4-9 あっ……! 三日目:レッドドラゴン討伐

 ――レッドドラゴン合同討伐。ダンジョン探索三日目。


 間もなく四十階層のボス部屋らしい。

 紅の戦斧、アドリアン・アドニス、ルーレッツの順番で探索中。


 俺たちは、何か企んでいそうなハンスに注意しながらダンジョンを進むが……。


「何もないな……」


「野郎、動かねえな……」


「ニャ……」


「うーむ。何か企んだと思ったのじゃが……」


「普通なんだよ……」


「おかしいわねえ……」


 何も行動を起こさない。

 不審な点がない。


「ま、まあ。良いじゃないですか! 私は何もない方がありがたいですから」


 ギルド職員のビアッジョさんとしては、そうだよね。


「ニャ! ボス部屋が見えるニャ! 前へ行ってくるニャ!」


 カレンの目が遥か先にボス部屋を見つけたらしい。

 俺たちには、まだ見えない。

 薄暗い石造りの通路が続いているだけだ。


「ナオト!」


 全体リーダーのアドニスさんが俺を呼ぶ。


「ちょっと前へ行ってくる」


「おう!」


 俺に代わって、カレンが最後尾に入った。


 アドニスさんの側に来ると、紅の戦斧のひげもじゃドワーフさんもいた。

 歩きながら三人でボス戦の打ち合わせを始める。


「それじゃレッドドランゴンが出ると仮定してだ。最初はナオトの所に、いつものパターンをやってもらうのでどうだ?」


 おっとアドニスさんからご指名だね。

 いつものパターンと言うと――


 エマ闇魔法『バインド』必中先制

 ↓

 敵の動き拘束

 ↓

 俺の射撃

 アリーの魔法攻撃


 ――だな。


 一緒に探索しているので、すっかり覚えられてしまった。


「良いんじゃねえか? 足止めと開幕攻撃は、ナオトの所に任せて、俺たちはその間に陣形をしっかり作ろう。時間があれば、一発かます!」


 ひげもじゃドワーフさんも賛成してくれる。


「ありがとうございます! じゃあ、俺はこいつを、ブチかましますよ!」


 俺は腰にぶら下げたマジックバッグから、特殊な矢を取り出す。

 木製の矢だが、先端が青く美しく光っている。


「おっ! そいつは! 属性矢か!」


「かっー! 高かったろう? 準備良いな! オマエ!」


 ひげもじゃドワーフさんが、バンバン背中を叩く。

 うう、痛いです。


 この属性矢と言うのは、矢の先端部分、つまり鏃がミスリルで出来ている。

 ミスリルと言うのは魔力の通りが良い金属なのだそうだ。


 で、このミスリルの鏃に水属性の魔石を合成すると……あーら、不思議!

 水属性の矢が出来上がり!


 ただし、値段はお高くて一本10万ラルク!

 それも使い捨てだよ! おっかさん!


 まあ、でも、ドラゴンデビュー戦だからね。

 俺は万全を期す!


 レッドドラゴンは、火属性の魔物。

 水属性は弱点だ。


 この水属性の矢を、開幕一発目にぶち込んでやる!


「よし! ナオトの気合はわかった! それなら良い事を教えてやろう」


 アドニスさんが、ニンマリと笑う。

 うん?

 良い事?

 何だろう?


「ドラゴンの弱点だがな、逆鱗を狙え!」


「逆鱗?」


「そうだ。ドラゴンの胸元に一か所だけ逆さの鱗がある。そこがドラゴンの弱点だ。ここに攻撃が決まると、ガツーンとダメージが入る訳だ!」


「なるほど! わかりました! ピンポイントで狙ってみます」


「よし。逆鱗は胸元から首の付け根辺りにある。個体によって、位置はバラバラだ。落ち着いて探せ。あとは、色が少し薄い」


「色ですか?」


「ああ、レッドドラゴンは、その名の通り真っ赤なんだが、逆鱗は少し薄い赤、ピンクっぽい色をしている。そこを狙え」


「わかりました! ありがとうございます!」


 こうして俺たちの役割が決まった。

 開幕一発攻撃したら、後は入り口近くでギルド職員のビアッジョさんを守る。


 主攻撃は、右側からアドリアン・アドニス。

 副攻撃は、左側から紅の戦斧。


 まっ、俺たちは見習い扱いだから、最初にちょこっと攻撃させて貰って、後は見学って感じだね。


 そして、ボス部屋に到着。


「行くぞ!」


 アドニスさんの掛け声で、それぞれ決められた場所に駆け込む。

 アドリアン・アドニスは、右方へ。

 紅の戦斧は左方へ。


 俺たちは入り口、入ってすぐに足を止める。

 レイア、セシーリア姉さんが、アンチマジック処理した鋼鉄製のタワーシールドを構える。

 その後ろにギルド職員のビアッジョさんが入り、周りを俺たちが固める。


 エマとアリーが魔法の詠唱を開始する。

 俺も属性矢を弓につがえボスの登場を待つ。


「来たぞ!」


 ひげもじゃドワーフさんの声

 部屋の中央に煙が集まる。


 魔物は……。


「レッドドラゴン! 本当に違うボス魔物が出ましたね!」


 ギルド職員のビアッジョさんが、裏返った声を出す。


 ボス部屋中央に現れたのは、いかにもと言った感じの凶悪な真っ赤なドラゴンだ。

 大型バスより大きな体躯、長い首と尻尾、鋭い爪と牙、そしてこちらを威圧する目。


 レッドドラゴンは、出現してすぐに、こちらを威圧するように後ろ脚だけで立ち上がり雄叫びを上げた。


「GYAAAAAAAA!」


 耳をつんざき、身をすくませる。

 だが、俺はグッと堪え、間髪いれずに指示を出す。


「エマー!」


「バインド!」


 いつもより気合の入ったエマの声がボス部屋に響いた。

 同時に床から無数の黒い手が伸びて、レッドドラゴンを拘束する。


 逆鱗はどこだ?


 探しながら俺はスキルを一つ呼び出す。


「集中……!」


 色違いの鱗……薄い色……胸から首元……。


 あった!

 首の付け根辺りに、色の違う鱗を見つけた!

 濃いピンク色で……他の鱗と方向が逆さまだ。

 あれに間違いない!


 スキル集中が、逆鱗に照準をピタリと定めてくれる。

 行ける!


「喰らえー! 水属性矢の! パワーショット!」


 俺の放った矢は、音速を超え、ソニックブームを伴いレッドドラゴンへ飛ぶ。

 瞬く間もなく、俺とレッドドラゴンの間を飛び、水属性矢が逆鱗に着弾した。


 レッドドラゴンの逆鱗が粉々に弾け飛び、青く光る水属性矢がレッドドラゴンの赤い体躯を青へと変えていく。


 やがて……。


「GIAAAAA!」


 レッドドラゴンは、砕けて散った。

 砕けたドラゴンの体は煙になって消えた。


 ……。


 ……。


 ……。


 あれ?

 倒しちゃった?


「あっ!」

「えっ!?」

「おいっ!」

「ウソだろ!?」


 ボス部屋の中がざわつく。

 やばい。

 見習い扱いの俺たち……、と言うより俺が一撃でレッドドラゴンを倒してしまった。


 これ……良かったのか?


 ギルド職員のビアッジョさんが、顔を引きつらせながら作り笑顔で俺を祝福した。


「お、お、お、お、おめでとうございます。これで、ナオトさんもドラゴンスレイヤーですね!」

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