4-19 エッチ! スケッチ! ワンタッチ!

 教団地獄の火との戦闘を終えて、俺たちは地上へ戻った。


 今回冒険者ギルドからの依頼は、五十階層の探索だった。

 地獄の火は取り逃がしたが、それは本来の依頼には入っていない。


 なので、依頼達成となった。


 全体リーダーのアドニスさんが、冒険者ギルド職員のビアッジョさんに、きちんと確認していたよ。

 ベテランはこう言う所がキッチリしていて、頼もしい。


 俺たちは食事を済ませてから、ルピアの街へ出た。

 ヴェネタの街への出発は明日の朝、それまで自由行動だ。


 久しぶりの太陽が眩しい。

 時間は、午後3時くらいかな?


「よう。これからどうする?」


 長身のレイアに聞かれ、俺は答える。


「実はちょっと行きたい所があるんだよね」


「ん? どこだ? 俺たちも付き合うぜ」


「奴隷商人の所」


「「「「「奴隷商人!? 」」」」」


 俺が奴隷商人の所へ行くと言うと、ひと悶着あった。


 アリーが、『女奴隷を買いに行くのか?』、『買って何をするのじゃ?』と俺を問い詰め。


 セシーリア姉さんが、『それなら私が夜の奴隷に』と訳の分からない事を言い出し。


 エマが、『エッチ! スケッチ! ワンタッチ!』ともっと分からない事を言い出した。


「違う! 違う! そうじゃない!」


「「「「「怪しい~」」」」」


 やましい気持ちは、まったくないのだが……。

 唯一の男性メンバーだから、疑われたり、からかわれたりと大変なのだ。


 目当ての奴隷商人は、すぐに見つかった。

 ルピアの街外れに店を構えていた。

 大きな木造三階建ての店で、中年のでっぷりした奴隷商が自ら店番をしていた。

 店先にロッキングチェアを置いて、ウトウトしている。


 ノンビリした感じが、いかにも郊外の街って感じだな。

 俺はこう言うの好きだ。


「あの、すいません」


「ん? 何か用かな?」


 奴隷商はロッキングチェアに揺られたまま、寝ぼけた声を上げた。


「数日前、ハンスと言う冒険者が奴隷を売りに来たと思うのですが……」


「ハンス……ハンス……。ああ、いたな。それが、どうかしたかい?」


「そのハンスが売った奴隷を、俺が買いたいのだけど。まだ、ここにいる?」


「おお。君はお客さんか! ハンスの奴隷……女奴隷が二人に、男奴隷が一人だよな。まだいるよ。裏にいると思うよ。よっこらしょ」


 奴隷商は麦わら帽子をかぶり、大きなおなかを揺らして歩き出した。

 店の裏に行くらしい。

 俺たちは後に続いた。


 店の裏では、六人の奴隷が気ままに過ごしていた。

 店の裏と言っても、裏庭と言った感じで、草が生えていて、大きな木が一本。

 六人の奴隷もノンビリしていて、一人は地面に寝っ転がって昼寝をしていた。


「おーい! お客さんだぞ! 集まってくれ!」


 奴隷商が声を掛けると六人の奴隷がわらわらと集まって来た。

 その中に目当ての奴隷、ハンスの元奴隷がいた。

 あちらも俺に気が付いて、ちょっと驚いた顔をしている。


 奴隷商がノンビリと案内を続ける。


「あんたが探しているのは、この娘とこの娘……それからコイツだな」


「そうです。三人買います」


「えっ!? 三人とも買うの!? 本当に!?」


「ええ」


 俺はハンスの元奴隷三人を奴隷商から買った。

 三人とも戦闘能力が高い奴隷と言う事で、一人三百万ラルク、三人で九百万ラルクだった。


 そして、すぐその場で、奴隷商に奴隷の首輪を外して貰って、奴隷から解放した。

 三人は、『えっ? どうして?』、『わけがわからない』、『はっ? 買ってすぐ解放するのか?』と困惑している。


「さて、三人には頼みたい事があるのですが。話を聞いてもらえませんか?」


