4-11 新生『ハンスと仲間たち』
――十日後。
「よし! 五十階層の調査に向かうぞ!」
俺たちは再びルピアの街に戻って来た。
アドニスさんの号令でダンジョンへ潜る。
ヴェネタの冒険者ギルドは、ビアッジョさんの報告と俺からの提供された『教団地獄の火』の情報を重視した。
『不審な秘密結社が、不逞な企みを持ち活動しているらしい』
冒険者だけでなく、ヴェネタ共和国政府にも情報が伝播した。
ヴェネタの冒険者ギルドとヴェネタ共和国からの共同依頼、『ルピアのダンジョン五十階層の調査』が始まったのだ。
参加パーティーは以下の通り。
・アドリアン・アドニス(前回参加): 六人
・ルーレッツ(俺たち、前回参加):六人
・ハンスと仲間たち(リーダーのみ前回参加):六人
・謝肉祭の乙女:六人
・ゴルゾ傭兵団(対人戦のプロ):六人
・サン・ミケーレの死者(対人戦のプロ):三人
合計:三十三人
これに冒険者ギルドの職員ビアッジョさんが同行する。
ビアッジョさんも入れると三十四人。
この大所帯で五十階層を探索するのだ。
「ナオトさん。また、よろしくお願いしますね! いやあ! お食事を楽しみにしています!」
「……こちらこそ」
ビアッジョさんは、俺たち『ルーレッツ』が面倒見る事になった。
冒険者ギルドからのご指名だ。
ビアッジョさんは、あからさまにメシ目当てだけれど、まあ、仲良くしとけば、何か良い事があるだろう。
「なあ。ナオト。あの連中どう思うよ?」
長身のレイアが警戒した声を出す。
レイアが睨んでいるのは、『ゴルゾ傭兵団』と『サン・ミケーレの死者』だ。
彼らは対人戦が専門とだけ聞いている。
何と言うか……普通の冒険者とは明らかに雰囲気が違うのだ。
まず、『ゴルゾ傭兵団』は、ヤバイ感じだ。
メンバー全員のまとう空気に快活さが全くない。
どこかドンヨリしていて、下手にちょっかいをだしたら何をされるかわからない。
革鎧に剣と言う、オーソドックスな装備なのだけれど、どことなく俺たちとは違うような……。
そして、もっとヤバそうなのは、『サン・ミケーレの死者』だ。
こいつらは、暗い色の服を着ているだけ。
鎧も身に着けず、剣も持っていない。
なのに威圧感がハンパない。
俺はギルド職員のビアッジョさんに聞く。
「ビアッジョさん。あの……彼らは……」
「対人戦専門……と申しましょうか……。まず、『ゴルゾ傭兵団』ですが、彼らは戦争屋ですね。国と国、領主貴族同士の争いがあれば、出張って活躍する人たちです。もちろん、魔物の討伐も出来ますが、対人の集団戦を得意としています」
「戦争屋ね……」
「それでかよ。アイツら体から敵意が漏れすぎなんだよ……。たくよう! ちっとは抑えろよ!」
「ニャ! 気分が悪いニャ!」
ティターン族のレイアとネコ獣人のカレンは、俺たち人族と違って感覚が敏感だ。
俺は何となく『ゴルゾ傭兵団はヤバイ!』くらいに思ったが、二人は明確な敵意と認識していたのか。
「わかりました。それで、もう片方の三人組は?」
ビアッジョさんは、眉根を寄せて心底嫌そうな顔で話し始めた。
「『サン・ミケーレの死者』ですか? 彼らは死に神。暗殺が専門です」
「「「暗殺!?」」」
「ええ。サン・ミケーレと言うのは、死者の島です。ヴェネタの近くに浮かぶ小島で、島全体が墓地になっています。そんな島からパーティー名を付けるのですよ? もう、ほら、お察しいただけるでしょう?」
それは、また……縁起が悪いと言うか……、不気味と言うか……。
「しかし、暗殺専門のパーティーなんて、冒険者ギルドに所属出来るのですか?」
「うーん。彼らの扱いは特殊な部署らしいですよ。普段は表にまったく出て来ませんから。まっ! そんな訳で、彼らがいるので今回は各パーティーの平均レベルは非公開です」
「それはつまり……。彼らが手の内をさらしたくないと?」
「その通りです」
なるほどねえ。
徹底しているな。
「まあ、良いのではないか?」
アリーが会話に入って来た。
アリーは、あの2パーティーに忌避感はないのだろうか?
「もしもじゃ。五十階層に『教団地獄の火』がおれば、戦闘になるじゃろう? 対人戦に特化した強いパーティーがおれば、心強いのじゃ」
「まあ、確かにね」
それはごもっとも。
俺たちも、この十日間で対人戦の準備をして来たが、何せ経験が不足している。
あの2パーティー。
俺は気に入らない感じではあるけれど、『教団地獄の火』との戦闘になれば頼りになりそうだ。
そう思えば、何とか一緒にやっていけるかもしれない。
「それよりナオトよ。ハンスをどう思う?」
「ハンスねえ……。メンバーを揃えて来たよね……」
「それも奴隷では、なさそうじゃ」
ハンスは、前回の依頼で一人ぼっちになったのだが、今回五人のメンバーを新たに連れて来た。
新生『ハンスと仲間たち』だ。
五人の内訳は装備から見るに……。
前衛役と思われる剣士が二人。
後衛の魔法使いが一人、回復役が一人。
そして役割不明の男が一人だ。
全員首輪をつけていないので奴隷ではない。
よくこの短期間で、こんなバランスの良いメンバーを集められたなと。
ハンスは人望が無いのになと。
「不自然さは感じるよね」
「そうじゃな。ビアッジョ殿、彼らのレベルやジョブは教えて貰えぬのか?」
「申し訳ないですが、今回はお教えできません。ただ、今回参加しているパーティーは、一定レベル以上の実力を持っています。恐らくレベル的には、ルーレッツさんが一番下かと」
「ふむ……。あのハンスなる男は、短期間で腕利きを揃えて来たと言う事じゃな……。怪しいのう……」
まったくその通りだ。
ハンスをジッと観察しているが、パーティーメンバーに接する姿は、ハンスらしいと言うか……。
まあ、例のごとく威張っている。
パーティーメンバーは淡々とハンスに従っている印象だ。
俺とアリーが疑惑の目をハンスに向けていると、ビアッジョさんが取りなしてきた。
「まあまあ。数日ですから、仲良くとは言いませんが、もめないようにお願いします。ほら! 今回は女性パーティーも参加していますから、前回よりも気楽だと思いますよ」
そうそう。
それはプラス材料だ。
女性六人の冒険者パーティー『謝肉祭の乙女』。
彼女たちは、普通の冒険者パーティーで魔物討伐が多いらしい。
エマやセシーリアねえさんが、もう仲良くなっている。
女同士でないと話しづらい事もあるだろうしね。
俺たちの他に女性がいてくれるのは、ありがたい。
こうして、おれたちは再びルピアのダンジョンに潜った。
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