第4章 ヴェネタ共和国編

4-1 いきなりドラゴン退治をふるな!

「あれがヴェネタか!」


「うわ! きれい!」


 船から見るヴェネタの街は、輝いて見えた。

 とにかく大都会で建物が、隙間なく並んでいる。


 高い尖塔、アーチが美しい寺院、白い壁に赤い屋根の背が高い集合住宅。

 街が海の上に浮かんでいるようだ。


 季節は初秋。

 ヴェネタに上陸すると美味しそうな匂いをさせた屋台が出迎えてくれた。


 特に焼き栗が女性陣に大人気だ。

 俺たちも早速焼き栗を購入して頬張る。


「ニャ! ホクホクして、美味しいニャ!」


 カレン良かったな。

 早速美味い食べ物にありつけたな。


「まだ、昼前じゃ。ナオト、どうするのじゃ?」


「とりあえず、冒険者ギルドへ行ってみよう」


「了解じゃ」


 ヴェネタは、街中に水路が巡らされている。

 タクシー代わりのゴンドラに乗り込む。


「冒険者ギルドへお願いします」


「あいよ」


 麦わら帽子にボーダーのシャツを着た船頭が、一本のオールでゴンドラをこぎ出した。

 ゴンドラはノンビリと水路を進む。

 いくつものアーチ状の橋の下をくぐり抜けて、水路から水路へと。


「お客さん。ヴェネタは、初めてかい?」


「ええ」


「よっしゃ! それじゃあ、歌のプレゼントだ!」


 良く日に焼けた肌にがっしりとした体格のベテラン船頭が、朗々と歌いだした。



 さあ、乾杯だ!

 愛しい君よ。

 銀月の女神よ。


 僕の愛は、あなたのもの。

 あなただけのもの。


 銀月の弓を引き絞り、僕の胸をつらぬいて。

 新月になる前に、新月になる前に。



 船頭には、チップをはずんでおいた。


 ヴェネタの冒険者ギルドは、大きな広場に面していた。

 白い石畳で舗装された広場には、冒険者やら商人やら、沢山の人でごった返していた。


 その広場の右側にある三階建ての建物が冒険者ギルドだ。

 横に長い白い石造り。

 アーチが美しい。

 剣と盾を模したレリーフが、建物の中央に彫り込まれていた。


「何と言うか……外観からちがうのじゃ……圧倒されるのう……」


 お姫様のアリーが思わずつぶやく。


「そうだな。文化が違うと言うか、洒落てるよな」


「うむ。我らエルフの自然を生かした街も良いのじゃが、このヴェネタの人の手で細部まで作り込まれた感じは圧倒されるのう」


「わかるよ。柱一つでも、丁寧に石を削って、レリーフが掘られたのがわかるよね」


 冒険者ギルドの中に入ると、さらに凄かった!

 とにかく広い!

 そして造りが立派!

 どこの王宮だよ!


 それに、人が多い。


 冒険者は、朝一で仕事に出かけ、夕方帰って来る。

 だから、一番混むのは朝一と夕方なのだ。

 昼前の冒険者ギルドなんて、ガラガラと相場は決まっている。


 なのに、ここヴェネタの冒険者ギルドは人で溢れている。


「お! おい! 手をつながねえか? はぐれちまうぜ!」


 いつもイケイケのレイアが気弱な声を出した。

 さすがにこの混雑じゃな。

 びっくりするよ。


 みんなで手をつないで、手近なカウンターへ進む。


「すいません。他所の冒険者ギルドから、この街へ来たのですが――」


「ああ、それならあっちのカウンターかな」


 若いグルグル巻きの金髪男は、少し離れたカウンターを指さした。

 白いシャツに茶色いチョッキを着て、胸元を少し開けて着崩している。

 なかなかの伊達男に見える。


「どうも」


 伊達男に礼を言って、指さされたカウンターに向かう。


「すいません。他所の冒険者ギルドから、この街へ来たのですが――」


「ああ、それなら奥のカウンターじゃないかしら」


 今度は赤髪をアップにまとめたお姉さんが、建物奥のカウンターを指さす。

 白シャツのボタンを弾き飛ばしそうな胸に見とれそうになりながら礼を言う。


「どうも、ありがとう」


 こうして俺たちは、カウンターからカウンターへぐるぐるたらい回しにされた。

 とにかく案内がテキトーなのだ!


『ここじゃない』

『確か、あっちだと思う』

『右奥だった気がする』


 確定情報を誰かくれよ!

 一時間くらいグルグルとカウンターからカウンターへ移動していると、建物の隅にある人気のないカウンターにたどり着いた。


 カウンターにいるのは長い黒髪の色っぽいお姉さんだ。


「すいません。他所の冒険者ギルドから、この街へ来たのですが、手続きをお願いできますか?」


「他所から? 僕たちは、どこから来たの?」


 いきなり僕扱いか。

 まあ、まだ十三歳だからお姉さんから見たら子供扱いも仕方ない。


「ピョートルブルグです」


「それ、どこ?」


「えーと、ずっと北の方にある街で……。聖エーメリッヒ帝国の帝都です」


「エーメリッヒ……。随分遠くから来たのね……。いいわ! 私があなたたちの担当になってあげる。あなたは、私と同じ黒髪黒目だしね。私はカテリーナよ。よろしくね!」


 カテリーナさんは、大きな口を横に広げてニッと笑った。

 唇が肉厚だな。眉毛も濃くて、なかなか濃い目の美人だ。

 外国に来たって感じだ。


 それに服装も垢抜けている。

 黒のすっきりした肩の出るワンピースに、銀の大きめのネックレスを胸元にキラリ。

 ピョートルブルグより洗練されていて、ここが都会なんだと感じさせられる。


「よろしくお願いします。俺がナオトで、こっちの長身の槍使いがレイア。ティターン族です。それから――」


 パーティーメンバーを紹介するとカテリーナさんは、黒い目を丸くして驚いた。


「珍しい種族が混じっていて、なかなか面白いパーティーね!」


「ええ。まだ若いけれど、みんなレベル40超えてますから」


「レベル40!? みんな十三、四に見えるけれど?」


「そうですね。セシーリアさんは、お姉さんですけれど。みんな十三歳、エマは十二歳です」


「やるわねえ。こりゃ、アタリを引いたかな……」


 なんかちょっと気になる。

 カテリーナさんの、アタリ発言もだけれど、ひょっとして……。

 ここヴェネタの冒険者ギルドは……。


「カテリーナさん。ここの冒険者ギルドの受付は、担当制ですか?」


「そうよ。担当している冒険者が活躍すると、私たち受付のお給料が上がるの。みんなアタリの冒険者を引きたいのよ」


 それでか!

 あちこちたらい回しにされた理由がわかった。

 俺たちがガキばっかりの冒険者だから、ハズレと思われたのか!


 受付カウンターでたらい回しにされた事を、愚痴るとカテリーナさんはニコッと笑った。


「ようこそ! ヴェネタへ! 自由の街へ!」


「いきなり都会の洗礼ですか?」


「まあ、そんな怒らないでよ」


「それより。お仕事一件やらない?」


「どんな仕事ですか?」


「ドラゴン退治!」


 いきなりドラゴンかよ!

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