4-20 報告会

 ――十日後。


 俺たちは、冒険者ギルドに呼び出された。

 案内された部屋は、学校の教室ほどの広さで、品の良いテーブルやソファーが設えられていた。


 部屋に入ると『アドリアン・アドニス』のアドニスさんが、声を掛けて来た。


「おう! ナオトたちも来たか!」


「アドニスさん! お久しぶりです!」


 前回の依頼、五十階層探索に参加したパーティーが再び揃っていた。


 ・アドリアン・アドニス: 六人

 ・ルーレッツ(俺たち):六人

 ・謝肉祭の乙女:六人

 ・ゴルゾ傭兵団(対人戦のプロ):六人


 合計:24人


 残念なのは『ハンスと仲間たち』は裏切り、『サン・ミケーレの死者』は全員死亡なので不参加だ。

 親しかった人たちに目礼して、空いていたソファーに座る。

 隣には、アリーが座った。


「今日の集まりは、なんじゃ?」


「前回探索の説明らしいよ」


「説明?」


「ほら、黒ローブの生き残りがいたでしょ? 取り調べが終わったそうだよ」


「なるほどのう」


 しばらくすると、冒険者ギルド職員のビアッジョさんが入って来た。

 部屋の奥に立ちゆっくり話を始める。


「みなさん。前回の探索はお疲れ様でした。未帰還者が出たのは残念でしたが、目的を達成する事が出来、ギルドとしては満足の出来る結果を得ました。改めて御礼申し上げます」


「裏切り者も出たけどね!」


 怒りの声を上げたのは、『謝肉祭の乙女』リーダーのラウレッタさんだ。

 ラウレッタさんたちは、裏切った『ハンスと仲間たち』と直接戦闘をしている。

 クリーム色の巻き毛を右手で触りながら続ける。


「『ハンスと仲間たち』との戦闘は、私たちが押しているよう見えたけど……。正直、どうかな……。逃げる前提で、あちらが守りに徹していたように感じたけどね」


 ラウレッタさんの言葉に『謝肉祭の乙女』のメンバーが肯く。

 俺の目には圧倒しているように見えたけれど、戦闘当事者の感想は違うんだな。


 アドニスさんがラウレッタさんの言葉を補足した。


「ラウレッタの言う通りだ。俺も『ハンスと仲間たち』と戦闘をしたが、連中は防御主体であまり攻撃してこなかった。スキルの使用もほとんど無かった。今思えば……、大人しく撤退してくれて良かったよ」


 彼ら『アドリアン・アドニス』六人の平均レベルは70だ。

 レベル70の人たちが、『撤退してくれて良かった』か……。


「ナオトよ。『ハンスと仲間たち』は、相当手強かったようじゃのう」


「そうだね、アリー。新しく加わっていた中に、闇魔法使いもいたし……。対人戦重視のメンバーを揃えていたのかもしれない」


「うむ。ハンスは、ロクな事をせんのじゃ」


 まったくアリーの言う通りだ。

 他の人たちからも口々に不満が出た。


 要は『冒険者ギルドの人選に誤りがあった』と言う事だ。


 レイアが口を開いた。

 珍しいな。

 レイアは、こういう会議の場では、無言だったり、寝ていたりするのだが。


「まあ、今回は、ギルドのミスだろ! だってよ。俺たちはハンスが怪しいって話しをしていたじゃねえか。ビアッジョさんにも、言ったよな?」


「言ったね」


「だったら、『ハンスと仲間たち』は、外せば良かったんだよ!」


「確かにな」


 レイアの言う通り、『明らかに怪しい』と俺たちはビアッジョさんに話していた。

 五十階層探索パーティーを選考する段階で、弾けば良かったのだ。


 ビアッジョさんが両手を広げ『まあまあ』と、みんなの発言を抑えた。


「その件は、冒険者ギルドとしても申し訳なく思っています。さて、その辺りの処理ですが――」


 ビアッジョさんが、説明を続ける。


 ・『ハンスと仲間たち』のメンバーは、冒険者ギルドから除名。

 ・『ハンスと仲間たち』を、五十階層探索に推薦したギルド職員が行方不明。

 ・ウーゴ・エステ男爵は、行方不明。恐らく貴族を除名される。

 ・ゴッドフリード伯爵は、ヴェネタ共和国の貴族ではなかった。

 ・依頼報酬の増額を決定。一人あたり、五万ラルク増額予定。


「――と言う状況です。なお、本件は冒険者ギルドからヴェネタ共和国総督と議会に、正式に報告を行われました。間もなく関係者は指名手配されるでしょう」


 場の空気が和らいだ。

 報酬の増額もあった事で、みんな納得したのかな。


 俺としても関係者が指名手配されるなら文句はない。

 早く捕まると良い。


 次の話題に移るかと思った所で、『ゴルゾ傭兵団』リーダーのヴェルナさんが手を上げた。


「追手はかけないんですかい?」


「予定はございません」


「それじゃあ。『教団地獄の火』が、外国に逃げたらお咎めなしって事でしょ?」


「……」


 ビアッジョさんは、回答に窮している。

 外国へ逃げたらお咎めなし?

