4-3 赤の1番 神のルーレット

 ――翌朝。


「さあ! ナオトよ! やるのじゃ!」


「ええ……アリー……やらなきゃダメ?」


「ダメじゃ!」


「ううん……しょうがないな……」


 俺は、アリーたちに迫られている。

 神のルーレットを、番号順に調べろと言われているのだ。


 今までは『旅行中だから』とかなんとか言って、逃げて来たのだ。

 だが、昨日、新しい街ヴェネタに到着し、高級旅館『さざなみ亭』にチェックインした。


 俺の一人部屋に、レイア、カレン、アリー、エマ、セシーリアさんが、朝イチで押しかけて来て『もう、落ち着いた事だし、調べろよ!』と詰め寄ったのだ。


「ホントにやるの? ドラゴン討伐の出発はあさってだよ。今日、明日しか準備期間がないのに――」


「何をグズグズ言うておるのじゃ? 時間がないから、さっさとやるのじゃ!」


「わかりましたよ……」


 嫌な予感しかしない。

 神のルーレットは、倍率がポンコツ仕様なのだ。

 一体何が起こるか……。


「ルーレット! カーム! ヒア!」


 俺は渋々神のルーレットを呼び出した。

 目の前が光りに包まれ、ルーレット台が姿を現す。


「これが……噂の……」


 初めて見るセシーリアさんは、目をウルウルさせている。

 まあ、神々しさもちょっとはあるよな。


「ニャ! ここニャ! ここニャ! 1番ニャ!」


 ネコ獣人カレンが、ブンブン腕を振り回しながら、ルーレット台の赤の1番を指さす。


「カレン。興奮し過ぎだよ……」


「ニャ! ニャ! ニャ! ニャ! ニャ!」


 あかんヤツだ。これ。

 カレンは絶対にギャンブルをやってはいけない。


 俺は赤の1番に白銀のコインを三枚置く。

 これでベット完了だ!


 自動でルーレットの回転盤がゆっくりと回り始める。

 そして、いつものように、白いボールが自動で投入された。


 回転盤の側面を白い小さなボールがクルクルと回る。

 カレンの目もクルクルと回る。


 俺は白いボールのスピードが遅くなった所で、ボールを拾い上げ、回転盤の赤1番のポケットにそっと入れる。


「な、なにかニャ? なにかニャ?」


「楽しみなんだよ!」


 カレンとエマが、手を握り合っている。

 みんなジッと、期待して結果を待っているね。


 ルーレットがゆっくりと消えてなくなり、空中に文字が浮かび上がった。



《赤の1:金貨 倍率:36倍×36倍×36倍 金貨46656枚獲得》



「ニャ!」

「うわっ!」

「金貨じゃ!」

「なんだよ!」

「凄いですわあ!」


 次の瞬間、空中から金貨が滝のように降って来た。


「ニャー! すごいニャ! 金貨の海で泳げるニャ!」


 床に積もった金貨の上で、カレンがクロールを始めた。


「これだ! これだから嫌なんだ!」


 このぶっ壊れルーレットめ!


 降って来たのは10万ラルク金貨だ。

 10万ラルク金貨が、46,656枚。


 つまり――


 46億6560万ラルク


 ――だよ。


 相場は1ラルク=1円です。

 日本円にして46億オーバー。

 

 本当にありがとうございました。

 満腹すぎです。


「どーすんだよ! こんな沢山の現金!」


 アリーとセシーリアさんは、神に感謝の祈りを捧げ、エマは口をひょっとこみたいにして固まっている。

 カレンは、バタフライで大はしゃぎ。

 唯一、レイアが……寝てるよ……。


 どこかの国でロトくじに高額当選して、人生が狂ってしまった人のニュースがあったな。

 もう、そんな感じ。


 とりあえず俺はレイアを揺り起こして、カレンを止めて貰う事にした。


「レイア! レイア!」


「ん? おお! 終わったか! うわ! また、スゲエ事になってんなあ!」


「カレンを止めてくれ! はしゃぎ過ぎだ!」


「おお! わかった! カレン! 落ち着けよ!」


 とにかく片付けますか……。

 俺は床に落ちた大量の金貨を袋に詰め出した。

 俺が動き出した事で、みんなも手伝い始めた。


「ナオトよ。神の御業とは凄い物じゃな」


 御業って言うより、計算間違いだけどな。


「だから、嫌だったんだ。こんなに沢山の金貨どうするよ?」


「活動資金に当てれば良いじゃろう? ナオトは、魔王の足跡を調べてみるつもりなのじゃろうて。それは神のご意思に沿うじゃろう?」


「まあ、そうだね」


「ならば、この金貨をわらわたちの活動資金に使えば、神はお喜びになるじゃろう」


「あー、まー、そうだね……」


 何かすっかり言いくるめられてしまった。

 まあ、今日と明日で、装備品を買ったり、ポーションや野営道具を買う予定だから、お金がある分には困らないけれど。


 俺が自分を納得させていると、セシーリア姉さんとアリーがお喋りをしていた。


「私! 新しいワンピースが欲しかったのお!」


「わらわもじゃ。後で、服屋を回ってみるのじゃ」


 ……き、聞かなかった事にするよ。

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