 俺たちは場所を変えて、居酒屋で話し合う事にした。

 三人は狐につままれたような顔で、俺に付いて来た。


「改めて自己紹介しますね。俺は冒険者パーティー『ルーレッツ』のリーダー、ナオトです」


「私はビアンカだ。こっちがイルゼ」


 女奴隷さん、いや、元女奴隷さんは、ビアンカとイルゼと名乗った。

 確か、二人とも剣士だ。


「俺はホアンだ。解放してくれてありがとな」


 元男奴隷のホアンさんは、素直に奴隷解放を感謝してくれているみたいだ。

 一方、ビアンカさんとイルゼさんは、まだ警戒している。


「みなさんを買ったのは、頼みたい事があるからです。その前に確認したいのですが、みなさんは、これからどうしますか? 冒険者を続けますか?」


 三人は顔を見合わせ、まずビアンカさんが答えた。


「そうだな。私はそれしか出来ないから、冒険者を続けると思う。私とイルゼは、ヴェネタより北の国の出身だから、地元に戻って地元のダンジョンに潜るかな……」


 ビアンカさんは冒険者を続けると。

 イルゼさんも無言で肯き同意を示した。


 ホアンさんは、別の答えをした。


「俺は元々農夫だからな。地元の村に帰って、畑仕事をしたい。正直、ノンビリしたいよ」


「わかりました。じゃあ、ホアンさんは、行って良いですよ。これ旅費の足しにして下さい」


 俺はホアンさんに、銀貨を二十枚渡した。

 ホアンさんは、何度も礼を述べて居酒屋を出て行った。


「で、ナオトさん。私たちに頼みたい事って言うのは?」


「ダンジョンの探索です。それで、ダンジョンに異常があったら俺に連絡してください」


「それから?」


「それだけですよ。ダンジョンのドロップ品とか、ギルドの依頼達成報酬なんかは、そちらの物で良いです」


「えっ!? それじゃ、ナオトさんにうま味がないだろ? 何を考えているんだ?」


「実はですね――」


 俺は、教団地獄の火についてビアンカさんとイルゼさんに教えた。

 二人はかなり驚いていたが、ハンスが『貴族になる』と言って教団地獄の火に加わった事は驚かなかった。


「なるほどね。そんな事があったのか。それで、その教団地獄の火って言うのを、ナオトさんは探しているのかい?」


「そうです。あいつらは、また、どこかのダンジョンで悪さをするに違いないです。連中を見つけたり、ダンジョンに異常があったら、ヴェネタの街の冒険者ギルドの俺宛で連絡をしてください」


 ビアンカさんとイルゼさんは、しばらく二人で相談をしていた。

 やがてビアンカさんが了承した。


「わかった。そう言う事なら……地元に帰るまでに、あちこちのダンジョンに潜ってみるよ」


「お願いできますか?」


「ああ。引き受けたよ」


「それじゃ。これ支度金です。装備を整えて、旅費に使ってください」


 銀貨の入った革袋二つを受け取って、ビアンカさんとイルゼさんは店を出て行った。

 去り際に『ありがとう』と言っていた。


 二人が去ると、ずっと黙っていたメンバーが色々と話し始めた。

 俺の隣に座るアリーが、聞いて来る。


「ふむ。ナオトの狙いは……、情報網を作る……と言った所かのう?」


「そうだよ。俺たちだけでダンジョンに潜っていてもラチが空かないからね。他の人にも情報を集めて貰おうと思って」


「あの二人は、やってくれるかのう?」


「どうかな……。恩義に感じてくれたとは思う」


「ふむ。良いじゃろう。期待しよう」


「うん」


 正直、俺は胸のつかえが降りた。

 ビアンカさんとイルゼさんは、俺の言葉でハンスとの関係が悪くなった。

 それで、売られてしまったのだ。


 自己満足かもしれないが、気持ちがスッキリした。

 さて、ヴェネタの街に帰ろう!

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