3-26 黄昏に輝く
冒険者ギルドを飛び出し、俺は港に来た。
この街に初めて来た場所だからだろうか。
自然と足が向いたのだ。
波止場に一人で座り、海に向かって足を投げ出す。
ゆらゆらと揺れる海面を、なんとなく見ていた。
もう、夕暮れだ。
昨日からダンジョンにいたせいで、時間の感覚を忘れてしまっていた。
西の方を見ると水平線に陽が沈んで行く。
日本で見た太陽よりも一回り大きい気がする。
カモメが一羽、夕日に向かって飛んで行った。
家に帰るのかな?
どうしようも無い寂しさを覚えた。
そのまま、ぼうっと座っていて、あたりが薄暗くなった頃、後ろから声が掛かった。
「探したぜ」
レイアだった。
俺を探してくれたのか。
ちょっと嬉しい。
「ごめん」
「いいんだよ。気にすんな。ナオトは普段みんなの面倒を見て、色々となあ……。まあ、たまには、ああして爆発するのもいいんじゃねえか?」
「そうかな」
レイアの乱暴だけど飾らない話し方が、とてもやさしく感じる。
「なあ……ナオト……あれだ……。俺はさ。魔王とか、勇者とか、本当にどうでも良いんだぜ」
「えっ?」
「俺は、今、すげえ楽しいんだ。ナオトがいて、カレンがいて、アリーにエマ。五人でダンジョン潜って毎日楽しいぜ」
「うん」
「だからさ。魔王が出て来ない国へ行って、冒険者やるってのも全然アリだぜ」
「……うん」
レイアたちとダンジョンに潜っては、気ままに過ごす日々。
確かに、そんな未来も悪くない気がした。
「アリーはよ……ほら! エルフのお姫様だからな。責任つーか……。魔王を何とかしなきゃって思いが強いから……。ナオトに勇者になってもらいたいんだ。でも、俺は、ナオトが好きに生きれば良いと思うぜ」
「ありがとう」
俺はレイアと取り留めのない話を続けた。
何か……、物凄く嫌な気持ちになって冒険者ギルドを飛び出したが、俺はすっかり気分が良くなってしまった。
「ああ、ほら! カレンが皆を連れて来たぜ!」
「ニャ! ナオト!」
「ナオトじゃ!」
「ナオトなんだよ!」
カレン!
アリー!
エマ!
ああ、ダンジョンで助けたエルフのお姉さんも一緒だ。
「さあ! なんか食おうぜ! 腹減っちまった!」
「そうだね! 行こう!」
俺たちは、街へ繰り出し、皆で食事をする事にした。
勇者になるのか?
その答えは俺の中で、まだ出ていない。
でも、もう、この異世界に仲間がいる。
仲間は守りたい。
守れるようになりたい。
夕暮れ、そして夜が来る。
この異世界の夜は、現代日本ほど明るくはない。
店にはランプが灯り、通りを人々が足早に過ぎて行く。
子供は母親に夕食をねだる。
黄昏が輝いて見えた。
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