3-25 Don't Look Back In Anger

「この街から出ていかないか?」


「またですか……」


 俺たち『ガントチャート』とラリットさんの『力こそ愛』は、冒険者ギルドに報告に来ている。

 俺は、もう、ウンザリとした気分で、副ギルド長ドールンさんを睨みつけた。


 あの後――赤のダンジョン十階層のボス部屋の戦闘は、ラリットさんたちの打撃中心で時間はかかったが安定した戦闘で突破できた。

 俺たちは、無事に地上に戻った。


 地上に戻ったその足ですぐに冒険者ギルドを訪れ、副ギルド長ドールンさんと面会になった。


 ・ダンジョンで再び異常が起きた。

 ・原因は、教団地獄の火が、魔力をダンジョンに流していた事と思われる。

 ・俺たちは教団地獄の火と戦闘になり、四人を倒した。

 ・オルロフ子爵は、十階層のボス部屋で異常発生したヘルハウンドに食い殺された。


 俺たちの報告をドールンさんは、黙って聞いていた。

 そして唐突に、本当に突然に、言い出したのだ。


「ありがとう。君たちの持ち帰った貴重な情報は、冒険者ギルドで精査して対応する。ところで……、この街から出ていかないか?」


「またですか……」


 これで二度目だ。

 最初はエルンストブルグの冒険者ギルドだ。

 ギルド長のシメオンさんは親切だったけれど、領主のエルンスト男爵家ともめたので街を出て行く事になった。


 俺が出て行く事で丸く収まるなら、それで良いんじゃないかと……。

 ギルド長のシメオンさんも困っていたし、それで良いんじゃないかと……。

 そう思って我慢した。


「ドールンさん。俺に出て行って欲しいんでしょ? 貴族ともめたからですか?」


「ああ……その通り……」


 一体この世界の冒険者ギルドは、どうなってるんだ!

 冒険者の事を、ちっとも守ってくれない!


「ちょっと酷くないですか? 俺たちは何も悪くない! 自分の身を守っただけだし、こうして正直に事情を話しに来ました。情報提供をすれば、他の冒険者が助かると思ったからです。それで……俺たちに出て行けと!」


「ああ……、そうだ……」


 思わず怒鳴ってしまった。

 パーティーメンバーたちが、驚いて俺を見ている。

 だが……、自分が抑えられない。


 よくもそんな事を!

 よくも……そんな……。


 ラリットさんが、興奮する俺をがっしりと両腕で抑えた。

 今度はラリットさんが、ドールン副ギルド長に噛みつく。


「なあ、ドールンさんよ! あんまりじゃねえか! こんな若いヤツラが必死に戦って、持ち帰った情報だぞ! わかっているのか? もうちょっと何かないのか!」


「ラリット……。私だってわかっているさ! だが、どうにもならんよ! 教団地獄の火だと!? あそこにどれだけの貴族が参加していると思っているんだ? 少なくとも百は下らんのだぞ!」


「じゃ……、じゃあ……、王族に話を持って行くとか、出来ないのかよ?」


「出来る訳がない! 既に王族も、かなりの数がヤツラに取り込まれている。君たちは、ただ、貴族ともめたんじゃない! 百を超える貴族、王族が名を連ねる教団ともめたんだ! 私では、庇いきれんよ!」


「そんな……、じゃあ、俺たちやナオトの兄ちゃんたちは、どうすりゃ良いんだよ!?」


「外国へ逃げろ。それも遠くだ。教団地獄の火は、隣国にも支部を作っている。隣国は、教団地獄の火が国の中枢部まで食い込んでいるぞ……」


「なっ……」


 それっきりラリットさんは黙り込んだ。


 教団地獄の火は、そんなに力のある教団なのか!?

 そんなに魔王を復活させたいのか!?

 そんなに亜人を殺したいのか!?


「ドールンさん……。教団地獄の火は、魔王を復活させると言っているそうじゃないですか。魔王が復活すれば……、人族だろうが、亜人だろうが、皆殺しになるんじゃないですか?」


「知っているよ……」


「それで……良いんですか? 殺されるのは、ドールンさんかもしれないし、ドールさんの家族かもしれないですよ?」


「ナオト君! 君の言う通りだ! まったくもって君が正しい! だが、もう、手遅れなんだ……。この国は! 手遅れなんだ!」


 ドールンさんは、拳を机に叩きつけて吐き捨てた。

 俺も拳を痛い程握り、奥歯を噛みしめた。


 誰のせいで、こんな目にあったと思っているんだ!

 強い怒りを……、怒り?


 怒り……。

 何に……。

 理不尽さに……。


 クソッ!

 何でこんな世界に転生を!


「知った事かよ! 魔王がどうの! 勇者がどうの! 知った事かよ!」


 俺は副ギルド長の部屋を飛び出した。


「オイ! ナオトの兄ちゃん!」

「ナオト!」

「ニャア!」


 背中で仲間たちの声を聴きながら、何もかも捨ててどこか遠くへ、この世界でないどこかへ行きたいと……。


 俺は強く。

 強く思った。

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