4-18 レイアが覚えた事
教団地獄の火に逃げられてしまった。
すぐに冒険者ギルド職員のビアッジョさんが声を上げた。
「帰還石なら、私が持っています! これを使って追いましょう!」
ビアッジョさんの右手には、クリスタルのような透明の石、帰還石が握られている。
あれを使えば、ダンジョンの入り口に転移出来る。
教団地獄の火に、すぐに追いつけるぞ。
だが、『ゴルゾ傭兵団』リーダーのヴェルナさんがストップをかけた。
「ちょい待ち! そりゃ、あんまり良くねえな……。待ち伏せされていたらどうする?」
「待ち伏せ……ですか?」
「ああ、俺なら一人か二人を足止めに残すね。その帰還石で地上に転移した瞬間、隙だらけの俺たちを強烈な魔法や魔道具で皆殺しってシナリオが濃厚だぜ」
「それは……」
ありそうな話だ。
今回いた人物では、ゴッドフリード枢機卿とウーゴ・エステ男爵が重要人物だろう。
教団地獄の火としては、この二人を逃がす事が最優先課題。
他の人間が足止め役で残る可能性は十分あり得る。
全体リーダーのアドニスさんが、ヴェルナさんにアドバイスを求めた。
「うーん。どうするのが良いと思う?」
「そうだな。まあ、ここの後片付けをして、ゆっくり地上に戻るのが良いんじゃねえか?」
「ゆっくり?」
「そうだ。俺たちが追って来ないと連中に思わせれば、足止め部隊も引き上げるだろう」
「なるほどな……。その方が安全だ……。よし! ゆっくり地上へ戻ろう! ギルドの方もそれで良いですね?」
「止むを得ません。地上に上がった瞬間にあの世行きなんてのは、私も遠慮したいですから」
「まずは、ここの片付けだ! そこの魔石を回収しよう!」
俺たちがいる隠し部屋には、黒ローブの遺体が二体と魔石の山が残されていた。
あの黄金の杖はどさくさ紛れに回収したらしい。
冒険者ギルドのビアッジョさんが、俺たちに指示を出す。
「遺体も持ち帰りましょう。証拠になりますし、何か手掛かりになるかもしれません」
「わかりました。マジックバッグに入れて地上に運びます」
「頼みます」
俺とビアッジョさんの会話を聞いていたエマが遺体に近づいた。
「じゃあ、私がマジックバッグにしまうんだよ!」
俺と『ゴルゾ傭兵団』リーダーのヴェルナさんが、同時に警戒の声を上げた。
「待て! エマ!」
「嬢ちゃん! ストップだ!」
「えー! 何? なんだよ?」
こちらに振り返ったエマの向こうで、倒れていた黒ローブが動いたのが見えた。
死んだフリして、攻撃の機会を待っていやがった。
まずい!
エマが狙われている!
だが、俺とヴェルナさんが動くより早く、レイアが動いていた。
エマと黒ローブの間に割って入り、鋼鉄の槍の石突で黒ローブの腹を突いた。
「ぐっ!」
「死んだと思ったヤツが、まだ生きてました……だよな?」
レイアはヴェルナさんの方をチラリと見て、ニッと笑った。
ヴェルナさんに教えて貰った事を覚えていたのだ。
「おおう! やるじゃねえの」
ヴェルナさんも嬉しそうに笑みを返した。
「ぐうう。この……亜人風情が……」
「おめえは寝てろ!」
「ガッ……」
黒ローブの生き残りは、レイアに殴られて失神した。
「まったく……、往生際の悪い連中だぜ。よう、ナオト! 腹が減ったぜ!」
「ああ、そうだな。ここを出たら美味い物を食おう!」
こうして俺たちは生き証人を得て、隠し部屋を片付け、五十階層のボスを倒してから、ゆっくりと地上へ戻った。
地上に戻った時、教団地獄の火はいなかった。
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