4-4 やる気あんのかスイッチ

 ――レッドドラゴン討伐。出発の朝。


「ホントによう! おめーら、やる気あるのかよ!」


 俺は、今、絶賛怒られ中である。


 この二日間、俺はレッドドラゴン討伐の準備に忙殺された。


 ・ポーションや野営道具など備品類の買い出し。

 ・弁当の手配、購入。

 ・パーティーメンバーの装備品購入。

 ・冒険者ギルドでの手続き、打ち合わせ。


 これ、全部リーダーの俺がやる。

 もちろん、パーティーメンバーの装備品購入は、みんなにも付いて来て貰った。

 だが、彼女たちはこの二日間基本お買い物をしていたのだ。

 お洋服とか、お洋服とか。


 今、その成果が花開いているのです!


「だーいたいよー! なんで装備品を身に着けずに、そんなヒラヒラした服を着てんだよ! あー!」


 そうです。

 ウチのパーティーメンバーは、俺以外お買い物でゲットした服を着てレッドドラゴン討伐に向かうのであります。

 なんでも、お披露目だそうです。


 レッドドラゴンが居るルピアの街のダンジョンまで、馬車で二日移動する。

 この辺りは治安も良く、魔物も、盗賊も出ないそうです。


 ならばお買い物した服をお披露目して何が悪い!

 という理屈だそうです。


 さて……。

 レッドドラゴン討伐は、4パーティー合同の討伐作戦になった。

 参加パーティーは以下の通り。


 ・アドリアン・アドニス 6人 平均レベル70

 ・紅の戦斧 5人 平均レベル60

 ・ハンスと仲間たち 4人 平均レベル50

 ・ルーレッツ 6人 平均レベル40(一人はレベル64)


 俺たちは、パーティー名を『ルーレッツ』に変更した。

 念の為だね。

 教団地獄の火から、追手がかからないとも限らないからさ。


 レッドドラゴン討伐の適性レベルは、平均70。

 パーティー『アドリアン・アドニス』が、主力と言う訳だ。

 リーダーのアドニスさんが、本作戦のリーダーを兼務する。


 平均レベル60の『紅の戦斧』が、攻撃の補佐役。

 平均レベル50の『ハンスと仲間たち』と平均レベル40の俺たち『ルーレッツ』は、見習い同行って感じだ。


 そして、さっきから俺にグチグチ文句を言っているのは、『ハンスと仲間たち』のハンスさんだ。


 朝、冒険者ギルド前に集合して、顔合わせだったのだが……。

 ウチのメンバーが、いわゆる私服で来たのが気に入らないらしい。


 それで、ハンスさんのスイッチ、いわゆる『やる気あんのかスイッチ』が入ってしまった。

 ハンスさんは、細身で神経質そうな感じ。

 嫌な事に俺と同じ弓士なんだよなあ。

 説教長いな。


 あまりにも長い説教に、アドニスさんが見かねて止めに入ってくれた。


 アドニスさんは、縦よりも横が長い体格のムキムキ青年。

 金髪巻き毛で、地球のギリシアっぽい感じのイケメンだ。


「オイ! ハンス! 良い加減にしろ!」


「けど、アドニスさん! こいつらの仕事に対する姿勢が許せないッスよ!」


 どこかで聞いた事があるような、セリフだな。

 転生前の日本だったか、『仕事に対する姿勢』。

 あー、すいませんでした(棒)。


「ナオト君だっけ? 装備も持って来ているだろ?」


「アドニスさん、もちろんですよ! ちゃんとマジックバッグに仕舞ってあります」


「なら、良しだ」


 アドニスさんは、納得してくれたが、ハンスは納得しなかった。

 口を尖がらせて、俺に突っかかる。


「良かないッスよ! オイ! 良いか! おめーら見習いのクセに、なっちゃいねーんだよ! 見習いって立場をわきまえろよ!」


 いや、もう、本当にうんざりするな、コイツ。

 確かに、イザという時に備えろ的な意味で、装備品を身に着けておけって言うのはわかるよ。

 仕事への姿勢ってのも、わからなくはない。


 けど、もう良いだろう!

 どれだけ長い時間グダグダ説教かまして来るんだよ!

 さすがに温厚な俺、日本での社畜歴の長い俺でもキレるぞ!


 俺がブチ切れそうになると、『紅の戦斧』リーダーのひげもじゃドワーフさんが、話に割って入った。


「オイ! ハンス! ドラゴン討伐に関しちゃオマエも見習いだぞ? 見習いって立場は、オマエだって同じだぞ?」


「いや、まあ、そうッスけど……」


「オマエこそ立場をわきまえろ! 人に説教できる立場じゃないだろう! いつまで出発を待たせるんだ!」


 俺は心の中でドワーフさんに拍手を送る。


(そうだ、そうだ、わー、わー)


