閑話3 ヴェネタ共和国へ

 ――翌日。


 午前中は、あちこち慌ただしく挨拶を済ました。

 ま、そんな知り合いもいないけれど、それでも異世界に来てご縁を紡いだ人たちだ。

 挨拶くらいはね。


 ラリットさんは、港まで見送りに来てくれた。


「じゃあ、ナオトの兄ちゃん、道中気を付けてな」


「ありがとうございます。先に行ってますね」


 ラリットさんも、この国から脱出する予定だ。

 だが、パーティーメンバーの意見のとりまとめや家族を説得するのに、まだ時間がかかる。

 俺たちの後でヴェネタ共和国へ移動する段取りになった。


「ラリットさん。これ銀貨です。引っ越しや移動で何かと物入りでしょうから……」


 俺はマジックバッグから、銀貨の詰まった袋を取り出した。

 三つほどラリットさんに押し付ける。


「オイオイ! いけねえよ! 兄ちゃん!」


「いえ、受け取って下さい。ヴェネタ共和国へ移動するのに、お金がかかりますから」


「いや、けどよう……」


「ご家族に! そう言う事で受け取って下さい」


「かなわねえな。いや、家族にと言うなら、ありがたく頂戴するぜ。ありがとよ!」


 カラーン!

 カラーン!

 カラーン!

 カラーン!


 船の出航を告げる鐘が鳴った。

 行かなきゃ。


「あれだな……。ちっこいお嬢ちゃんは、来ねえか……」


 エマは来なかった。

 残念だけれど仕方がない。

 覚悟はしていた。

 けれど、寂しさが胸に込み上げる。


「ええ……仕方ないですね。エマは、家族がこの街に居ますし」


「そうだな。ちょこちょこ、様子を見に行ってやるよ」


「頼みます。じゃあ」


「おう!」


 ラリットさんに別れを告げ、船のタラップを登る。

 船は大型の外輪船だ。

 蒸気機関ではなく、魔力で外輪を回転させるそうだ。


 ヴェネタ共和国まで、十日間の船旅が始まる。

 船に乗り込み街の方へ目をやると、誰かがこちらに走って来るのが見えた。

 あれは……。


「カレン! あれは!」


「ニャ! エマだニャ!」


 やっぱりそうか!

 来てくれたんだ!


 俺たちは急いでタラップを降りて、埠頭の係員に声をかける。


「ちょっと待って! もう一人来ました!」


「まだ乗るニャ!」


「エマ! 早く来い!」


「おおエマ! よく来たのじゃ!」


「エマちゃーん!」


 埠頭に降りるとエマが元気よく駆け込んで来た。


「ハア、ハア……。みんな! お待たせなんだよ!」


 大きな帽子に長い杖。

 相変わらずのちびっ子魔法使いスタイルだ。


「エマ! よく来た! 一緒にヴェネタ共和国へ行けるのか?」


「うん! あのね! 家族もヴェネタに引っ越すんだよ! おばあちゃんも、お母さんも、お姉ちゃんも、後からヴェネタに来るんだよ!」


「えっ!?」


 あ、家族ごとヴェネタ共和国へ来ることになったのか?

 それは……、驚きだな。


「色々話をしたんだよ。そしたら、この国にいるよりも、他の国の方が安全だろうって。それで、お店を閉めて家族みんなでヴェネタに行く事になったんだよ! わたしだけ先に行くんだよ!」


「それは、良かった! 家族も来るなら安心だ!」


「うん! 良かったんだよ!」


 また、このメンバーで冒険が出来る。

 俺は嬉しさを噛みしめた。


「さあ、行こう!」

「「「「「おーう!」」」」」

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