3-21 教団地獄の火との戦い 前編

 教団地獄の火に、俺のウソがばれた。

 黒いローブを着た四人が一斉に動き出す。


 だが、こちらも時間稼ぎをしていたのだ。

 準備は出来ている。

 ラリットさんがすぐに反応した。


「全員突撃!」


 ラリットさんを先頭に重量級の戦士が突撃する。

 俺をめがけて真っ直ぐ進んでいた黒ローブの四人を、ラリットさんたちが横合いから殴りつけた。


「オラ!」

「力こそ愛だ! この野郎!」

「ガア!」


 黒ローブの四人は、剣で受けたり、避けたりして直撃は避けたが足が止まった。

 俺と話していたリーダーらしき黒ローブが、すぐに指示を出す。


「こいつら手強いぞ! 方陣を組め!」


 リーダーを先頭にダイヤモンド型のフォーメーションを、すぐに組んだ。

 この四人……連携が凄い。手慣れていると言うか……。

 四人はダイヤモンド型の方陣を組んだまま、素早く後退した。


「速射! 連射!」


 俺は戦闘のリーダー格の男を狙って、スキルを使って二連射で矢を放つ。

 人を射るのは気が引けるが、エルフにナイフを刺して平気な顔をしている連中だ。

 迷っていては、こっちがやられる。

 

 まず、頭を潰す。

 司令塔がいなくなれば、連携が悪くなるはず。


 俺の矢が着弾する寸前、リーダー格の黒ローブが地面に剣を突き立てて叫ぶ。


「風の盾!」


「なっ!?」

「うおっ!」

「マジックアイテムか!」

「クソが!」


 リーダー格の男を中心に、黒ローブと貴族オルロフ子爵を中心に突風が吹き荒れた。

 俺の放った矢は、突風に弾かれてしまう。

 ラリットさんたちも風に弾かれて、壁際まで吹き飛ばされた。


「これ矢が効かないな……。エマ! あの風の盾を操る男を狙え!」


「了解なんだよ! バインド!」


 エマの闇魔法バインドが、風の盾を操るリーダー格の黒ローブに着弾した。


「ぬおぉ!」


 黒ローブは、動きを封じられ剣から手を離した。

 展開されていた風の盾も消えて無くなる。


 チャンスだ!


「速射! 連射!」


 俺が矢を放とうとすると、ダイヤモンドの右側に陣取る黒ローブが動いた。


「ほう。珍しいな同業か……。リバインド!」


「助かる! 風の盾!」


「なっ!?」


「えー!? ウソッ!? なんだよ!」


 どうやらあちらにも闇魔法使いがいるらしい。

 エマの放ったバインドは、リバインドで無効化されてしまった。

 リーダー格の黒ローブは、すぐに剣を拾い。

 また風の盾を展開し守りを固める。


「まだまだ! なんだよ! ポイズン!」


 スレッガー注意!

 エマはすぐに次の魔法を放つ。


「うぐぅ……」


 リーダー格の黒ローブが、剣を手放し、体をかきむしるように苦しみだした。

 毒状態だ!


 再び風の盾が消えた。

 またもチャンスです!


「うおおお! 突撃!」


 ラリットさんたちが肉体攻撃を仕掛ける。

 六人が一斉に斧や剣を振りあげながら、黒ローブへ向かう。

 ド迫力の重量突貫!


 今度はダイヤモンド型の一番奥にいた黒ローブが動いた!

 ローブの中から銀色の長い杖を取り出す。

 何か魔法か?


「キュア!」


 あいつ! 聖魔法を使った!

 回復役……神官か!


 エマが放った毒状態になる魔法ポイズンの効果は、あっさり神官の聖魔法で打ち消されてしまった。


 リーダー格の男が動き出し、剣を拾い立ち上がる。


「ふうう。やるではないか……風の盾!」


「うわっ!」

「またか!」

「ちくしょう!」


 またも風の盾が展開され、ラリットさんたちが跳ね返される。


 なんだよ!

 魔物相手に無双していたエマの魔法が、次々と無効化される。

 俺たちの戦闘パターンが、まったく通用しない。


 対人戦は、こんなに難しいのか!?


 こっちが打つ手、打つ手、全て跳ね返される。

 相手が魔法を使えると言うのもあるし、エマの闇魔法との相性の悪さとか……。

 あの風の盾も俺の矢を無効化する。

 一体どうしたら……。


「ナオト! あぶねえ! 大車輪!」


「えっ!?」


 いつのまにか黒ローブのうち一人が俺の背後にいた。

 長身のレイアが俺と黒ローブの間に割って入り、俺に振るわれた短剣を防御スキル『大車輪』で弾き返してくれた。


「バカ野郎! ボーっとすんな!」


「ご、ごめん!」


 レイアにカツを入れられた。

 いかん、いかん。

 戦闘中だぞ!

 戦いながら、考えなくては!


 一人飛び出して来た黒ローブは、動きが早い。

 盗賊系のジョブか?


「カレンとレイアで、その動きの速いのを抑えて! ラリットさんたちもこっちに合流して、守りを固めて!」


「わかった!」


 こうなったら、まずしっかりと守りを固めよう。


 動きの速い盗賊系の黒ローブは、動きの速いネコ獣人カレンと再生能力のあるレイアで対応する。

 そしてラリットさんたちに周りを固めて貰えば、おれたち後衛は安全……。


 敵の構成は――


 風の盾、盾役の黒ローブ

 闇魔法使いの黒ローブ

 神官、聖魔法の黒ローブ

 盗賊系、動きの速い黒ローブ

 貴族オルロフ子爵


 ――純粋なアタッカーは、盗賊系の黒ローブだけだろう。

 

 貴族がいるからなのか、守り重視のパーティー編成だ。


 人数はこちらが多い。

 もし、盾役の黒ローブが風の盾を消して攻撃に転じれば、こちらは数の力で蹂躙すれば良い。


  こちらも守りを固めれば、少なくとも負ける事は無い。


 あとはラリットさんに情報共有させてもらって、あの風の盾を発生されているマジックアイテムの弱点を教えて貰って……。


「……ポイズン」


 地の底から響くような低い声が聞こえた。


 俺を襲う強烈な熱と痺れ!

 クソッ!

 闇魔法が使える黒ローブが、ポインズンを俺に放ちやがった!


「ぐああ! あ……。うげえ……」


 胃液がせり上がる感覚がして、吐きたいのだが、吐くに吐けない。

 体が上手く動かないのだ。

 もう、立っていられない。


 た、助けてくれ!

 苦しい!


「ナオト!」

「しっかりするんだよ!」

「おい! 兄ちゃん!」


 俺を呼ぶ声が聞こえる。

 だが……だめだ……こんな苦しいのは……。

 は……じめて……だ……。


 消えゆく俺の意識。俺は転生前、日本での死を思い出していた。

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