4-17 血まみれの枢機卿ゴッドフリード

 斧、剣、槍を、それぞれ手にして『ゴルゾ傭兵団』の前衛三人が突撃した。

 小さなモーションから、早く鋭い攻撃が繰り出される。

 黒ローブ二人は後退しながら、『ゴルゾ傭兵団』三人の攻撃を受け流す。


 どちらの動きも惚れ惚れするほどだ。


「愚か者どもめ! ワシに剣を向けるとは……。後悔させてくれよう!」


 黒ローブの後ろに立っていたゴッドフリード枢機卿が動いた。

 上着を脱ぎ棄て上半身裸になり、ボクシングのような構えで突進する。


「ふん!」


 ゴッドフリード枢機卿は、右フックを繰り出した。

 巨体に似合わず踏み込みのスピードが速い!

 大振りな右フックを『ゴルゾ傭兵団』の斧使いが斧を盾のようにして防ぐ。


「笑止!」


「うおっ!」


 ゴッドフリード枢機卿が放った右フックは、盾代わりの斧に防がれたと一瞬思った。

 体重ののった右フックには、ガードなど無意味だ。

 盾代わりの斧を押し潰し、斧使いを吹き飛ばした。


 その様子を見て、ヴェルナさんが舌打ちする。


「ちっ! 僧侶か! 距離を取れ! 遠距離で決着をつけろ!」


 僧侶は、中級職で肉弾戦を得意とし回復魔法を操る。

 素手で戦うので、他のジョブに比べてリーチが短い。

 接近戦は得意だが、遠距離を苦手とする。


 ヴェルナさんの指示を受けて、『ゴルゾ傭兵団』の前衛三人がステップバックする。

 さっき殴られた斧使いの動きが鈍い。


「レイア前へ出て! 斧使いと交代!」


「任せろ!」


 レイアを前線に出す。

 だが、ゴッドフリード枢機卿の動きが早い。

 筋肉ダルマの巨体のくせに!


 左右のフックを繰り出し、『ゴルゾ傭兵団』の前衛三人を吹き飛ばした。


「愚かな! この血まみれの枢機卿ゴッドフリードに手を出した事を後悔させてくれるわ!」


 雄叫びを上げながら、ゴッドフリード枢機卿が突進してくれる。


「【速射】! 【連射】!」


「ファイヤーボール!」


 俺が二矢、アリーが火魔法を放つ。

 ゴッドフリード枢機卿は、左、右と細かくステップを踏み、上体を揺する。

 俺たちの攻撃はかわされ、『ゴルゾ傭兵団』の放った投げナイフは左手で弾かれてしまった。


「クソジジイ!」


「フッ!」


 レイアが前線に出た。

 真っ向から突っかかるが、ゴッドフリード枢機卿は左ジャブを軽く放ち、レイアの姿勢を崩すとやすやすと懐をとった。

 踏み込みから突き上げ気味に左フックを放つ。


「フンッ!」


「大車輪!」


 レイアは、すぐに崩れたバランスを取り戻し、両手をコンパクトに折りたたんで防御スキル【大車輪】で対応する。

 高速回転する鋼鉄の槍が、ゴッドフリード枢機卿の右フックを弾き返す。


 この攻防の間に、エマの闇魔法バインドの詠唱が終了する。


「エマ!」


「バインド!」


 ダンジョンの床から無数の黒い手が伸びて、ゴッドフリード枢機卿の動きを拘束する。

 このチャンスに俺とレイアが反応する。


「オラ! オラ! 【パワースラッシュ】!」


「【速射】!」


 俺とレイアがスキルを発動した直後に、右横から声が聞こえた。


「リバインド!」


 俺たちの右斜め前で交戦する『ハンスと仲間たち』の魔法使いが、闇魔法バインドを解除するリバインドを発動した。


 やはりいたか!

 闇魔法使い!


 だが、リバインドが来るのは計算の内に入っている。


 リバインドが効力を発揮して、ゴッドフリード枢機卿が動けるようになったが、俺の矢とレイアのパワースラッシュを回避するには時間が足りない。


 ゴッドフリード枢機卿は咄嗟にガードを固めたが、レイアの振り下ろした鋼鉄の槍がガードの上から【パワースラッシュ】を叩きつける。

 そして、俺の放った矢はわき腹に突き刺さり、いつの間にか放たれた『ゴルゾ傭兵団』の投げナイフが、肩に深々と突き刺さった。


 手応えアリ!


「グッ! ぬおおお!」


「うおっ!」


 手傷を負ったゴッドフリード枢機卿は、一瞬顔をしかめ低い姿勢のままレイアにタックルをかました。

 攻撃直後で隙だらけのレイアは、俺たちの方へ吹き飛ばされた。

 俺はレイアを受け止めようとする。


「レイア! ぐほっ!」

「むう!」

「なんだよ!」


 受け止めるには受け止めたが、勢いを殺しきれずアリーとエマも巻き添えを食らった。

 四人仲良く後方へ吹っ飛ばされた。


「ゴッドフリード枢機卿! こちらへ! お早く!」


 ウーゴ・エステ男爵が、ゴッドフリード枢機卿に呼び掛ける。

 ゴッドフリード枢機卿と黒ローブ二人が、『ハンスと仲間たち』に合流し、ウーゴ・エステ男爵はポケットから握りこぶし大の透明な石を取り出した。


 帰還石だ!


「せっかくだが失礼させてもらおう。お前たちが何をしようと魔王は復活する! 教団地獄の火に栄光あれ! 亜人に死を!」


 ゴッドフリード枢機卿が捨て台詞を吐き、ウーゴ・エステ男爵が帰還石をダンジョンの床に叩きつけた。


 俺は矢を速射したが、俺の矢が着弾するよりも早く、教団地獄の火は姿を消した。


「取り逃がしたか……」

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