 そうなるのか?


「なあ、アリー。ヴェルナさんの言った事だけれど、外国へ逃げればお咎めなしって言うのは?」


「そのままじゃ。指名手配は、あくまでヴェネタ共和国内の話しじゃからのう。きゃつらが隣国へ逃げ込めば、そこまでと言う事じゃ」


 そうなるのか!?

 国際指名手配みたいな制度はないのかな?


「国をまたぐ指名手配は無いの?」


「無い。国により法は違うし、司法組織もバラバラじゃ」


「そうなのか……」


 こりゃ、ダメだな。

 ゴッドフリード枢機卿たちは、もう国外に脱出しているだろう。


「まあ、それでもじゃ。ヴェネタ共和国で『教団地獄の火』の活動は難しくなるじゃろう」


「それだけでも、プラス材料だね。良しとするか……」


「うむ。間もなく、エマの家族もやって来よう。大掃除が出来たと思えば良いのじゃ」


「そうだな」


 ヴェルナさんは、冒険者ギルドのビアッジョさんに、冗談とも本気ともつかない事を言った。


「なんだったら、俺たちが追手の依頼を請け負いますよ。ゴッドなんとかたちの首を持ち帰りますけどね」


「あいにくと冒険者ギルドの予算も厳しくて。お気持ちだけ頂戴しておきます」


「そりゃ、残念! 最近ドンパチが無いから、暇なんですけどね~」


 ビアッジョさんが営業スマイルでお断りして、この話しは終了となった。

 次に、生き残った黒ローブについて報告がされた。


「さて……こちらの話しは深刻です」


 ビアッジョさんの一言に場の空気が引き締まる。

 次の言葉を待つ。


「生き残りの証言によれば……、あの五十階層の隠し部屋で行われていた事ですが……、魔王を生み出そうとしていたそうです」


 なに?

 魔王を生み出す?


 俺はビアッジョさんの言っている意味が良く分からなかった。

 周りもざわついている。


「ニャ!? 私は頭が良くないから、わからないニャ?」


「カレンだけじゃない。俺もわからないよ」


「魔王を生み出すニャ? 卵を作るのかニャ?」


「うーん」


 ビアッジョさんが、続けて詳しい説明をした。


 あの五十階層で使われていた黄金の杖は『迷宮の黄金杖』。

 あの杖に魔石をはめ込むと、魔石の魔力を杖の先から放出する能力があるそうだ。

 魔法使いや回復役に魔力を補充できるので、結構人気なレアアイテムらしい。


「生き残りの黒ローブの証言によれば、ダンジョンに魔力を大量に注げば魔王復活が早まると。自分たちの手で魔王を復活させるのだと……」


 そう言う事か……。

 部屋にいるみんなの視線がこちらに向いた。

 アドニスさんが、難しそうな顔で俺に質問する。


「なあ、ナオト。それってあり得るのか? その……魔力を大量に注ぐ事で、魔王が復活するなんて……」


「どうでしょう……。無理な気もしますし、あり得なくはない気もしますし……」


 俺も夢の中で神様から聞いた程度の知識しかない。

 魔王が復活する時は、大量の魔力が集まると神様が言っていた。


 そこから逆に考えれば、魔力を大量に投入すれば魔王の復活を早めるくらいの効果はあるかもしれない。


 ビアッジョさんが話をまとめる。


「冒険者ギルドの上層部は、眉唾と判断しております。もし、魔力を大量に注ぐことで魔王が復活できるとしても、膨大な魔力、つまり魔石が必要になるでしょう。あまり現実的な話しではないと……。ただ、私個人としては……」


 ビアッジョさんは、心配そうな顔で思いを語った。


「正直、不気味ですし、怖いですね。教団地獄の火など、このヴェネタでは聞いた事がない団体です。それが貴族の中に団員がいて、あの様な儀式を行っていたのですから……。出来れば追手をかけて、叩き潰したいですね」


 ビアッジョさんの本音が聞けたが、そこからあまり前向きな話は出なかった。

 しばらく雑談をして、お開きになった。


 帰り際、俺は『ゴルゾ傭兵団』リーダーのヴェルナさんに声を掛けた。


「相談があるのですが、これから良いですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る