3-18 九階層イレギュラーボス ヒクイドリ戦

 ダンジョン探索を再開した。


 九階層の魔物は吸血コウモリだ。

 ドロップはクズ魔石。

 買い取り価格は200ラルクなり。


 大きさは手のひらより一回り大きい位で、嚙みついて血を吸う。

 一度に十匹、二十匹とまとめて出て来るので面倒ではあるが、こいつらは弱い。


「ファイヤーウォール!」


 アリーが魔法で火炎の壁を作ると、吸血コウモリは勝手に火炎の壁に突っ込んで行く。

 残りをみんなで片付ければ戦闘終了だ。


 特に問題はない。

 ラリットさんもダンジョンは普通の状態だと言う。


 俺は相当の覚悟をして足を踏み出したのだが、肩透かしを食らった。

 みんなも拍子抜けしている。


 2パーティー合計11人。

 人数が多い分、戦闘時間は早い。

 三時間ほどで九階層のボス部屋前まで来た。


 一休みしてからボス部屋に突入する。

 通常なら九階層のボス魔物は、ジャイアントバットだ。


 大型のコウモリ型の魔物で、攻撃は噛みつきとひっかき。

 ランクはGで、それほど強くない。


「さて……何が出るか……」


 俺たちは部屋に入ってすぐ右側、ラリットさんたちは左側に陣取った。

 ボスが出たら挟み込む形だ。


 ボス魔物出現を待つ。

 部屋の中央に煙が集まり、ゆっくりとボス魔物を象る。


 そして……。


「GYAAAA!」


「ちい! ヒクイドリか!」


 ラリットさんが舌打ちする。

 ジャイアントバットじゃない!

 ボス魔物は普通と違う魔物が出て来た。


 ラリットさんが、ヒクイドリと呼んだ魔物は、地球にいるヒクイドリと見た目は同じだ。

 分類するならダチョウ型の魔物だろうか。

 体高は大きく人の背よりも高い。

 黒い羽毛に覆われていて、首は青く、喉元に赤い肉垂れがぶら下がっている。

 目付きは鋭く、扇子のような金色のトサカがピカピカと光を放つ。


 俺は瞬時にスキル『鑑定』を発動する。


(鑑定!)



 -------------------


 ◆魔物ステータス◆


 名前:ヒクイドリ

 属性:火

 ランク:B


 -------------------



 また、ランクBかよ!

 オーバースペック過ぎるだろう!

 どうやらダンジョンの異常状態は、まだ続いているらしい。


 ラリットさんが大声で。


「ヒクイドリは、火魔法ファイヤーランスを使う。高ダメージの火魔法だ! 受けずに、かわせ!」


「「「ええっ!?」」」


 ラリットさんの指示に何人か戸惑っている。

 わかるよ。

 かわせと言われてもさ……。

 アジリティ、素早さのステータスが高くなきゃ無理だ。


 俺の素早さのステータスはH……。

 いや、厳しい!


「俺たちはいつも通り! エマ!」


「地に巣食う闇の住人よ! 我が敵の動きを封じよ! バインド!」


 いつも通りのオープニングショット、ちびっ子魔法使いエマの闇魔法バインドから戦闘が始まった。


 先制!

 かつ必中!


 ダンジョンの地面から無数の手が伸びヒクイドリの動きを封じる。


「パワーショット!」


 ヒクイドリの体は大きい。

 俺の放った矢が胴体に着弾する。

 同時にラリットさんたちが左側からヒクイドリに襲い掛かる。


「ヒクイドリは魔法防御が強いが、物理防御は弱い! 突撃だ! ブッ叩け!」


「「「「「うおー!」」」」」


 全員が物理担当。

 六人のイカツイ男が斧や大剣を振り回し突撃する様子は、もの凄い迫力だ。

 ヒクイドリが一瞬たじろいで見えた。


 だが、悲しいかな。

 ラリットさんの所は重量級打線だけに、足が遅い。

 ドタドタと走っている間に、闇魔法バインドの有効時間五秒が過ぎてしまった。


「GYAAAA!」


「イカン! 退くぞ! 退いて守りを固めろ!」


 ぐう。

 ラリットさんたちの攻撃は不発!


 拘束から解放されたヒクイドリは、矢を着弾させた俺をロックオン。

 鋭い目つきで叫び声をあげ威嚇する。


 怖い。

 足がすくみそう。

 いや、たぶんすくんでいる。


 けれども頭は妙に冴えている。

 集中している証拠だ。


「レイアは前へ! 物理攻撃を防いで! アリーは魔法攻撃が来た時にウォーターウォールで防御準備!」


「任せろ!」


「承知じゃ!」


 長身のレイアが鉄槍を振り回しながら、ヒクイドリの前へ出る。

 ヒクイドリがサッカーボールキックの要領で前蹴りをレイアに放つ。

 鋭いカギ爪が不気味に光る。


「オラオラ! 大車輪!」


 レイアが防御スキル『大車輪』を発動させて、ヒクイドリの前蹴りをピシャリと抑える。

 ステータスが上がっているから、Bランク魔物の攻撃でもびくともしない。


 俺はその間にレイアの後ろへ後退し、スキル『曲射』でレイアの背後から山なりの矢を放つ。


「曲射!」


 レイアの頭の上を飛び越し、山なり弾道でヒクイドリに着弾した。

 威力は弱いがヒクイドリのHPを着実に削る。

 レイアとヒクイドリが組み合っている間に、二発三発四発五発と曲射で矢の雨を浴びせる


 エマも次の闇魔法の詠唱が終わった。


「ポイズン!」


 エマの闇魔法ポイズンが発動したが……。

 あれ? 効いてない?

 ポイズンは相手を毒状態にするのだが、毒が効けば動けなくなるはずなのだが?


「ラリットさん! こいつ毒は?」


「毒は効かねえ! 魔法も毒もダメだ! とにかくぶん殴れ!」


 毒はダメか!

 早く言ってくれ!


 ラリットさんから視線をヒクイドリに戻すと金色のトサカが激しく明滅した。

 ラリットさんの野太い声が響く。


「魔法が来るぞ! かわせ!」


「アリー!」


「任せい! ウォーターウォール」


 俺とエマがアリーの背後に回り込むとアリーが水魔法ウォーターウォールを発動させて水の壁を作る。

 前線からレイアが下がって来て、水の壁の後ろに滑り込んだ。


「GYAAAA!」


「来た!」


 ヒクイドリが火魔法ファイヤーランスを放つ。

 炎の槍が同時多発で発射された。

 それも全部俺たちの方向だ。


 こいつ!

 ミサイルランチャーかよ!

 何発撃つつもりだ!


「多いのじゃ!」


 アリーが展開した水の壁に次々とファイヤーランスが着弾する。

 水の壁と火の槍に見えるが、その実態は魔力と魔力のぶつかり合い。

 水の壁が消えると直ぐに次の水の壁をアリーは展開する。


 ヒクイドリのファイヤーランスは強力なのだろうが、火魔法と水魔法では水に軍配が上がる。

 ヒクイドリの魔法攻撃は通らない。ヒクイドリの注意が完全にこちらを向いた。


「ニャニャニャニャーン! とったニャ!」


 ヒクイドリの背後にネコ獣人カレンが顔を出した。

 シャドウストライカーかオマエは!


 カレンは助走をつけて高くジャンプすると両手に持った短剣で、ヒクイドリの細い首を切り落とした。

 ゴトリと床にヒクイドリの首が落ち、ヒクイドリは煙になって消えた!


「ニャー! 鳥が猫と戦うなんてお笑い草なんだニャ!」

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