3-12 八階層の魔物ブラッディビーツ
午後、食事を終えて八階層の探索を行う。
この世界は一日二食が標準だけれど、俺は日本時代の習慣でどうしても一日三食にしたい。
「まあ、メシが多い分には、ありがてえよ!」
「ニャ! ご飯嬉しいニャ!」
長身レイアとネコ獣人カレンには、一日三食は好評だ。
「わらわは元々一日三食であったのじゃ」
「王族や貴族は一日三食?」
「そうじゃ」
姫様アリーは、元から一日三食なので問題なし。
ちびっ子魔法使いエマが、苦戦していた。
「ふおおお。沢山食べると晩ご飯が食べられないんだよ!」
どうやら、一日三食のペース配分がつかめないらしい。
これは、もう、慣れてもらうしかないね。
昼のメニューはボルシチとステーキサンドイッチ。
ボルシチは、この辺りの地元料理で真っ赤な野菜入りスープだ。
赤いのだけれどトマトは入っていない。
赤カブを使っているらしい。
地球のボルシチもこんな感じなのかな。
昼飯は宿泊先の宿『木漏れ日の宿』に作ってもらっている。
ただ、この世界は料理のバリエーションがあまりないみたいで、日本人の記憶がある俺は飽きて来た。
時間があったら自分で料理してみるかな。
昼飯が終わって八階層の探索を始めると、ネコ獣人カレンが直ぐに魔物を見つけた。
「まだ、かなり先だけど魔物がいるニャ! 三体だニャ! こっちに向かって来ているニャ!」
「よし! ここで迎撃しよう!」
「「「「了解!」」」」
廊下に迎撃フォーメーションを組んで魔物を待ち構える。
前衛が槍のレイア。
後衛が左から魔法使いアリー、闇魔法使いエマ、弓士の俺。
最後尾で後方警戒が盗賊のカレン。
このフロアから、難易度が上がる。
まず魔物は三体で現れる。
七階層までは二体同時だったので、一体増える訳だ。
さらに……。
「カレン! 後ろをしっかり見張ってくれよ!」
「了解ニャ! さっきの打ち合わせ通り、魔物が出たらすぐに知らせるニャ!」
さらに後方から魔物が攻撃をして来る事がある。
魔物の出現頻度がこの八階層から上がるのだ。
「ナオト。どうしたのじゃ? 少し神経質になっているようじゃが?」
「そうかな?」
「わらわたちのレベルは上がっている。問題なかろう」
アリーの言う通りだと思うが……、それでも戦闘中に後ろをとられるのは避けたいな。
レベルが上がっているとは言え、不利な状況は呼び込みたくない。
「来た……」
ギシギシと木製の床を鳴らして魔物が現れた。
八階層の魔物はブラッディビーツ。
野菜のかぶ型の魔物だ。
白くて丸い胴体から、足が二本伸びていて二足歩行する。
胴体の上に緑色の葉があるのだが、この葉がナイフのように切れるので厄介だ。
戦闘になると葉を高速回転させる。
サイズが大根サイズと小さいので、防御力、体力は弱いが。
戦闘力は高く、素早さもある。
そのブラッディビーツ三体が、前方からこちらに迫って来る。
「ニャ。本当にカブが歩いているニャ。野菜の魔物は初めて見るニャ」
「違和感バリバリだよな」
「本当ニャ。さっさとボルシチにするニャ」
カレンと無駄口を叩いていたら、ブラッディビーツが射程に入った。
前方25メートル。
ブラッディビーツもこちらを認識したらしく、動きが早くなった。
「バインド!」
「パワーショット!」
戦闘のオープニングは、お約束のエマと俺のコンボ攻撃だ。
闇魔法バインドでブラッディビーツを動けなくした所へ、俺の矢が炸裂した。
「先制は正義なんだよ!」
残りのブラッディビーツは二体、二本の足をアスリートのように動かして素早くこちらに迫る。
なんと一体は壁走りをしている!
「チッ! うぜえな! 壁なんて走りやがって!」
前衛のレイアが両足を開いてどっしりと構える。
レイアが構えた所で後衛のアリーが火魔法を発射した。
「ファイヤーボール!」
壁走りをしていたブラッディビーツは、アリーの火魔法ファイヤーボールを正面から食らって焼け落ちた。
すると後方警戒のネコ獣人カレンが声を上げた。
「ニャー! 目の前で湧いているニャ!」
「湧く!?」
レイアの焦りを含んだ声に、思わず振り向いた。
レイアの目の前でダンジョンの床から煙が立ち上り、そこからブラッディビーツが一体、また一体と姿を現した。
こうやって魔物は発生するのか!
合計三体のブラッディビーツが俺たちの背後に現れた。
「レイア! 前は任せる!」
「おう!」
前衛のレイアは鉄槍を振り回し、ブラッディビーツを近づけないでいる。
ブラッディビーツの動きが早く、的が小さい為レイアの鉄槍は空振っているが、あちらは一体だ。任せて大丈夫だろう。
「後ろを片付ける! カレンは左! アリーは右! 俺は中央をやる!」
「「了解!」」
俺が指示を飛ばすと二人はすぐに動いた。
「ファイヤーボール!」
まず姫様アリーの火魔法ファイヤーボールが右のブラッディビーツに着弾した。
一撃で行動不能になり、やがて消えた。
「ニャ! ニャ! ボルシチにしてやるニャ!」
ネコ獣人カレンが襲い掛かると左のブラッディビーツは素早く回避行動をとった。
しかし、カレンは三角跳びの要領で、壁を使ってブラッディビーツを追う。
両手に持った短剣であっさりとブラッディビーツを切り倒した。
「集中! 速射!」
俺が最後に真ん中のブラッディビーツを倒した。
約10メートルの至近距離なら、速射でも相当の威力が出る。
集中で命中率を高め、ハズレもなしだ。
前方ではレイアがようやく最後のブラッディビーツを捉え、鉄槍で払い落とした。
「ふう。ちょこまかと面倒だな。だけど、まあ、問題ねえな」
「そうだな。みんなお疲れ! この階層も問題なさそうだ」
戦闘は安定していた。
このまま午後は八階層の探索を進めよう。
ちびっ子魔法使いエマが、ドロップ品を抱えて来た。
「赤カブが一杯だよ! 今夜はボルシチだね!」
ブラッディビーツのドロップ品は、赤カブ。
この辺りの名物ボルシチの材料になるのだ。
冒険者ギルドの買い取り額は50ラルクと安い。
これは売らないで、宿でボルシチにしてもらおう。
「さあ、ボルシチの材料を集めながら、ボスを目指すよ!」
「「「「おー!」」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます