神様からすれば魔王は気になるだろうし、魔王復活なんて事を考えている『教団地獄の火』はトンでもねえ連中だよな」


「そうですよ! それにウチのパーティーには、獣人やエルフもいますから! 『亜人死すべし!』なんて事を言う『教団地獄の火』は、絶対にダメな存在なんですよ!」


「わかった。わかった。つまりナオトの信仰心と仲間との友情が依頼の根底にある訳だ。納得した!」


 ヴェルナさんは子供をあやすように俺をなだめる。

 最初から仲間の事だけを話せばよかった……。


「よし! その依頼引き受けた! それでだ。色々と改善策を提案したいのだが、良いか?」


「お願いします!」


 そこからヴェルナさんは、色々と改善策を出してくれた。


 例えば、手紙でのやり取りは、冒険者ギルドの『転送便』と言うのを使えば早くなるそうだ。


「料金は一回につき一万ラルクだが、手紙は即日届く」


「良いですね。それでやりましょう」


 それからヴェルナさんが知り合いの傭兵パーティーに声を掛けてくれる事になった。

 戦力増強も歓迎出来る提案だ。


「で、ナオトたちは、俺たちが戦っている間、何をしているんだ? 居場所と活動予定を教えといてくれ」


「予定は中級職にクラスアップする事です」


「おお! 中級職かよ。そりゃ慎重に検討しなくちゃな」


「ええ」


 中級職にどのジョブを選ぶか?

 それによってパーティーのバランスに変化があるし、将来のキャリアパスも変わって来る。


 俺たちはレアジョブを求めて、ヴェネタ共和国に来た訳だし、じっくりと考えたい。


「それじゃあ、良い事を教えてやろう。ヴェネタの街からそう遠くない所に、試練の洞窟ってのがある。そこへ行ってみな」


「試練の洞窟?」


「ああ。そこで女神の試練をクリアすれば、レアジョブが手に入るって話しだぜ」

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