4-10 教団地獄の火は、下にいるのか?
やってしまった。
レッドドラゴンを一撃で倒してしまうとは……。
新調した弓+水属性矢+スキル+レベルアップした俺の本気、これだけの要素が揃ったとは言え、まさか一撃とは……。
「えーと、ナオト君?」
「なあ、これって討伐した事になるよな? 依頼達成で良いよな?」
「いや……依頼達成だろ? 同行しているヤツがレッドドラゴンを倒したし」
「けどよ。ドラゴン討伐では、見習い扱いのヤツが倒しちまったんだぜ?」
やばいな、なんか物議をかもしているぞ。
俺が所在なくしていると、アリーがとんでもない爆弾を放り込んだ。
「さすがはナオトじゃ! 勇者に相応しい活躍じゃ!」
ちょっ! それは!
「ホント! 素晴らしいわあ! 濡れたわあ!」
セシーリアねーさん!
止めて下さいよ!
事件になっちゃうでしょう!
「えっ!? 勇者!?」
「うん!? 勇者!?」
「あのナオトってヤツ、勇者だったのか?」
「ないだろー、まだ子供だぜ」
「いや、勇者なら……今の攻撃も納得じゃないか?」
さらに物議をかもしているぞ!
まずい、まずい、勇者認定とか止めて欲しい。
自由に行動できなくなる。
「あああ! あの! 勇者になれたら、良いなー! なんて、夢ですよ! 夢! ハハハハ……」
もう、笑ってごまかす作戦しか、俺には残っていない。
「勇者のゆの字はどう書くの? こう書いて、こう書いて、こう書くの!」
自分でも何を言っているのか、何をやっているのかわからない。
だが、俺の作戦は、成功した!
「なんだ夢の話しか!」
「勇者が夢か、男の子らしいな」
「ああ、心臓に悪いぜ。夢の話しかよ」
「ハハ、俺も子供の頃は、勇者になりたいって思ってたぜ」
ざわつく場を全体リーダーのアドニスさんがおさめる。
「えーと、まず……。冒険者ギルドのビアッジョさん! これでレッドドラゴン討伐依頼は完了って事で良いよな?」
「もちろんです! レッドドラゴンが倒される所を、確認しました。その……倒す過程は……、まあ、あれですが、討伐した事に変わりはありません。依頼完了です!」
ボス部屋の中に、ホッとした息が漏れ、パラパラと拍手が起こる。
そうだ!
依頼完了で良かった!
「よし、その件はそれで良いとして……。問題は、ナオトが一人で倒しちまったって事だな。俺たちはまだ攻撃していなかった。だから『ルーレッツ』以外のパーティーに経験値は入らない」
「あっ、それは……」
「そこでだ! このレッドドラゴンのドロップ品だが……。本来なら売却して得た金を全員に分配する。今回はナオトの所は辞退するって事でどうだ?」
なるほど。
俺たち『ルーレッツ』の取り分が、他の人たちの手に渡る。
そうすれば経験値を独り占めした事は、チャラにするって訳ね。
正直、お金は困っていない。
他の人たちとモメるよりは、そっちの方が良い。
「わかりました。ルーレッツはドロップ品の権利を放棄しますから、皆さんで分けて下さい」
どうやら俺の判断は正解だったらしい。
アドリアン・アドニスと紅の戦斧のメンバーは、大喜びしている。
「おおっ!」
「話がわかるじゃねえか!」
「太っ腹だな! オイ!」
ウチのメンバーは……、ああ、レベルアップ痛だな。
みんなそれどころじゃないって顔をしている。
俺はもう慣れたよ。
「ちょっと、みんな待ってくれな。話は、まだ終わって無いんだ。ビアッジョさん! レッドドラゴンが本当に出た。と言う事はだ。ナオトが言っていた異常事態ってのが、本当だったって事だよな?」
「そうですね。少なくとも私はそう考えており、冒険者ギルドに戻り次第、そう報告します」
「うん。それならだ。最下層の五十階層に、このダンジョンに魔力を注いでいるヤツがいるって事じゃないか? ほら、ナオトの言っていた秘密結社の……」
「教団地獄の火ですか……。その可能性も高そうですね……。出来れば、そっちも調べてから地上に戻りたいのですが……」
ボス部屋の中が、再びざわつく。
依頼終了かと思ったら、また仕事かとぼやく声が聞こえて来た。
「それなら日を改めて貰いたい。ナオトから聞いた話じゃ、護衛に手練れがいたって言うじゃないか。『アドリアン・アドニス』としては、準備に不安が残るな」
俺が教団地獄の火と戦闘になった時は、黒フードの護衛がいた。
手強かった記憶がある。
魔物を倒す技術と対人戦技術は別物だと思い知らされた。
話しに『紅の戦斧』のひげもじゃドワーフおじさんが入って来た。
「『紅の戦斧』は不参加で頼む。俺たちは魔物討伐専門だ。対人戦は得意じゃない。レッドドラゴン討伐依頼は完了した。一旦、清算してもらいてえな」
アドニスさんの視線が俺に向いた。
ルーレッツリーダーとしての判断を述べないと。
「『ルーレッツ』としても、このまま行くのは不安ですね。一度、地上に戻って、また相談と言う事で……」
「そうじゃな。それにもう三日風呂に入っておらぬ。宿に戻り体を清めたいのじゃ」
「ニャ! みんな臭いニャ! 一度、綺麗にするニャ!」
「ああ、風呂に入りてえな。決まりだ! 戻ろうぜ!」
アリー、カレン、レイアが、非常に女性らしい意見を述べた。
まあ、このボス部屋にいる冒険者全員が思っているよ。
レッドドラゴン討伐は完了したと。
冒険者ギルドのビアッジョさんが、このまま調査に行って一度に済ませたい気持ちは理解できるけれど、俺たちは気持ちが切れてしまっている。
集中力を欠いたまま、五十階層を探索するのは危険すぎる。
「わかりました。それでは、ヴェネタの街に帰りましょう。私も家族に会いたいですし。教団地獄の火がいるのかどうか調べるのは、別依頼とします」
俺たちはヴェネタに戻る事になった。
それは良いのだが、こんな時に一言も、二言もありそうなハンスが終始無言だった。
俺は不気味に感じ、嫌な予感が止まらなかった。
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