3-11 七階層の魔物はレッドクレイフィッシュ

「オラ! オラ! 俺がレイア様だ!」


 赤のダンジョン七階層を爆進中です。

 七階層の魔物はレッドクレイフィッシュ。

 真っ赤なザリガニ型の魔物だ。


 中型犬くらいの大きなアメリカザリガニで、両手のはさみが強力。

 挟み込まれると大怪我をする。

 そして硬い殻に守られているので、刃物での攻撃が通りにくい。


 そんな敵には、物理でドン!

 鈍器で殴りつけて殻ごと叩き潰すのですよ。


 その役割は前衛の長身レイア。

 鉄槍を真上から振り下ろして、一撃でレッドクレイフィッシュを叩き潰しています。

 はっきり言って他のメンバーはやる事がない。


 ドロップ品の丸いパンを拾って歩くだけの簡単なお仕事になっている。

 ちびっ子魔法使いエマが、丸いパンを拾う。


「この丸いパンは、いくらで売れるの?」


「冒険者ギルドで一個50ラルクだね」


「安いんだよ!」


「赤のダンジョンは初心者向けだからね。買い取り額が安いドロップ品ばかりさ」


「ふおー。もっと儲かるダンジョンに潜らないと赤字なんだよ……」


 エマの実家はマジックバックを売る『シャルロッタ魔道具店』だ。

 商売をやっている家の子だから、経済観念がしっかりしているのかな?


「ニャー。ナオトは神様のルーレットでお金持ちなのニャ。気にしなくて大丈夫ニャ」


 ネコ獣人カレンは、あっけらかんと言う。

 まあ、そうなんだけどさ。

 エマのようにパーティーの収支をちょっとは気にしてくれよ。

 俺たちガントチャートは、赤字経営パーティーだぞ。


「ニャ! ナオトニャ! 何か美味しい物が食べたいニャ」


「毎日宿で旨い飯食ってるだろ!」


 まったくな。

 カレンはルーレットにも食いついていたし、金遣いが荒いタイプなのかな。

 ちょっと心配だ。


「神が与えしルーレットから得た金は、魔王を倒す為の軍資金じゃ。神に感謝し大切に使わねばならぬのじゃ」


 今朝から俺の敬虔な信徒となった姫様アリーが真面目に言う。

 まあ、その通りだけれど、少しくらいはね?

 マジックバッグの中には、まだタップリ銀貨がある。

 みんなで豪遊しても使いきれないぞ。


「ところでナオトよ。ルーレットの他の数字は、当たると何がもらえるのじゃ?」


「全部は調べていないけれど、銀貨が一番多いね。次が経験値倍増」


「ふむ。では、明日から順番に調べて見てはどうじゃ?」


「うっ!」


 それは……ねえ……。

 敬遠していたのだよ。


 だってさ。

 36倍×36倍×36倍なんて計算がぶっこわれている。

 46656倍だよ!


 銀貨が46656枚は、まあ良い。

 お金は腐る物じゃないし、マジックバッグに入れておけば良い。


 経験値46656倍も、まあ、まだ許容できる。

 強くなるのは良い事だからね。


 強くなれば難易度の高いダンジョンに潜れるし、そうすれば買い取り額の高いドロップ品を得られる。

 魔物も強くなるから、得られる経験値も高くなる。


 うん、銀貨と経験値倍増は、受け入れられるのだ。


 けれどだよ。

 何かトンデモナイ物が、46656倍だったらどうする?


 例えば、ラーメン46656倍、いや、46656杯になるのか?

 食べきれないぞ。

 ウチの美しいパーティーメンバーが、開店前のラーメン屋に並んでいるファットボーイズみたいになってしまう。


 まあ、この世界でラーメンは見た事がないけれど、そう言う『あんまり沢山もらっても、ちょっと困る物』が当たったらどうするのか。


 それを心配しているのだ。


「1番から順に賭けて行けば良いのじゃろ?」


「まあ、そうなんだけど……」


「せっかく神様が与えて下さったのじゃ。感謝し理解を深めようぞ」


「わかった……」


 アリーのピュアな瞳を見たら反論できなかったよ。

 信心深いと言うより、勇者を信仰しているから、気持ちが神にも向くって感じか。


「おーい! カレン! ボス部屋はどっちだ?」


「ニャ! 左ニャ!」


 レイアがレッドクレイフィッシュをひたすら叩き潰しているうちにボス部屋についた。

 レイアと相性が良い魔物な上に、レイアのレベルも上がっているから、安定感があり過ぎる。


「では、明日からは神のルーレットの調査じゃな」


「そうだな」


 そして、俺たちは緊張感が無さ過ぎる。

 みんなおしゃべりをしながら七階層ボス部屋にのんびりと足を踏み入れた。


 部屋の中央に煙が集まり七階層のフロアボスが姿を現した。


「カニか……」


「カニだな……」


「カニニャ……」


「カニじゃな……」


「カニなんだよ……」


 ザリガニ型の魔物レッドクレイフィッシュがいるフロアのボスだから、レッドロブスターがボスじゃないかと考えがちだけど。


 残念カニでした。


「えーと、七階層のボスは、レッドビッククラブで――」


「パワースラッシュ!」


 ぐぼう! と言う鈍い音と共に、七階層のボス魔物レッドビッククラブは、レイアの鉄槍に叩き潰されてしまった。


 いや、ちゃんと調べて来ているのだから、説明くらいさせて欲しいな。

 まあ、レッドクレイフィッシュと特徴は同じだから、以下同文だけれど。


 なぜカニ型は、ザコキャラ扱いなのか。


 昔、戦闘メカザブングルと言うアニメがあったのだけれど、それに出て来たクラブタイプと言うロボットもザコであった。

 正確には、ウォーカーマシンと言うけれど、ガソリンエンジンで動く重機みたいなロボットだ。


 だが、しかし!

 ザコにはザコの味わいがある。

 連邦軍に叩き潰されるザクの悲哀にこそリアルがあるのだ。


「終わったぜ」


「お疲れさん」


 俺も相当に油断しているな。

 思考がとんでもない方向へ行ってた。

 俺もザコキャラにならないように気を付けよう。


 ちびっ子魔法使いエマが、ドロップ品を拾い上げた。


「また、パンなんだよ!」


「カニパンだな。買い取り価格は50ラルク」


「安いんだよ! 食べて良い?」


「良いよ」


「はむううう!」


 カニパンはエマのおやつになったとさ。


「さあ、まだ時間はある。八階層へ降りるぞ」

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