 まあ、そうだよね。

 だいたい、さっきから見ているとこのハンスってヤツは、自分より上の人にはペコペコして、下の人にはガンガン行くタイプだ。


 その証拠にハンス以外のパーティーメンバー三人は、首輪をつけた奴隷だ。

 正直、元奴隷の俺としては、気に入らない。


「よーし! じゃあ、出発だ! 行くぞ!」


 アドニスさんの一声で、出発になった。


(ハンスが問題を起こさなければ良いな。こっちにからむなよ……)


 俺は、そんなフラグが立ちそうな事を考えながら、大型の幌馬車に乗り込んだ。


 馬車は二台で割り当ては――


 1号車:アドリアン・アドニス、ルーレッツ

 2号車:紅の戦斧、ハンスと仲間たち、ギルド職員


 ――となった。


 ギルドの職員は、異常事態の調査の為に、今回特別に同行するそうだ。

 ハンスと仲間たちが護衛役を務める。


 馬車の中はわきあいあいとした良い雰囲気になった。

 アドリアン・アドニスには、狼系の獣人さんがいて、ネコ獣人のカレンとすぐに打ち解けた。


 あちらのパーティーは全員男性で年齢は30代後半と俺たちより高めだ。

 なので、俺たちは娘や息子みたいに見えるらしい。

 特にちびっ子魔法使いのエマは可愛がられている。


 無駄に色気があるセシーリアお姉さんも、モテモテだ。

 あの人の色気が無駄じゃないと初めて思った。


 俺はリーダー同士と言う事で、アドニスさんとお話をした。


「ホントにすいません。出発前にゴタゴタして……」


「なーに、構わんよ! まあ、俺たちからすれば、たまにはこう言う女性の多い華やいだ雰囲気も悪くないよ。装備はダンジョンに着いてからで十分だ」


「はあ。そう言って頂けると助かります」


「まあ、あれだよ。ハンスがうるさいのがな! あんなのだから、あいつは人望が無いんだ」


「ああ、メンバーは奴隷で揃えてましたよね」


「そう。あいつと組みたがる冒険者がいないのさ」


 予想通りの回答が返って来たな。

 やっぱアイツ、やなヤツ。


 この後、俺は情報提供と言う事で、教団地獄の火について話をした。

 アドニスさんはかなり真剣に聞いていて、細かい事まで質問された。


「むむむ……北の方は、そんな事になっているのか……大変だな……。その話は、ヴェネタの冒険者ギルドには?」


「担当に伝えました。上に話すと言ってましたよ」


「それで今回に限ってギルド職員が付いて来たのか……」


 時間はあっと言う間に過ぎて、夕方中継地の街についた。

 するとギルド職員が、アドニスさんに泣きついて来た。


「あの……護衛役を『ハンスと仲間たち』から、変えてもらえないでしょうか?」


 中年眼鏡のギルド職員はゲッソリしている。

 七三分けの銀髪に哀愁を感じる。


「何かありましたか?」


「あの……リーダーの方の『俺は強い』『俺は凄い』アピールが、あまりにも酷くてですね……」


「ああ……」


 このギルド職員のおじさんは、『俺TUEEEEEEE』自慢を馬車の中でずっと聞かされたんか……。

 聞いていて、こっちまで悲しくなる話だ。


 相談を持ち掛けられた、アドニスさんも遠い目をしている。


「えーっと……ナオトの所は、盾役が二人いたよな?」


「はい。セシーリアさんが、レベル64で、ジョブがテンプルナイトです」


「おっ! なかなかハイレベルだな! もう一人は?」


「背の高いレイアがレベル40。ジョブは戦士。彼女は、ティターン族だから硬いですよ」


「ほう、ティターン族か! 噂には聞いた事があるが、本当にいるんだな!」


「あと、今回は、防御重視でタワーシールド二枚を装備させます」


 タワーシールドは、大楯とも言われる。

 盾の後ろに体がすっぽりと隠れる。


「ほうほう。準備が良いな! タワーシールドは、鉄製か?」


「鋼鉄製、アンチマジック処理済み。ドラゴンブレスも三発まで、耐えられるそうです」


 この世界のドラゴンは、ドラゴンブレスを吐く。

 魔法攻撃に近いらしく、アンチマジック処理をした装備品なら耐える事が可能だ。


 今回はアンチマジック処理をした大きなタワーシールドを二枚買った。

 前衛の二人、レイアとセシーリアさんに持たせて、ドラゴンブレスが来たら、二人の後ろに隠れる作戦だ。


「うん、それなら大丈夫だろう。じゃあ、ギルドの職員さんは、ナオトの所で面倒を見てくれ」


「わかりました。引き受けます」


 俺はギルド職員に大いに同情していた。

 だから、二つ返事で引き受けたのだ。


 ギルド職員の七三分け眼鏡おじさんもホッとしたようで、表情が柔らかくなった。


「助かりました。私は、ビアッジョと申します。よろしくお願いします」


「ナオトです。『ルーレッツ』のリーダーをやっています。ウチのパーティーは、俺以外は女性なので、ちょっと騒がしいですが……」


「ははっ! いや、あの人の大言壮語に比べれば、女性のおしゃべりなど、そよ風みたいなものですよ」


 こうして、俺のパーティーに、ギルド職員の護衛と言う仕事が回って来た。

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